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187.お兄様の婚約パーティー(5)

「……」


「……」


ハルトさんの口が半開きになっている。対してノヴァ様は瑠璃紺の目を見開いてハルトさんを凝視している。


ハルトさんは自分に対して強い眼差しを向けてくることに気づき我に返った。


「……ディアナ嬢、この方は?」


「お父様の部下のノヴァ・リュトヴィッツ伯爵です」


「リュトヴィッツ? え、人間、なのか……?」


「……人間ですよ」


ハルトさん、鋭いな……


「まじかよ。何この只者じゃない気配と雰囲気と見た目……って、え、黒髪……? 俺と一緒? ん? その石は……」


ノヴァ様がわずかに首を傾げた。


「っと、さっきから無礼だな俺。ゴホンッ……ハルト・ヴェルソーと申します。私も総長の部下で魔塔主兼魔法師団長をしております」


「……」


ノヴァ様は未だにハルトさんをじっと見つめたままだ。


「ノヴァ様?」


「……ああ、すまない」


「いえ、どうかしましたか?」


ノヴァ様は以前から執拗にハルトさんに会いたがっていた。今初めて会ったけど、この反応は……?


「私が何か……?」


ハルトさんも気になるようだ。


「いえ、失礼しました……私と同じ髪色の者がいることについ驚いてしまいました」


なんか誤魔化された気がする。


「ですよね、私もです。かなり目立っていたので同じ色の方が他にもいて少し安心しました」


気を取り直したハルトさんは「つうか、これ!」と、興奮した様子でお味噌汁の鍋を指した。


「この前言っていたのって、これのことだよな?」


「ふふ、そうですよ」


「うわ、本当に味噌汁じゃん! やば、この匂い、涙出そう……な、食べて良いか?」


「気持ちはわかりますが、もうそろそろ――」


その時、会場が歓声に包まれた。


ユアン王太子殿下と婚約者のリリアが到着したようだ。ハルトさんの小さな舌打ちは歓声にかき消された。


後ろには近衛騎士が2人付いている。その内の1人が殿下の側近のリュシアン・レーヴェ侯爵子息だ。そしてきりっとした顔で堂々としているリュシアンの後ろから、2号が扮するSランク魔法使いミヅキが付いてきていた。


ミヅキの服装はトレードマークの水竜のマントでもいつもの動きやすい簡易シャツにパンツ姿でもない。きちんとパーティー仕様になっていて、流行をおさえた濃紺の礼服姿は洗練されていてとても様になっていた。


Sランク魔法使いがいることに気づいた招待客たちがざわざわし出す。


「おい、あれってS ランクのミヅキじゃないか?」


「まぁ、殿下が招待されたという噂は本当でしたのね」


「あら、殿下ってミヅキのファンだったの?」


「ああいう格好をしていると、冒険者ではなく貴公子に見えてもおかしくないな」


そんなような声が飛び交う中、私には2人の視線が突き刺さっていた。


ハルトさんと、もう1人は……アンリだ。


アンリはたぶん私がミヅキを好きなんじゃないかと疑っているから、ミヅキが会場に現れたことで私の反応を窺っているんだとわかった。


ノヴァ様には前もって話してあるからノヴァ様は特に驚いてはいなかったけど、ハルトさんは私とミヅキを交互に見て「え? え?」と言っている。


あ、分身魔法のことを言ってなかったかもしれない。


私は扇を開いて口元を隠し小声で伝えた。


「あれは分身です。殿下が『ミヅキ』を招待したため仕方なく」


そう言うとハルトさんは恨めしい顔をした。


ああ、「分身」というワードを聞いてそんな顔をしているのか。なんか、ごめん。


給仕がグラスに入ったお酒やジュースを配っている。私はジュースをもらい、ノヴァ様とハルトさんは果実酒を選んだ。


優雅な弦楽器の演奏が鳴り響いた。ようやくパーティーが始まる。


そして扉が開き、このパーティーの主役であるお兄様とセシリア嬢が華々しく入場した。


優雅な演奏をかき消してしまう程、盛大な拍手が鳴り響く。


お兄様とセシリア嬢が5,60人程の招待客を見渡せる位置に立ち、拍手が鳴り止んだところでお兄様が開会の挨拶を始めた。


「大変長らくお待たせ致しました。本日は僕とセシリアの婚約披露パーティーにお集まり頂き、誠にありがとうございます。ヴィエルジュ家とフィシェ家が結ばれることで、この国により良い未来が訪れることを僕たちは願っています。では、ルナヴィア一有名な楽団による演奏と我が家のシェフが腕によりをかけた料理もご用意しておりますので、どうぞ皆様このひと時をごゆっくりお楽しみください」


拍手が湧き起こる。


「皆様、グラスのご用意はよろしいでしょうか」


私はグラスを少し上に掲げた。その時、袖口が少し下がり右手首に着けていた黒の魔石のブレスレットが顕になった。ノヴァ様にもらってから毎日身に着けているけど、それが見えただけで途端に心が落ち着かなくなってしまう。


「乾杯」


その合図で、皆各々動き出し、我先にとお兄様とセシリア嬢の元へ向かう者が多くいた。


私は腕を下ろし、少しだけジュースを口に含んだ。


「よし、食べるか」


ハルトさんは真っ先にお味噌汁の前に行き、給仕にお味噌汁とおにぎりのセットを頼んだ。


漆黒の目をキラキラ輝かせて用意された豆腐のお味噌汁とツナマヨのおにぎりを眺めている。よだれも垂れてきそうだ。


お椀を両手で持ち、まるで神聖なものを頂くような所作で一口すすった。


そしてゆっくりとお椀をテーブルに置く。私とノヴァ様はハルトさんのお味噌汁を飲む一部始終を眺めていた。


「……うっ、グスッ……う、うめぇ……」


思った通りの反応で私は苦笑し、ノヴァ様は呆気にとられたように目を瞬いていた。

次回は1/26(月)に投稿致します。

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