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大学を卒業してもう4年。
すでに親しい人たちとは連絡を取り合っているので、同窓会の必要性を感じないが、それでも当時の人たちと再会できるのはいいことだと思う。
みんな親切な人たちだったから。
「でも、遅刻しちゃった!!!」
あまりにも浮かれて夜眠れなかった!
それで朝にアラームを無視してずっと寝てしまった!
夫が起こしてくれなかったら、おそらく同窓会を逃していただろう。
幸い、夫が車で送ってくれたおかげで、同窓会が行われるレストランの近くまでは早く着くことができましたが、遅刻という事実は変わらない。
「20分くらい遅れたけど...大丈夫かな!?」
私は全力で指定されたレストランに走った。
「あー!ひまりだ!」
「来たね!」
食堂の中に入る私を迎えてくれる見慣れた顔たち。
彼らの挨拶を受け入れたいが、そうすることはできない。
普段、運動を敵対する人生を送っていた私。
その代価を今払うのだろうか…
先程のランニングの余波で息が上がってしまい、彼らの挨拶を受け止めることができない。
「はあ...! はあ...! また会えて嬉しいよみんな...!!」
「あ、走ったね、ひまりちゃん...そんなに無理しなくても大丈夫だよ....」
突然の運動で熱くなった全身の汗腺が一斉に涙を流し始めた。
「おかえり、ひまりちゃん。 さあ、私の隣に座るようにしなさい。」
頭を下げて息を整えている私に、助け舟がやってくる。
私を抱きかかえて席に案内してくれたのは、小説サークルで出会ったアカネだった。
相変わらず落ち着いた雰囲気のアカネ。
大学1年生の時から大人な彼女は、いつも周りの人たちを優しく接していた。
そして、そんな彼女を密かに好きだった男子生徒も多かった。
私にとって、ミオとアカネは眩しくて近寄りがたい存在だった...!
しかし、皮肉なことに、学校でそんな彼女たちと一番仲良くしていたのは私だった。
「え、アカネ…?」
「ふふっ、久しぶりに会えて嬉しいよ、ひまりちゃん。」
アカネは大学時代、ミオと同じくらい親しかった友達だ。
大学を卒業しても連絡を取り合っていたアカネは、結婚式以降、突然音信不通になっていた。
聞きたいことがたくさんあるが、今はそのタイミングではないので、私は努めて気持ちを落ち着けてアカネの隣の席に座った。
アカネの助けでやっと席に着席した私を皆が笑って眺めた。
「ひまりちゃんは結婚しても全然変わってないね!」
「そうだよ!そうだよ!あいかわらずかわいい!」
「子供っぽいってからかってるんじゃないよね!?」
「それって完全に子供のセリフじゃないの?」
「はははは!」
完全に昔に戻ったような気分。
まだ若いのに、もっと若返った気分だ。
大学を卒業して社会に染まり始めると大きく変わると聞いたが、皆まだそのままのようで幸いだと思う。
「ところで~! 結婚生活はどう? 夫はあの時のように相変わらずよくしてくれるの?」
「うん!もちろん!」
(内心が少し怖いけど......。)
「はぁ...まさかヒマリが一番最初に結婚するとは思わなかったけど...これは完全に裏切りだわ!」
「ひまりの夫...完全に優しそうだったよね?」
「そうだね...ちょっとレトリーバーみたいな感じ?アメリカに住んでいたからか、なんか理解の幅が広い人だったよ。」
「超うらやましい、ひまり......。」
同窓会に参加したみんなの夫への賛辞。
(みんな知らないだろう...私の夫が怖い人かもしれないという事実を...!)
夫の殺伐とした内面を知っているのは私だけ。
これは私だけが背負うべき秘密!
