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姫失格 〜恥の多い後宮生活を送って来ました〜  作者: 俊教授 オーバーシー大学
逃亡編
38/42

死地に陥れて然る後に生く

はい、承知いたしました。ご提示いただいた新しい設定に基づき、内容を書き換えます。


「ここもじきに見つかるでしょう。皇帝は、『粘竿処ねんかんしょ』と呼ばれる特務機関を動かしたとの情報があります」

姚明の声が、室内の空気を一瞬にして凍らせた。


「『粘竿処ねんかんしょ』か……」

景皇子が苦々しげにその名を反芻する。

「皇帝直属の密偵スパイ組織……。元は雍正帝が、政敵である兄弟たちを監視し、排除するために組織した影の軍団。蝉を捕る長い竿(粘竿)を操る者たちのように、狙った獲物は決して逃さないと言われる、あの……」


「はい。雍正の御代の後、表向きは解散したとされておりました。しかし……」

姚明は美しい顔を曇らせ、声を潜めた。

「実際には、歴代皇帝の『目』と『耳』として、水面下で脈々と受け継がれております。法の外にある存在、皇帝の影。彼らは宮中の鼠一匹、民間の一言一句さえも聞き逃しません」


「か、宦官たちのスパイ組織……!?」

私は思わず身震いした。

あの「玉」がない人たちが、無表情で、足音もなく、国中のあらゆる隙間から私たちを探している?

想像しただけで、背中に冷たい粘着質な汗が流れる。

彼らは私たちがどこで何を食べているか、どんなパンツを履いているかまで監視しているかもしれないのだ。


姚明は窓の隙間から、油断なく外を窺っている。その横顔は、もはや「弟」のものではなく、プロの警戒色を帯びた「同業者」の顔だった。

「粘竿処の動きは早いです。訓練された猟犬よりも鼻が利く。この村が包囲され、袋の鼠となるのも、時間の問題かと」


緊張がピークに達する。

しかし、景皇子は動じなかった。

彼は深く息を吸い込み、迷いなく決断を下した。

「出発だ。ここには一秒たりとも留まれない」


「どこへ行くのですか? 国内に安全な場所など、もはや……」


「南へ向かう」

景皇子は、煤けた壁に掛かっていた古びた地図を指差した。

その指先は、紫禁城のある北京を遥かに離れ、長江流域の一点――南京を捉えていた。

「あそこは今や、父上…皇帝の力が及ばぬ地。謎の宗教組織『太平天国』が占拠し、実質的な統治を敷いている」


「太平天国……!」

沙龍が息をのむ。それは、朝廷に反旗を翻した、今上帝が最も憎むべき反乱軍の名だった。


景皇子は私を見て、静かに告げた。

「そして何より杏花、そこはお前の父親が関わっていた場所だ」


「えっ……?」

「記憶にないだろうが、お前の父君は太平天国の幹部の一人だった。それゆえに、朝廷によって処刑されたのだ」


その言葉は、雷のように私の頭を打ち抜いた。

錆びついた記憶の引き出しが、勢いよく開かれる。

そうだ……! 最初の観菊の宴のときに、意地悪な側室たちがヒソヒソと陰口を叩いていた。

『あの方、謀反人の娘ですって』

『邪教を信じる賊徒の末裔よ』


あの言葉は、ただの「いじめ設定」なんかじゃなかった。私の父親は、この国を揺るがす組織の幹部で、反逆者として死んでいたのだ。私が宮廷でどこか浮いていたのも、その「設定」があったから……!


「粘竿処とて、太平天国が統治する領域の奥深くまで追ってくることはできまい。最も危険な場所こそが、最も安全な場所となりうる」

景皇子の目は、燃えるような決意を宿していた。

それは、追いつめられた逃亡者の顔ではなかった。敵の懐に飛び込み、一世一代の大勝負を仕掛けようとする野心家の顔だった。


「……はい!」

私は勢いよく立ち上がった。椅子がガタッと鳴る。

不安はある。皇帝の殺意も、粘竿処の追跡も、そして父が関わったという未知の組織も怖い。

でも、それ以上に、体の奥底からマグマのようなワクワクが湧き上がってくるのを感じた。


「わかりました! 行きましょう、南へ! 太平天国だろうがどこだろうが、お供します! 」

私は拳を突き上げた。

「ふっ、頼もしいな」

景皇子が笑い、沙龍が荷物をまとめ、姚明が扉を開ける。


私は部屋の隅で、今一度この奇妙な仲間たちを見渡した。

・天然タラシでATM体質、実は太平天国元幹部の娘という設定を持つ私(山田花子)。

・クールでツンデレ、でも生存理由レベルの重い愛を持つ景皇子(推し)。

・物理攻撃力カンスト、皇子至上主義のヤンデレ侍女沙龍シャロン

・シスコンで毒舌、元・悪徳宦官のスパイ姚明ようめい


パーティーバランスがいいのか悪いのか全くわからない。

RPGなら「回復役不在」「アタッカー過多」「性格悪すぎ」「全員カオス属性」で、最初のボスで全滅しそうなメンツだ。

まともな人間が一人もいない。

だが、退屈しないことだけは確かだ。


「……夜明けだ」

誰かが呟いた。

外に出ると、東の空が白み始め、山々の稜線が金色に輝き始めていた。

朝霧が晴れていく。夜の闇と共に、私たちの「宮廷での日常」も消えていく。


私たちは、古びた民家を出て、馬上の人となった。

冷たい朝の風が頬を叩き、肺いっぱいに吸い込むと、湿った土と草の匂いがした。それは自由の匂いだった。

行く手には、果てしない南への道と、その先に広がる未知の支配領域。

背後には、迫りくる最強帝国の追っ手。


「行くぞ!」

景皇子の号令と共に、馬がいななき、大地を蹴った。

ドドド……と蹄の音が大地に響き渡る。

風が髪を揺らし、鼓動が高鳴る。

目指すは南!

金と、愛と、自由を求めて。

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