181.ノヴァ様が王都に来ました
玄関ホールでは、お母様とお兄様がノヴァ様を出迎えていた。
私が降りてきたときにはちょうどお母様がお兄様をノヴァ様に紹介していて挨拶を交わしていたところだった。
不意にノヴァ様と目が合う。
ドクンと心臓が脈打った。
久しぶりに見るノヴァ様の人外じみた(神様だから当然なんだけど改めて)美貌と独特な気配を感じて胸がいっぱいになる。締め付けられるような息苦しさも同時に襲ってきた。
「ディアナ様、お久しぶりです」
「お久しぶりです、リュトヴィッツ卿。ようこそいらっしゃいました」
簡単な挨拶を交わすだけなのに、声が震えそうになって困った。この場にはお兄様もいるから。
そしてお母様がノヴァ様に晩餐を一緒にということを約束し、侍従がノヴァ様を2階のゲストルームに案内した。
私は晩餐の時間までまだ少し時間があるので、まだ途中だった転写を終わらせてしまおうと自室に戻った。
ノヴァ様の歓迎の晩餐会。
食堂のテーブルには当主の席にお父様、お兄様の隣にノヴァ様が席につき、私はお母様の隣の席についた。結婚披露宴の新郎新婦のテーブルかっていうくらいいつもよりも豪華にテーブルメイキングされ、中心にはいくつものアルバローザが魅力的に生けられている。
晩餐中お兄様は興味深そうにノヴァ様にあれこれ質問したりして、それにノヴァ様は言葉は少ないけど律儀に返していた。そして領地で話題になっていたお父様との打ち合いについての話になった時、お兄様はちゃっかりノヴァ様との手合わせを約束していた。
私は数日ぶりのノヴァ様が目の前に座っているため自分を律することに忙しく手合わせ以外の家族の会話があまり耳に入っていなかった。それでも晩餐までずっと魔法を使っていたからお腹ペコペコで食事は進んだ。
晩餐後、ノヴァ様に完成した大豆加工用の魔法陣を見せようと思っていたのに、たくさん魔法を使ってご飯も食べたせいか部屋に戻った途端眠気が襲ってきた。体は13歳の子供なので睡魔には抗えず、ノヴァ様に見せるのは明日にすることにした。
そして翌朝。
お父様は王宮へお仕事、お母様は中立派の夫人会、お兄様は学院ということで邸の中には使用人を除くと私とノヴァ様しかいない。
朝の鍛錬とフェリクス大叔父様の授業を終えて昼食も済ませた後、ノヴァ様と談話室で大豆と加工の魔道具の進捗を報告し合うことになった。
「大豆の加工場の改装は順調だ。魔石も持ってきている」
「ありがとうございます。加工の魔法陣は既にできているのでこれですぐに魔道具を作れます」
私は醤油や味噌、豆腐などに加工するそれぞれの工程の魔法陣が描かれた羊皮紙の束をノヴァ様に見せた。ノヴァ様はそれを手に取りパラパラとめくる。
「……すごいな。こんなに大量の魔法陣を写すのは大変だっただろう」
「コピペの魔法があるので楽でしたよ」
「コピペ?」
「模写してそのまま貼り付けることです。こんな風に」
私は収納魔法で紙を1枚取り出し、適当な魔法――『蒼焔』の魔法陣を出しコピペの魔法で魔法陣をコピーしてそれを紙に貼り付けた。
「……なるほど。それを『コピペ』と言うのだな」
ノヴァ様が「コピペ、コピペ」と新しい言葉を覚えようとするように何回か呟いている。
本当はコピー&ペーストだけど、「コピペ」って言うノヴァ様がちょっと可愛いから黙っとこう。でも油断していると笑いが口から漏れそうだわ。
私は軽く咳払いをした。
「えっと、大豆はどれくらいございますか?」
「ディアナが収穫した大豆は置いてきたが、魔法で変えた分の大豆は持ってきている」
「でしたら後ほど魔石と大豆をいただいてもよろしいですか? 試作に時間をかけたくて」
「わかった。俺も試作の場にいたいのだが良いか?」
「もちろんです。一緒に作りましょう」
試作に成功すればお兄様の婚約パーティーで出される料理の中に大豆製品の料理を加えることができる。実は事前にお兄様にお願いして提供する料理の枠を1つ作ってもらっているのだ。王太子や高位貴族ばかりを招待しているから上手く行けばエルガファルの大豆を宣伝できるから。
その日の夜、お父様に執務室に呼び出された。
ノヴァ様の正体についてお兄様に明かすためだ。当のお兄様はそんなこと露知らずで呼び出されている。
執務室には既にノヴァ様とお兄様がいて、ソファに座って向かい合っている。
私はノヴァ様の隣に腰を下ろした。
お兄様がきょとんとする。
「あれ、ディアナも?」
「そうですよ」
「ふむ、ディアナもいるってことは……そっち関連の話かな?」
お兄様、鋭い。
私の表情で察したお兄様がノヴァ様をチラリと見やる。そっち関連だとしたらこの場にノヴァ様がいることが解せないみたいだ。
お兄様が息をついた。
「でもディアナ、座るとしたらこっちでしょ」
お兄様が自身の空いている隣を手で示した。
「え? あ……」
お父様は一人掛けのソファに座っているためお兄様の横も空いていた。こういう場合、お客様扱いのノヴァ様の隣に私が座るのは少し変だ。でも無意識に座ってしまった。
私は少し恥ずかしくなり、慌てて「間違えました」と言って席を立とうとすると、ノヴァ様に腕を掴まれた。
「良い、ここで」
ノヴァ様の強く光る瑠璃紺の瞳を見て、私は「あ、はい……」と大人しく座り直した。
お兄様の片眉がわずかに上がる。
「さて……」
お父様のひと声で和やかな空気が引き締まった。
お父様がノヴァ様を見ると、ノヴァ様はお父様を促すように頷いた。
「ノア」
「はい」
「前にランデル山脈の黒竜はいなくなったと伝えたが」
「ええ」
「実はここにいる」
お父様が手で示す。その手の先にいるノヴァ様を見てお兄様は「……は?」と、あまり聞いたことのない声を出した。
次回は12/25(木)に投稿致します。




