190.お兄様の婚約パーティー(8)
「ディアナ嬢」
ノヴァ様が離れていくことに寂しさを感じていると、ハルトさんに呼ばれた。
振り向くと、ハルトさんは納得いっていないような顔をしていた。テーブルに置かれたお椀は空になっていて、おかわりした分も完食したらしい。
「あの伯爵、魔力が全く感じられないけど、魔力遮断をしているのか?」
「……そうですね。ノヴァ様もできるみたいです」
本当は結界で封じているからなんだけど。
「はぁ、剣術も総長に負けず劣らずで? 魔力操作もお手の物で? 超絶イケメンで背も高くて? なんか理不尽だ、俺も同じ黒髪なのに」
私は苦笑いを浮かべた。
ハルトさんが近づいてコソッと耳打ちする。
「なぁ、俺と同じ転移者ってわけじゃないよな?」
「ええ、違いますよ」
「だよな、どう見たって日本人顔じゃないもんな」
本当は神様だってわかったらどんな反応をするかな。
「あとさ、伯爵が身に着けている金色のブローチとピアスって……もしかしてアレか?」
金色でアレっていうと、魔石なのかってことね。
私は頷いて応えた。
「やっぱりな……あの方と違って見せびらかすように金色を身に着けているということは……伯爵はディアナ嬢の秘密を知っている?」
最後の言葉はさらに声を落として聞いてきた。
「……どうしてそう思うのですか?」
「ディアナ嬢の本当の色だから」
そう言いながらハルトさんは自分の目を指さした。
私の本当の色だからといって、どうしてそこで私の秘密をノヴァ様も知っていると結論づけているのかよくわからない。けど、ハルトさんは私の秘密を共有する一人だからお父様とお兄様の他に誰に話しているのか教えておいても良いのかもしれない。
「そうですね、知っています」
「だよな。結構深い関係でないと、その説明がつかないもんな」
「え?」
ハルトさんの目線が私の右手首に向かったので、何を指しているのかわかった。咄嗟に右手首を押さえる。
「伯爵からもらったのか?」
「……」
もう片方の手で右手首を抑えているので若干泳ぐ目を扇で防げない。
「え、まじか。もしかしてデキてる?」
デキてる……?
尚も一層声を落として言うので聞き間違いかと思い、「え?」と聞き返してしまい、もう一度「デキているのか」を聞くハメになった。
「い、いえ、デキて、おりませんけど……」
声が尻すぼみになっていく。
ハルトさんが近づけていた顔をぱっと離して驚いた顔をした。
「デキていないのに、お互いの色を贈り合っているのか? そんで婚約候補たちと律儀に挨拶? 何してんだ?」
「う……」
本当、何してるんだろうって思う。しかももうハルトさんに私に好きな人がいることも、好きな人が誰なのかもバレているみたいだ。恋愛系には疎そうなのに。
「相手は色の意味なんてご存知ないので、完全に私の自己満足でして」
「え?」
ハルトさんは視線を左上に向けた。そして何故か残念なやつを見るような目で私を見た。
「さっきまで理不尽さに嘆いていたけど、同情する」
「何がですか?」
「いや、いい。まあ応援しているから、頑張れよ」
ポンと、ハルトさんは私の肩に両手を置いた。私は笑みを作る。
けれどハルトさんはすぐにぱっと手を離し苦笑いを浮かべて「やっぱり」と言った。何がやっぱりなのかしら。
「はぁ、つか同郷の人が青春しているのを見ると急に羨ましくなってきたな。研究さえしていれば良いと思っていたのに。てことでディアナ嬢、俺にも幸せを分けるつもりで大豆を分けてくれ」
「ダメですよ。リュトヴィッツ家の独占事業なので。加工品はエルガファルと王都にお店を出す予定なので欲しいようでしたら直接買うか、魔塔の食堂に仕入れたい場合は伯爵と取引をしてください」
ノヴァ様の方に手で示すと、いつの間にかノヴァ様の周囲には人だかりができていた。
ノヴァ様の周りを取り囲むように老若男女の紳士淑女が集まっている。ノヴァ様は背が高く彼らの頭一つ分以上抜けているので、予想外な人の集まりに少々困惑気味な表情を浮かべていた。
「わかったよ。あ、そうだ。その黒いやつ、俺の養父に見られないようにしておけよ」
「え?」
「俺の髪も黒だし、ぱっと見うちの領の宝石だから」
「? はい、わかりました。気をつけます」
「ま、総長が義父ってのは俺にとっては最高なんだけどな。だがこれから魔道具作りで色々関わるディアナと和食の礎を築いてくれる伯爵には嫌われたくないから、養父をまたその気にさせないようにしてくれよ。じゃ、俺はおかわりしてくるから」
そう言ってハルトさんは人だかりに混じっていった。まだおかわりするのか。
ノヴァ様を囲むご婦人は皆頬を染めてノヴァ様に魅入っている。牽制しに行きたいところだけどせっかく宣伝を頑張っているノヴァ様の邪魔はしたくない。大豆事業はリュトヴィッツ家のものだから。
心に蓋をしてノヴァ様にエールを贈り、私はお兄様たちの方へ向かった。
料理スペースから20m程離れた対角線上にお兄様とセシリア嬢はいた。周りには学院のクラスメイトらしき人たちが囲んでいて、楽しそうに談笑している。お兄様は常に甘やかな笑みを貼り付けているので本当に楽しいのかは見ただけではわからないという注釈がつくけど。
あの輪に入るのはとても勇気がいる。リリアくらいしか友達がいない私には、あそこに割って入れる程のポジティブさと強引さは持ち合わせていなかった。
そう考えながら歩を進めていると、「あら、ディアナ」と声がかかった。
この天使の歌声のような天真爛漫な声はリリアだ。
救世主が現れたと思って声のした方を向く。瞬間、内心げんなりした。
次回は2/6(金)に投稿致します。