夫がプロの殺し屋であろうと、政府のために働くエージェントであろうと、この事実は徹底的に隠さなければならない。
「はい!お待たせしました!」
従業員がビールの入ったグラスを持ってきて、私の前に置いた。
「じゃ、ひまりも杯をもらったから乾杯しようか!!」
「いや。」
「え?」
「遅刻した奴と乾杯するわけにはいかない。冗談だろ? 20分も遅刻したんだぞ。それに、すでに俺たちだけで乾杯したんだから、改めて乾杯する必要はないだろ。」
突然静かになったテーブルの雰囲気。
みんなの視線が乾杯を拒否したある男に集中した。
彼の名前はタツヤ。
中低音の深い声と銅色の肌が魅力的な男だ。
愉快な性格なので、些細なことで怒らない達也の口からそのような言葉が出るとは思わなかったので、皆が驚いて彼を見つめた。
ある程度耳目が集中したことを確認した彼の口元には笑顔が浮かんだ。
「というオヤジはここにいないよね!? みんなもう一度乾杯だ!!」
「マジか...。」
「わあ......マジ怖かった!!」
「あははは! ごめん!ごめん! インターネットで見たのを真似してみたかった!」
「とにかくとにかくあいつのいたずらな性格は相変わらずだな...。」
「はい~はい~今日の飲み代はタツヤさんが払います~!」
「え!?ごめん、許して!」 もう二度としないから!」
タツヤのおかげで貯まったもう一つの思い出。
みんなで笑いながらグラスを上げて乾杯した。
私は甘いものが好きな方なので、お酒はあまり好きではない。
でも昔、父が言っていた。
お酒の味は雰囲気によって変わるものだと。
だから酒を飲む行為は単に酒という飲み物を飲むのではなく、雰囲気を飲むことだと言った。
そして今。
本来なら使うべきビールはとても甘い!
同窓会の雰囲気が盛り上がってきた頃。
誰かがミオの話を持ち出した。
「ところで、ミオは来ないね、きっとひまりちゃんと一緒に来ると思ってたのに...。」
「ここの男たちはみんなミオを見に来たはずなのに、残念だね!」
「おい、タツヤ! お前が一番期待してただろ!! 他人事みたいに言うなよ!」
「へっ! 笑わせている! 俺は何の興味もないって?」
「じゃあ、このミオの写真が表紙に載ってる雑誌は何なんだ?」
「え!?他人のカバンを勝手に探すなよ!」
「素直になれタツヤ!」
ミオは昔から同級生の間で男女を問わず大人気だった。
ミオの洗練されたカリスマ性に惹かれた多くの男たちが彼女に告白したが、散々振られた。
当時人気が高かった先輩まで告白に失敗した後は、大学を卒業するまで誰もあえて彼女に挑戦する人が現れなかった。
卒業後はすぐにモデルの仕事を始め、一番親しかった私以外は誰も近況を知らないようだ。
「モデルの仕事は忙しいだろう...。」
「確かにそうだね... たまに雑誌にみおが出るたびに同じ講義室で授業を受けたのが信じられない!」
「私もみおにサインもらおうとこんなに雑誌も持ってきたのに!! とても残念!」
昔も今も人気スターのミオ。
そんな彼女に憧れるのは私も同じだ。
美しくて...
成熟していて...
思いやりのある...
誇らしい私の友達。
ミオには本当に感謝していることがたくさんある。
今、私がこんなに幸せな人生を送っているのは、すべてミオのおかげだから!
そうもそうだが, 今の夫はミオが紹介してくれたんだ。
え、ちょっと待って......
「ええええ~~~~~~~~!!?」
みんなが驚いて私を見た。
「ど、どうしたの、ひまり!?いきなり大声を出して...。」
「ごめん、私急用が...!
「はい!ご注文のナカバラが出てきましたよ!」
ざっと見ても色のいい肉が皿にいっぱい盛られて出てきた。
綺麗にカットされた肉が皿の上にどっさり盛られ、私を眩惑させる。
どたん!
「ひまり?さっき急用があるって言ってなかった?」
「え? 何か急用? さあ、ナカバラが腐るかもしれないから早く焼こうよ!」
*
「みんな久しぶりに会えて嬉しかったよ!!」
「次もまた集まろう!」
お互いに挨拶を交わし、別れるみんな。
まるで大学生の頃のように、いつでもまた会えるような雰囲気の別れが良かった。
私は切ない感想を後にして家に向かう地下鉄に乗るために駅に向かった。
「とりあえずまた忘れる前にミオにメールしておこう...。」
同窓会の合間に浮かんだミオと夫の関係。
ミオは実は私より夫のことをもっと長く知っていた。
あの二人が最初どう出会ったかは分からないが、少なくともミオなら、私が知らない夫について何かを知っているかもしれない。
「何してるの?」
突然、横から聞こえてくる爽やかな声。
アカネだった。
「アカネ!?」
「すぐ家に帰るの?」
「あ、うん...週末に夫を一人にするわけにはいかないから...。」
「あなたたち...本当に恋人関係じゃなくて夫婦なんだよね? 関係がそんなにいいの? うらやましいな......。」
