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203.魔道具の発表会(2)

ハルトさんが説明をする。


「今ディアナ嬢がしているように円柱の魔石に6万の魔力を流すと、星型に置かれた5つの魔石へと魔力が伝わります。6つ全ての魔石が光り出すと魔道具が起動したことになります」


全ての魔石が金色に光ったのを見て、私は魔道具から降りた。その時周囲の驚いた視線を一身に受けたので、ああ、私が6万の魔力を一人で注いだことに驚いているんだなとわかった。魔力量が多いことは洗礼式のときから判明しているので今まで特に隠しては来なかったけど、公の場で魔法とか魔力を披露してはいなかったからこういう反応をされるのも当然だ。


「物資を転送する際は魔力を流して起動させた者が降りてから転送先を唱えます。起動させた者以外の者が唱えても魔道具は反応しませんのでご注意を」


ハルトさんの説明の後、私は声に出して「北東63度、標高150m、ヴィエルジュ領、国門砦騎士団詰め所」と唱えた。


行ったことのない場所への転移は方位や標高も唱えると転移できるように魔法を創り直して付与してある。自分で使う転移もこれからは座標も唱えれば行ったことのない場所へ行けるので、今度からそうしようと思う。座標は地図の魔法でわかるからね。


魔道具が反応し魔道具全体が金色に光ると、一瞬の内にスッと木箱が消えた。同時に、それを目の当たりにした人たちは揃って「おお」と感嘆の声を漏らした。


後は結果報告がお父様の元へ来るだけ。それを待っていると、シュタインボック公爵が声を上げた。


「いやはや素晴らしい。容姿だけが優れていると思っていたがまさかヴィエルジュ家のご令嬢がこんなものを発明するとは実に驚きだ。ただ……これは本当に貴女が考案されたものですかな?」


公爵が不敵な笑みを浮かべて私を見る。


私は毅然とした態度で「はい、私が転移魔法を創りました」と述べた。


「それならば今この場で転移の魔法陣を出すところを見せてもらいたい」


表情を変えずに公爵を見る。


こういう事を誰かが言うかなとは少し予想していたけど、やっぱシュタインボック公爵か。魔力はあと9万くらいあるから魔力的には問題ないんだけど、魔法陣が金色に光ってしまうことから私の魔力の色が金色だとこの場で周知されてしまう。せっかく転移を付与した魔石に誰が魔力を流しても金色に光るよう魔法陣に組み込んだのに意味がなくなる。でももう私はノヴァ様と婚約しているし、秘密にしなくても良い、のかな……?


ちらっとお父様を窺い見ると、お父様はわずかに首を横に振っていた。


……駄目だということね。


「お言葉ですが公爵、疑うのはヴィエルジュ家にも失礼ですぞ。それに報告書には彼女が作成したと記載がある。もし虚偽なら虚偽罪として魔塔もヴィエルジュ家も罰を受けることになりかねない。そんなリスクを犯すことはしないでしょう。また先程彼女は一人で6万もの魔力を注いだのです。実際に魔法陣を見たいのであれば、回復を待ってからの方がよろしいかと私は思いますが?」


宰相が庇うようなことを言ってくれたので、私もそれに便乗する。


「申し訳ありません。魔力が足りないため今すぐは難しいのです」


「MPポーションを飲めば良いだろう? おい、誰か持ってきてくれ」


「シュタインボック公」


皆一斉に声の主、陛下の方に顔を向ける。


「私はここで魔力回復を待つ程暇ではないのだ。それと勝手に事を進めるな」


「……」


陛下の冷ややかな声がシンと静まり返った庭で響き空気が凍った。宝石のように綺麗な紫の瞳も氷のような冷たさを帯びていて、顔面の綺麗さも相まってとても迫力がある。


でも国のトップオブトップに睨まれたら震え上がるのが必至なのに、公爵にはあまり効いていないように見えた。


「失礼致しました。ならば後日改めてお願いしましょう。ただ、褒美を与えるのは彼女が考案したかどうかが判明するまで待って頂きたい」


陛下は公爵の真意を探るかのようにしばらく公爵を見つめた後、スッと視線を外した。


なんか面倒くさいことになったわね。何の実績もない、学院にも未入学の13歳の小娘が転移魔法を創っただなんて俄には信じ難いから疑われるのは覚悟していたけど。はぁ……


このやり取りの後、ピアスに通信が入ったようで白い魔石がチカチカと明滅した。お父様が応答する。


「……ああ、わかった。ご苦労。ではそのピアスは常時離さず身に着けておくように……ああ、そうだ。頼んだぞ」


お父様が通信を終えると、「国門砦の第4王国騎士団長からです。無事物資が届いたと連絡がありました。通信状況も良好です」と周囲に聞こえるように朗々と伝えた。


「総長、ご協力ありがとうございます。通信の魔道具を使うには事前に魔石に魔力を登録する必要がありますので、運用の際は誰の魔力を登録するか王家と宰相と防衛省で決めて頂きたいと思います。人の転移と物資の転送に関しても、乱用を防ぐために報告書に記載した通りの場所のみの転移に制定しておりますので周知をお願い致します。また、今はこれ1つですが、今後転移の魔道具を増やしていく予定ですので、その設置場所に関しても報告書の通りとさせて頂きますので、よろしくお願い致します」


魔道具による転移転送先は全部で10箇所だ。王都の北門、東門、西門の3つと、皇国との国境のヴィエルジュ領の砦、ヘレストリアとの国境のへミニス領とクレブス領の砦の3つ、北方のラヴァナの森(ヴァーゲ領側)、西のローレンの森(ヴェルソー領側)、東のヘレネの森(レーヴェ領側)、南のユーレリアの森(ベリエ領側)の4つ。勝手に制定以外へ転移すると居場所が特定できなくなるので、それを防ぐために重たい罰則規定が設けられる予定だ。


「2人とも、素晴らしい発表だった。おかげで我が国がさらなる発展を遂げよう。今後も画期的な魔道具の発明を楽しみにしている」


さっきとは打って変わって私たちを称賛する表情と声の陛下にハルトさんが代表して「ありがたき御言葉、恐悦至極に存じます」と頭を下げ、私もカーテシーで感謝を示した。


「では陛下、私は次回の御前会議のために転移と通信に関する法案について法務省と詰めて参りますので御前を失礼致します」


宰相がそう言ってこの場を辞すると、財務大臣であるシュタインボック公爵も運用費について精査するため立ち去った。私はさっきの一幕を思い出しながらその背中を見送った。


陛下と殿下は近衛騎士に囲まれながらお父様と他大臣たちと一緒に王宮の方へ戻っていった。


「……ふう、終わった。ディアナ嬢、お疲れ。色々と」


私は苦笑して「お疲れ様です」とハルトさんに返した。


緊張感たっぷりの発表会が終了したのに、肩の荷が降りない。後日実際に私が転移魔法を考案したのか魔法陣を披露しないといけないという懸念のせいだ。


なんか、こう、色々と肩身が狭いというか、モヤモヤするというか、自分の能力を隠すのをもはや面倒に感じてきてしまっている。


自分で秘密を課して、その秘密を守ることにお父様とお兄様、ノヴァ様、ハルトさんが協力してくれているのに、そう感じるのは失礼だし自分勝手だとわかっている。でも……


内心でため息を付いた。


早く最後の浄化をして、「秘密」という枷を外してしまいたいと思った。

次回は4/20(月)に投稿致します。

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