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188.お兄様の婚約パーティー(6)

ノヴァ様が屈んでコソッと私に耳打ちする。


「やはりあの者も?」


ノヴァ様の美しいお顔が私の顔の近くにあり、吐息混じりの美声が私の耳をくすぐった。近頃距離が近いと感じるのは私の気の所為だろうか。なんでもないような顔を作らないといけないこっちの身にもなってほしい。


「ええ。わかりました?」


「あれを飲んだ時のディアナと反応が同じだからな」


「……」


笑い混じりに言われたので、ちょっと恥ずかしくなって話を変える。


「ノヴァ様は以前からハルトさんに会いたがっていましたけど……どうでした?」


「……」


ノヴァ様は屈んでいた体を起こした。


難しそうな顔をしている。


「……2人に話したいことがある」


「え?」


「ヴェルソー公子」


「ふあ?」


呼ばれてハルトさんはおにぎりを頬張っていた顔を上げた。


「貴殿にお話したいことがあるため、後日お時間を頂けますか」


「良いですけど……」


ハルトさんはちらりと私を見た。その表情から、え、このド迫力お兄さんと俺が? なんで? みたいなことが読みとれた。


「3人でお話したいそうなので、宜しければうちに。また来て頂くことになりますが……」


3人でと私が言ったことで、ハルトさんはほっとした顔を浮かべた。


「わかった。俺は都合を合わせられるからいつでも構わない」


「では日取りが決まれば招待状を魔塔宛にお送りしますね」


「よろしく」


これで良いかとノヴァ様を見上げると、コクリと頷いてくれた。


それにしても話したいことって何だろう。私だけじゃなくて、ハルトさんにもってことは、ハルトさんに関係あることよね。ノヴァ様は魔力視ができるし、ハルトさんは転移者だってわかったからもしかしてそれについて神様視点で何か教えてくれる、とか?


そう考えていると、ノヴァ様が宣伝のためにお味噌汁を食べようと提案してくれた。否やはない。


私たちが率先して食べれば、自ずと人が集まってくるからね。まぁ既にハルトさんの号泣した姿にギョッとした何人かが様子を見にチラホラと集まってきているけど。


給仕にお味噌汁をよそってもらい、私は昆布のおにぎりを選び、ノヴァ様はおかかを選んだ。


白いクロスがかかった丸テーブルに給仕がそれぞれ頼んだものを並べる。ハルトさんは今度は和風パスタを頼んでいた。


ちなみにおにぎりは手で食べるのではなく、スプーンだ。小皿に乗ったおにぎりをスプーンで食べるのは少し違和感があるけど、入口をまず広げるためには抵抗がない食べ方が望ましい。


ああ、癒されるわ……異世界でお味噌汁が食べられるなんて、私グッジョブじゃない? 


「ディアナ嬢、俺は感激した。まさかここまで再現できるとは思わなかった。一生ついていくわ」


「ふふ、気に入ってくださって嬉しいです。ですが、大豆を作られたのはリュトヴィッツ様ですよ」


私は隣でおにぎりを食べていた手を止め再びハルトさんを凝視しているノヴァ様を手で示した。


「……えっ?」


ハルトさんが素っ頓狂な声を上げた。


「伯爵の治めるエルガファルで大豆が栽培されていますので」


「ディアナなしでは不可能だがな」


「エルガファルの広大な土地と適した土壌があってこそですよ」


2人で謙遜し合っていると、ハルトさんが「ん? え?」と目をキョロキョロさせていた。たぶん、ノヴァ様が大豆を栽培していると聞いてノヴァ様が私の秘密を知っているのか、それとも知らずに協力しているのか判断がつかず、かといってこういう場で無闇に聞ける内容でもないのでどうしたものか、と悩んでいるのだと思う。


だから3人でまた集まった時に、この大豆加工料理を作った経緯を話そうと思った。


「ディアナ様、お食事中失礼致します」


声をかけられ振り向くと、私の婚約候補筆頭のユージン・マクファーレンが笑みを浮かべて立っていた。側には両親らしき男女もいる。


私はお味噌汁をテーブルに置き、扇をサッと開いた。ノヴァ様もおにぎりのお皿を置いたけど、ハルトさんはパスタに夢中でそのまま食べ続けている。


「ごきげんよう、マクファーレン様。ようこそお越しくださいました」


「この度はノア様のご婚約、誠におめでとうございます。初めまして、私はユージンの父、アレクサンダー・マクファーレンと申します。こちらは妻のエミリアです。以後お見知りおきを」


マクファーレン伯爵の切れ長の目元の下には小さなホクロがあり、きっちり分けられた金色の髪型からやり手の営業マンのような印象を受けた。


「初めまして、ディアナと申します。いつもアルバローザの管理など、ありがとうございます」


「それがマクファーレン家の誇りある仕事ですから。こうして会場にも多く使用して頂いて大変嬉しい限りです」


伯爵はホールの飾りに添えられたアルバローザを見回した。


まるでアルバローザがマクファーレン家のものみたいな言い方ね。元々曾祖母がアルバローザを生み出したからヴィエルジュ家のものなんだけど。


「いやぁ、まさに『アルバローザの妖精姫』と言われるに相応しい程、魅力的なお嬢様ですね。ですが真のアルバの妖精姫になるには我が家と縁を結ぶ他ありません。我が家はアルバローザ事業を担っている家ですから。何故か未だにジュード様には保留にされておりますが、息子がディアナ様と婚約を結ぶ日を心待ちにしておりますよ」


ユージンが婚約相手になるのは当然というようにニッと口角を上げた。


真のアルバの妖精姫になるにはって……自分から名乗ったわけじゃないから全くこだわりはないんだけどな。適当に笑って受け流そう。


「……ふふふ、そうなる日が来ると良いですね」


ふと夫人がソワソワしていることに気づく。チラチラとノヴァ様を見る素振りをしているからノヴァ様のことが気になってしょうがないのだろう。


マクファーレン伯爵がノヴァ様に目を向け微笑んだ。


「これはこれはリュトヴィッツ殿、久しぶりだな。当主の仕事にはもう慣れたかな?」


「ええ、ジュード様のおかげで」


まさかノヴァ様がマクファーレン伯爵と面識があるとは……あ、前にハインが言っていたあれかな。お父様に領地のあちこちに視察に同行していた時に顔を繋いだ可能性が高いわね。


夫人は我慢ができなくなったのか、「ねぇ」と小声で伯爵に促す。


「ああ、お前は会ったことがなかったか。この方はエルガファルのノヴァ・リュトヴィッツ伯爵だ」


「リュトヴィッツ様……」


夫人がうっとりとした声音で呟いた。はぁ……

次回は1/30(金)に投稿致します。

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