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208.ローレンの森の浄化(3)

瘴気で薄暗い空がさらに暗くなっていく。


強い上昇気流によりここら一帯に積乱雲が現れ、冷たい風が吹き荒れる。顔がヒヤリと冷たく、一つに束ねた長い髪が強風で右に左になびく。


そして、積乱雲から地上に伸びた高速の回転上昇気流が突風を巻き起こした。


これは……竜巻!


吹き飛ばされないようにと身体強化スキルで地面を踏みしめていると、ハルトさんが私の近くに来て一緒に防御魔法で暴風から防いでくれた。ノヴァ様は私が渡した防御魔法のペンダントを使いながら2体のブラックフェンリルの相手をしている。


上空の巨大な闇の塊と大型ブラックフェンリルが竜巻に巻き込まれていく。


ブラックフェンリルは自重で暴風に耐えているけど、闇の塊は竜巻の渦に呑み込まれていった。


私は今のうちにと残りの詠唱を唱えると、ローレンの森を覆い尽くす程の巨大な金色の魔法陣が曇天の空に現れた。


眩しく光る金色の魔法陣の出現に3体のブラックフェンリルは咆哮を上げた。あの光が自分たち魔獣にとって脅威であることを知っているかのような、そんな咆哮だ。


すると、悪あがきなのか対抗するように3体のブラックフェンリルが闇魔法の攻撃を一斉に放出した。洪水のように闇色の波が地面を覆い尽くす。


島を降りていたノヴァ様は跳躍しながら自身の島に登った。ノヴァ様も闇属性だけど、今は結界で神力を封じられている状態のためこの魔法に呑み込まれるわけにはいかないのだ。


そして3体のブラックフェンリルはまるで光から逃れるように闇の波の中へと潜り込んでしまった。


「おい、逃げたぞ!」


ハルトさんが叫ぶ。


「大丈夫!」


魔法の中にいるとしても、浄化によって本体は消えるため焦りはない。


闇色の波が島を抉っていく。だるま落としのように島が下へ下へと落ちていく衝撃に私は集中力が切れそうになるも最後の文言を唱えた。


「っ、『月の焔(ミカエラ)』!!」


眩い輝きと共に魔法陣から金色の柱が降り、ローレンの森全体に広がっていく。


何もかもが金色の光に呑み込まれ、視界が金色の世界に染まった。


何も見えない。何も聞こえない。


自分の魔力がごっそりなくなっていく感覚に耐えていると、やがて徐々に音が回復し視界は色のある世界に戻っていった。


金色の光は炎に変わり、森が金色の炎に優しく包まれる。


闇の波も跡形もなくすっかり消えてなくなり、闇の中に逃げていたはずの3体のブラックフェンリルが地面に横たわり体を燃やしていた。浄化の焔に包まれ身動きが取れない様子に私はようやく力を抜くことができた。


地面にドサッと座り込む。


はぁ、はぁ、はぁ……終わっ、た……


地面に後ろ手をつく。


ふと顔を上げると、息を呑むような光景が目の前に広がっていた。


森全体がキラキラと金色に輝く様は、まるで金色の大海原を眺めているようでとても美しく、神秘的だった。


穢れが清浄に戻り、空が本来の色を取り戻していく。


トン、と私の側に降り立つ音と影に気づき、ぼうっとしていた顔を上げると途端に安堵が胸に広がった。


ノヴァ様が私の前に屈む。


「MPポーションだ」


「ありがとう、ございます……」


後ろ手をやめ、ポーションを受け取りグビグビと飲み干す。ノヴァ様の前なのでおしとやかに飲みたいところだけど、今はノヴァ様には魔力の形でしか私の姿は見えないのでどうでも良い。この疲労感と枯渇感をちょっとでも早く回復したかった。


ポーションを飲んだことで体が幾分軽くなり、息をついた。


「……お怪我はないですか?」


「ああ」


「良かったです……そうだ、ブラックフェンリルは――」


ブラックフェンリルの様子が気になり体を起こすと、ノヴァ様は背後を振り返った。


「あの通り、もうすぐ消える」


3体のブラックフェンリルは金色の粒子に変わり始めていた。額に魔石がある大型のブラックフェンリルの金色の粒子が空に舞い上がり消えていく。その様子をノヴァ様は悔恨から解き放たれたかのようにじっと見つめていた。


……良かった。


これで全ての魔獣を浄化することができた。長い道のりのようで終わってみればそうでもなかったかなと、これまで起こったことが思い出として頭の中に流れてきた。


大変だったけど、楽しかった。そしてとても清々しい。心が満たされた感じがした。


晴れた空を見上げる。天界で見守ってくれているだろうルナ様とオルベリアン様に、心の中で感謝した。


全部、全部終わりました……ルナ様、私やりましたよ……この世界で頑張ることができて良かったです。私を選んでくれて、ありがとうございました。


「ディアナ……ありがとう」


ノヴァ様が優しい笑みを浮かべるので胸がきゅっとなった。


「俺が生み出したモノを、消してくれて感謝している」


優しい笑みが消え申し訳無さが滲んだ瞳で私を見つめるので、そんなことを感じてほしくなくて、私は隠蔽魔法を解いてノヴァ様に笑顔を向けた。


「私は自分の役目を全うしただけです。この力があったからノヴァ様を助けられましたし、こうして出会って、こ、恋をすることができました……だから、私の方こそ、ありがとうございます」


最後の方はつい照れてしまった。でも、ちゃんと言葉にして伝えたかった。


ノヴァ様は驚いたような顔をして、そして愛しそうに微笑んだ。けれどすぐにはっとし、「もう一度隠蔽魔法を」と静かに言って私を隠すように立ち上がった。


急に態度が険しくなったのでどうしたのかと思ったけど、言われた通り、再び自分に隠蔽魔法をかけ、ついでに魔力を遮断した。


「あ、やべ。忘れてた」


地面に降りて粒子を調べていたハルトさんがそう言うと、私も後方から来る複数の足音と多数の人間の魔力反応に遅れて気づいた。


そうだ、救援! 


浄化に集中し、終わった後の安堵感と疲労感で私も救援のことなど頭から抜け落ちていた。


果たして金色の炎の奥から現れたのは、セレーネギルドのギルドマスターであるランバートさん率いるAランク冒険者たちだった。


人数はざっと見渡す限り20人弱。その中にはゲイルたち「疾風怒濤」のパーティーがいて久しぶりに顔を見たので懐かしさが胸に溢れた。ディーノさんの姿も探したけど、何故か見当たらなかった。

遅くなりましたm(_ _)m


次回は5/9(土)に投稿致します。

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