「あははは...。」
「それじゃあ無理だね...。」
「え? 何が?」
「ふふっ、何でもないよ、ひまりちゃん。」
茜の声には、何か寂しさがこもっていた。
(この声…聞いたことある。)
大学生時代、アカネは同じ学校の先輩と恋愛をしたことがある。
普段は真面目なイメージの先輩だったため、アカネの恋愛は順調に進むと思っていたが…
先輩はアカネを裏切った。
アカネ以外の女性たちとも同時に交際していた事実が露見してしまったのだ。
その事件の後、学校で会ったアカネは自らの傷を隠したまま、何もなかったように行動した。
そのことを忘れてくれと言っているように見えたので、私は何の質問もせずにいつものように接した。
ある日。
アカネは少し時間があるかと聞いたが、他の用事で忙しかった私は次に会おうと言った。
アカネは言った。
「ふふっ、残念だね…。」
翌日、アカネは学校に来なかった。
傷を隠して平然さを演じていたアカネの忍耐が限界に達していたのだ。
最も親しい友人だと自負していたくせに、アカネの気持ちを正しく察せなかった過去の罪悪感は今も私を苦しめている。
でも今、
その時の私のミスを挽回する機会が来た。
「でも、今日は早く家に帰りたくないんじゃない? 久しぶりに友達に会えて、ちょっとテンションが上がったのかな?」
アカネの口元に微かな笑みが浮かんだ。
「じゃあ、二人で... 2軒目行こうか、ひまり?」
*
アカネは一度も行ったことのない居酒屋に案内してくれた。
私たちだけの空間を提供してくれるここは、思った以上に居心地が良かった。
「どう?雰囲気いいでしょ?」
アカネは自分のおもちゃを自慢する子供のように意気揚々と質問した。
彼女がこれほど浮かれているのを見るのは容易ではない。
あの時のようにアカネの招待を断っていたら、アカネ一人でここに来ていただろう......。
一人で寂しく酒を飲んでいるアカネを想像すると、胸が締め付けられる。
アカネの招待を受諾したのは本当に良かったと思う。
「いいなぁ!レストランは騒がしいのに、この中は静かなんだ...! まるでバリアを張ったような感じだね!」
「ふふっ!バリアだっ...まだファンタジー要素が好きなんだね?」
「えへん! 当たり前でしょ! ファンタジーは私の人生なんだから!」
「あの時、私たちが一緒に書いた小説...まだ持ってる?」
「当たり前でしょ!?私たちの傑作なんだから!」
「ふふっ...あの時は本当に楽しかったけど...まだ小説書いてるの?」
「うん!毎日書いてるよ! 誰も読んでくれないけどね...。」
「ひまりちゃんの小説に魅力を感じるには、初めの部分を耐えなければならないからね...でも最近は昔とは違ってそこまで待ってくれないから......。」
「そうだよ......。」
「それともジャンルを変えてみたらどう? ひまりなら...恋愛小説とかコメディの方が......。」
「それは嫌だ!私は私のエルフのお姫様が成功してほしいんだ!!」
「だが··· 普通ならエルフに変わったオーク姫の話は受け入れ難いだろう......。」
「それがユーモアのポイントなんだけど…!!」
「ふふ...私はそんなひまりのユーモアが好きだよ!」
「へへへ...。」
「でも成功するにはやはりジャンルを変えたほうが......。」
「ふん!私ビール飲む!」
「あっ、ひまりすねた!」
その時、アカネは今日初めて笑った。
「アカネ、あの… 大丈夫なの?」
「うん?」
「いや、その...ちょっと...何か言いたいことがあるみたいだったけど......。」
「ひまりもかなり鋭くなったね?」
「まあ...そうだよ!」
「それがね··· 私、実はこの前今付き合ってる男にプロポーズされたの。」
「え!? 本当に!? 本当におめでとう!!」
「ところで、私··· 実は隠している秘密があるのに、どうしても言えないの。」
「秘密?」
「うん...。」
「深刻なの?」
「いや、そういうわけではないが…。」
「そしたら相手も理解してくれるよ! 愛する人なら当然理解してあげるから!」
「ひまり...私実は......。」
「うん!」
「あ、これ、他の人にも秘密だよ。」
「当たり前じゃん!」
「本当に?」
「うん!本当に!本当に!」
「もしこの秘密が漏れたら···… 殺すぞ?」
「う、うん...。」
「私、実は··· エロ声優だよ。」
「あ~そんなことなら大したこと......ない......よ...。」
(え?)
思考回路が硬直した。
誰よりも穏やかで
誰よりも純粋で
誰よりも女性らしい茜が今!!!
私に自分はいやらしい仕事をする職業を持っていると言った。
こういうのを......
(簡単に信じられるわけないじゃん!!!)
「ふぇー...。」
(ドーン!)
「え!?ひまり!?」




