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幕間(26)

晴れ間の見えない空の下、目の前の湖を一艘のボートが横切った。若い貴族のカップルが乗っている。幸せそうな笑顔でお互いを見つめていた。


それをぼうっと眺める。


穏やかな風が頬を撫で、髪を揺らした。背後で黄色のチューリップが揺れる音が聞こえる。


……


……


ディアナに振られた。


それを受け止めるのにまだ時間がかかりそうだった。


ディアナに好きな人がいる。


その事実は俺に強烈なパンチを食らわせた。


さらに俺を地の底に叩きつけたのは、ディアナの好きな相手は領主貴族ではないこと、そして次期当主の身分とは婚姻できないことだった。


特殊スキルを持たない俺は次期公爵という身分しか取り柄がない。なのに、その取り柄さえも否定された。


ズボンのポケットに手を入れベンチの背にもたれる。人目も憚らずだらしない格好だがもうどうでも良かった。


……


……


一体どこのどいつだ。


とりあえず、相手がユアンでないことにほっとした。あいつは去年の夏辺りからディアナに興味を抱いていたから気が気じゃなかった。ユアンだけはやめてくれと思っていた。


俺はユアンに劣等感を抱いている。ユアンだけじゃない。ノアにもリュシアンにも、だ。俺は特殊スキルを持っていないから、領主貴族の中で特殊持ちがいると引け目を感じていた。誇れるものがあるとすれば魔力感知能力と剣術だが、それはユアンもノアもリュシアンも持っているし、剣術も俺はその3人には劣るレベルだ。


だがユアンがリリアと婚約したことでその懸念は払拭された。しかもディアナも否定してくれたことで完全に杞憂に終わったのは幸いだ。ならユアンのことはもう良い。


それなのに、ディアナの想い人は領主貴族ですらない。


じゃあ俺は領主貴族でもないやつに負けたことになるのか……?


俺はディアナの想い人がわかった時、冷静でいられるだろうか。


普通は好きな人の幸せを願うべきなんだろう。だがそんなのは詭弁だ。俺はそんなに心が広いわけじゃない。ディアナが俺じゃない誰かと幸せになるのを、この先ずっと友人として見続けなくてはならないのか……?


ふとズボンのポケットの中のものに気づき取り出す。今朝リリアから没収してポケットに入れたままだった。


鈍い色をした光沢のある石を使ったネックレス。


朝出かける直前のことだ。リリアの部屋の前を通った時、リリアの部屋から微かに人のものではない魔力を感じて不審に思い部屋に入った。


部屋にはちょうどリリアがいた。


「あらお兄様、どうなさいました? これからディアナとデートでしょう?」


そう言って振り返ったリリアが手に持っているネックレスからその魔力がした。


魔石かと一瞬思ったが、その色を見て眉を寄せた。見たことのない鈍色だったからだ。


「これをどうした」


「婚約祝いのプレゼントにもらったものですわ。我が家に届いたプレゼントの山の中にあったみたいなのですけど、誰からかがわからなくて」


リリアやこの家の者は俺以外魔力感知ができないためこれが魔石だと気がつかなかったのだろう。だからといって差出人不明のものをむやみに開けるのは注意力が足りない。リリアは、侍女がプレゼントの整理をしていた時に見つけて覚えがないか自分に持ってきたから確認のために開けたのだと弁明した。だとしても将来王太子妃となるのだからもう少し危機管理を備えてほしいものだ。


四大属性の魔石なら気にもとめないが、これは見たことのない色の魔石なため怪しく見えた。


こんな怪しいものをリリアの手元においておくわけにはいかないため没収し父上のところに持っていこうとしたが、父上はもう王宮に行った後だった。


その上ディアナと会う約束の時間が迫っていたため、ひとまずポケットに入れてそのまま出掛けてしまった。


ディアナと会っている間は常に緊張していたから、この魔石のことを今まですっかり忘れていた。


そういえばディアナは気づいていたな……


だが俺のズボン辺りを怪訝そうに見ていたにもかかわらず、何も言って来なかった。人のものではない魔力を感知したはずなのに。この国に流通している魔石は隣国から輸入しているものと、魔獣から採取したものだ。ただ魔獣から採取した魔石は魔獣の魔力が全て抜かれた状態で流通する。だから不審に思って指摘するものだが……


俺は金細工のチェーンを持ってしばらく怪しげな魔石を眺めた。


ユアンに報告……いやまずは魔塔に調べてもらうのが先か? いや、せっかく外にいるんだ、これが何なのか鑑定しに行こうか。これが何なのかすぐに知りたいしな。


それに俺は何か別のことをしてこの満たされることのない感情から一旦逃れたかった。


鑑定専門の店は貴族街にもあるが、俺の顔と身分は割れている。結果云々でどう転ぶかわからない。それならと、懸念の少ない城下にある装備店で鑑定してもらうことに決めた。


再びネックレスをポケットにしまい、俺は胸の中に鉛のように重たい塊を抱えたまま、城下に出る貴族門へと向かった。

次回は12/18(木)に投稿致します。

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