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209.ギルマス、再び猫を被る

ギルマスが呆然としている。獅子が豆鉄砲の連射でも食らったような顔だ。


まぁ、救援を受けてAランク冒険者をかき集めて森に入ってみれば、話題の金色の炎により魔獣が消えてなくなる現象を目の当たりにして驚き、それでもブラックフェンリルの出現に対処する使命を全うするべく奥へ進めば、そこには魔法師団長と噂のリュトヴィッツ伯爵がいるだなんて誰が思うだろうか。


「やあ、ギルドマスター。黒い狼煙を受けて駆けつけてくれたのか?」


まさか小公爵である魔法師団長に話しかけられるなど思ってもみなかったのか、ギルマスは自分に言われているのかわかっていないようで、後ろからゲイルが背中を突いて気づかせている。


「えっ? ええ、そうですが……どうやら必要なかったようですね、はは……」


いつものギルマスらしく豪快で強引な感じが全くなく、借りてきた猫……いや借りてきた獅子(?)のように控えめで全くと言って良い程覇気がない。


「そんなことはない。黒い狼煙が上がればSランク冒険者が救援に向かうのが原則だ。元Sランク剣士であるギルドマスターの行動は何も間違っていない。だがまさか向かう途中で森が金色に包まれ魔獣が消えるだなんて誰が予測できる? 俺たちもたまたま討伐に来ていて突然狼煙が上がったから来てみれば、今まさにこの現象に遭遇し驚いていたところだ」


よそ行きの言葉と笑みを貼り付けてハルトさんが所々嘘を混ぜて述べると、ギルマスは「そうだったのですね、俺達と同じですね、ははは」と、最後に笑いを付け足さなければ貴族のトップと会話ができないくらいに肝が縮んでしまったみたいだ。他のAランク冒険者たちはこんなギルマスを見たことがないというような顔をしている。


「そう言えばギルドマスターが対処に向かうなんて珍しいな。現役のSランクは捕まえられなかったのか?」


「それが、ディーノに要請をかけたのですが、昨夜からずっと腹を下しているとかでずっとトイレから出られないらしく、ミヅキも連絡がつかないしでしょうがないので俺が向かうことになりまして。ははは、全く、緊急事態だってのに、ねぇ、まったく、ははは」


「「「「…………」」」」


冒険者たちの中に流れる空気が死んでいる。基本ギルマスは貴族に対し猫かぶりをするけど、その貴族が理不尽な相手なら強気な姿勢に転ずる人だ。以前、シュタインボック公爵家の執事に対してそうだったように。


でも今相手はハルトさんで、一般庶民に対して横暴さも理不尽さの欠片もない貴族。だからずっと猫を被り続けるギルマスを見るハメになる。


それより、ディーノさんて腹下しのせいで今日森に行けなかったのね。何か森で拾い食いでもしたのかな。いや、ディーノさんが今日森に来ないことをお父様が伝えてきたのは昨日のことだわ……まさかお父様、ディーノさんに何か盛ったの? お父様が直接やるはずないから、ハインとかに頼んだのかしら。なんかごめんね、ディーノさん。


私は上空を見上げた。


……まだかしら。


私は今、魔力隠蔽と自身への隠蔽によって見えない状態だからこのまま邸に転移して戻ることができるんだけど、森の魔獣を全て浄化したらダンジョンが出現するのと、出現したらやることがあるため留まっている。


ノヴァ様の後ろに隠れていれば安心安全だしね。


ノヴァ様はというと、さっきからずっと黙って冒険者たちを見下ろしている。


冒険者たちはノヴァ様の存在に気づいてチラチラと下から見上げているんだけど、特に男性たちの表情がなんだか憧れの人に出会ったかのようなソワソワした様子だ。お父様と互角の強さという噂の御仁が今目の前にいるのだ。清浄になりつつある空間の中、5,6m程の隆起した島に堂々と立っているノヴァ様は冒険者たちから見れば、超絶美形の圧倒的強者が微風で美しい漆黒の髪とマントをなびかせているのはもの凄く絵になり、皆「はわわわ」状態になっている。


対して女性たちは全員目がハートになってモジモジしていた。だってこの顔面と出で立ちだもの、見惚れないわけがない。メアリーさんとイリスさんなんかぽうっと蕩けるような顔をしているし。(ミヅキ)を狙っていたんじゃなかったの。


「ブラックフェンリルも金の炎に包まれ粒子となって消えた。この森に漂う瘴気も消滅し清浄な空気になりつつある。金色の柱に気づいた王宮がすぐにでも騎士団や魔法師団をこちらに派遣してくるだろう。この現象に居合わせた君たちに事情を尋ねると思うから協力をお願いするよ」


「それはもちろん構いません。ですが……これで森から魔獣が全ていなくなってしまいました。ギルド統括官からは正式にはまだ何も通達されてはいませんが、もしかすると冒険者ギルドは解体するかもしれないですね、ははは……」


弱々しく言うギルマスに対し冒険者たちから「笑い事じゃないだろ」「俺達にとっては死活問題だ」「これからどうすれば……」の声が上がる。


ダンジョンが現れるからそんな心配はしなくて良いと言いたいけど、そんなこと言えるわけがない。


ていうか、さっきから待っているんだけどダンジョンはまだかしら? 神様たちとのやり取りでは全ての魔獣の浄化後すぐに壮大な演出をもって出現させるって聞いているのに。


私は目の前にあるノヴァ様のマントの裾を少し引っ張った。


気づいたノヴァ様が極自然に島の縁を椅子のようにして片膝を立て、もう片方の長い脚を島の縁から宙に投げ出して座り込んだ。


私は囁くような声で尋ねた。


「この後ダンジョンが現れる予定なのですが、一向に現れる気配がないのです。天界で何かあったのでしょうか」


「……」


前を向きどこか遠い場所を見つめているノヴァ様は思い詰めたような険しい顔をしている。


その顔を見て、私は本当に魔獣を全て浄化したのよね、と一抹の不安を抱いた。


まだこの森か、あるいはラヴァナかヘレネに魔獣が残っているのかしら。いやでも、騎士団たちの調査を経て魔獣はいなくなったと断定されているからまだ残っているはずがない。まさかまだこの森に浄化されていない魔獣がいるとか?


その時、空からの異様な力に気づき、上を見上げた。ノヴァ様も感じたのか同じように空を見上げている。


来た……!


「どうかしたのか、リュトヴィッツ殿――」


突如、上空から紺碧の光の柱と赤紫色の柱が降りてきた。その光は眩しく、目が眩んでしまう程で思わず目を細める。


手で光を遮って見てみると、紺碧の柱の方角は私たちのいるところから南西に6km、赤紫の柱は北西に8kmの場所のようだった。


「おい、あれ……!」


冒険者の声をした方を向くと、王都の方角にも金色の柱が上がっているのがわずかに見えた。


ダンジョンだわ!! 約束通り、オルベリアン様がやってくれた!


安堵のため息を出すと、ノヴァ様も心做しかほっとしたような顔をしていた。

次回は5/12(火)に投稿致します。

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