202.魔道具の発表会(1)
それから10日後のアリエスの月の初週。転移と通信の魔道具の発表の日がやってきた。
発表の場所は王宮の敷地内にある魔塔の庭。庭といっても草花が綺麗に整備され咲き誇るイングリッシュガーデンのような庭園ではなく、日当たりの良い南側で管理された1ヘクタールの薬草園の一角に石畳が敷き詰められた魔法師たちの憩いの場的な広場があるので、今回はそこに転移の魔道具を設置し、実演を兼ねた発表を王族や大臣たちの前で行う。
新作魔道具の発表は普段は魔塔から宰相や総務省、財務省、防衛省、経済産業省、そして魔道具を扱う商人に通知して、魔塔が設定した価格で魔塔(主にリード副団長)が商人と取引をしていくらしいんだけど、今回発表する魔道具が「転移」と「通信」という重大性と秘匿性のある案件なため商人には通知しなかったそうだ。代わりというわけではないけど、王族が見学することになってしまったのは頭が痛い。
百歩譲って殿下は良いとして、陛下もいることを事前に知らされた時は顔が引きつった。なんでも、私が転移の魔法陣を作成したことが陛下の耳に入り、そして面白いことが好きな陛下は自らの目で転移の魔道具の実態を見たいと宰相とお父様にゴリ押ししたらしい。
そして私の心境とは裏腹に、春の風がそよそよと吹き、木漏れ日が気持ちの良い午前のこと。
転移の魔道具の前にハルトさんと並んで立つ私は、豪華な顔ぶれを前に今までにないくらいに緊張している。
国王陛下、ユアン王太子殿下、宰相のエスコルピオ侯爵、総務大臣のベリエ公爵、財務大臣のシュタインボック公爵、経産大臣の伯父様(ヴァーゲ侯爵)、防衛大臣のお父様という錚々たる面々が設置された転移の魔道具を一定の距離で囲み、そして警備のために近衛騎士団と王国騎士団数名が周囲を固め、見学の数名の上級魔法師が魔法陣を考案した私に対し目をキラキラと輝かせている。
ノヴァ様はこの場にはいない。エルガファルの1号店がオープンしたのでその様子を見に領地へ転移したり、来月の王都での2号店オープンに向けてもやることが色々あるから邸を留守にしていることが多くなった。朝から出掛けているので顔を合わせるのは晩ご飯の時くらい。寂しさを感じるけれど、毎回帰宅を出迎える私の頭を撫でながら甘い顔で「ただいま」と言うので、まだ結婚していないのに新婚さんみたいで顔と胸がぽかぽかするから、寂しさはいつもどこかに消えていってしまうのだ。
思い出していたら頬が熱くなってきた。今はそんな場合じゃない。
これから発表なんだからと、ふう、とこっそり息を吐き出した。
準備が整い、宰相のエスコルピオ侯爵から目配せを受けたハルトさんが代表して話し始める。
「えー皆様、本日はお忙しい中お集まり頂き誠にありがとうございます。これより、こちらにいるヴィエルジュ家のディアナ嬢が考案した転移の魔道具の発表をしたいと思います」
皆の中心にいる陛下が関心する素振りをする。春の陽気に照らされた癖のある長めの金色の髪がキラキラと輝き、美丈夫も相まって存在感が凄い。
「ふむ、報告を受けた時は転移の魔道具を作ったことに驚いたが、考案したのが魔塔主ではなくディアナ嬢なのは真か?」
「紛れもない真実にございます、陛下。彼女が転移と通信の魔法陣を構築し、私はそれを魔道具にするべく手を加えただけにございます。実演では人の転移ではなく物資の転送を行いますが、転移も転送も既に実験は成功しておりますので、安心して出来栄えをご覧ください」
「楽しみにしている」
陛下とハルトさんのやりとりを私は身を引き締めて聞いていた。魔法創造スキルを使って創った転移と通信の魔法だけど、ハルトさんが言ったようにイメージした魔法を創れるスキルなんて存在しないと誰もが思っているのだから、知っている人が言わない限りスキルがバレるなんてことはない。ずるい気がするけど、スキルも実力の内だと自分に言い聞かせ、自信のある態度を示さなければと思った。
「では転移の実演の前にまず通信の魔道具の紹介を致します。今総長の右耳には白い魔石の付いたピアスがありますが、これが通信の魔道具です」
皆が一斉にお父様に目を向ける。お父様の右耳には確かに通信のピアスが付いていた。ハルトさんと私がお父様に事前に協力を求めたのだ。
「魔石に魔力を流すと、事前に魔石に登録された魔力の持ち主に伝言を送ることができます。それではまずは物資の転送から始めたいと思います。今魔道具の台の上に置いてある木箱3つを皇国との国境であるヴィエルジュ領の国門近くの砦に転送します。ちなみに中身は生活必需品や王都で人気のお菓子、書類などですね」
「馬車を使わずに瞬時に送れるのは良いですな。盗賊に襲われる心配もない」
宰相が感心する。
「そうなんです。そして木箱の上に置いてある小箱には総長と同じ通信の魔道具が入っています。それを転送先の第4騎士団長に装着してもらい、結果を総長に通信で伝えてもらう手筈となっております。では、ディアナ嬢」
私はコクリと頷き、魔道具の上に乗り上げた。そして、一人で行うのか? というどよめきの中、円柱の魔石に手を置き自身の魔力を流し始めた。
遅くなりましたm(_ _)m
次回は4/15(水)に投稿致します。




