0話 大波乱のその裏で
最重要都市「小白」の掌握。その千布浩介のスワーム軍に対する反逆とも取れる行動は、既に軍やスワーム大共和国の大臣らの間では周知の事実であり、その話題で会議は持ちきりであった。
「せっかく我が国の最高傑作である、プラッシュドールの適任者が現れたと言うのに……その者が裏切るなどとそこらの馬鹿でもしないようなことをしよって……」
と、農業総括大臣はそう悪態をつく。いち大臣としてその口遣いはどうかと思うが、周りの大臣らが皆、うんうんと一斉に頭を縦に振るあたり、全員が同じ気持ちなのだろう。
「小白をなんとか取り返そうにしても、あのルピー王がプラッシュドールと契約して絶大な力を有しているように、あの馬鹿ガキもそれに近いぐらいの戦闘力があると踏んでもいい」
「だがルピー王が送った精鋭部隊なら奪還できるのではないか? 彼らの戦闘力は折り紙つきだろう」
「四聖団は? 彼らは動かないのか?」
「四聖団はルピー王を除けば我が国の切り札に近しい四人だ。ここで使うなど勿体無いの一言に尽きるだろう。それに精鋭部隊でもたかが数人を潰すのには十分すぎる戦力だ。四聖団が出る幕ではない」
漁業総括大臣、防衛総括大臣、観光総括大臣など、続々と大臣らが参加していき、議論は混沌を極める。
だが、混沌を極める中でも、一つの争点はあった。
「だがここは私らインフラ省に任せていただきたい。小白の復興もあるうえ、拠点作りなどで精鋭部隊を支えられる。インフラ省が彼らの援護として相応しい」
「いや防衛省だ。復興など後でいくらでもできる。それにいつ襲われるのか分からないのだから復興など意味がないだろう。ならば今は戦力の増強に対して最大限協力ができる私たち防衛省が適任だろう?」
そう、誰の省がこの小白奪還に向かう精鋭部隊を援護し、ルピー王に一目置かれるかを争っているのだ。
そもそもの話。ルピー王は「王」とついているが実際のところ、彼の所有する権利は「スワーム軍全軍の指揮権」だけなのだ。
だがその権利の価値は非常に高くつく。
軍隊が自身のバックにいるのならば、それをちらせば自身の政敵などは一気に楯突くことはなくなる。
彼らは虎の威を借りる狐の狐なのだ。
「小白の復興など戦争が済んだらやればいいだろう!?」
「小白から得られる総利益の大きさを貴様ら防衛省は知らぬだろうにっ!! 血気盛んな奴らには暴力がお似合いなのだなっ!!」
「「貴様ァァッッ!!!!」」
「―口を閉じろ大臣諸君」
「「っ!?」」
荒れる会議に一手を投じたその一声。
その声の主は載せられた王冠の位置を物見せように直しながらゆっくりと腰を上げる。
そう、ルピー王だ。
「四聖団もましてや貴様らの支援など要らぬ、我が精鋭部隊だけで十分だ」
「ですが王っ……それだと小白の復興が―」
「戦力的問題などは―」
「要らん」
「でっ…ですが相手は能力者の集団ですっ! 装備はあれど所詮生身の人間では到底太刀打ちできる存在では―」
「必要ない。いい加減に下がることを覚えるのだ、そもそも自室で普段寝そべっている貴様ら外野がどうこう言う立場などないのだぞ?」
「「ぐっ……」」
あまりの言いように反論したいが、立場上、そして自身のこれからを鑑みてできないもどかしさに、ただ下唇を噛み、感情を抑えることしかできない。
そんな大臣らを楽しむかのように一瞥したルピー王は、口角を上げ、彼らにこう提案した。
「まあ安心したまえ。小白の復興も……そして戦力も。その二つの暗雲な貴様らの悩みに対する回答は既に用意してある」
ルピー王は自信たっぷりにそう言うと、「入って来い」とドアの向こう側に向けて声をかける。
「これと、その部隊がいれば、貴様らの両方の悩みなんてものはなくなるはずだ。……そうだろう?」
『…』
「―ドル」
入ってきた人物、もとい機械は、千布浩介の契約プラッシュドールであるドルだ。
『私の部隊と、私の力があれば。必ずや野蛮人に奪われた我が領土を奪還できると自負しております』
「バカなっ!! プラッシュドールだけでは戦力などたかが知れている! コイツらの真骨頂は契約者に自身の数十倍もの莫大な魔力と強力な異能を授けるだけの中継地点だっ!! それが追加の戦力などと……我が防衛省をバカにしているのかッッ!!!」
「防衛総括大臣……。貴様のその態度、聞いて呆れるぞ」
「……ルピー王ぉぉぉ…」
「だがその気持ちは理解できる。普通のプラッシュドールの戦闘力はそこまでだからな。―だがコイツは違う」
ニヤリと笑ってみせるルピー王。彼は両手を広げて大臣らに問い掛けた。
「諸君、覚えているか? 首相がマサシノからサーファに代わることが決まった頃。とあるプラッシュドールが異世界へ島流しにあったことを」
「聞き参じております。たしか……ユロ? でしたか。当時非力なプラッシュドールの中でも一際目立っていた最強のプラッシュドール……でしたか?」
観光総括大臣が己の記憶を頼りにそう言葉を繋いでいく。
そしてその言葉を聞き、ルピー王は頷きながら。
「そう。そしてコイツはそのユロと同レベルの戦力を有している機体だ。例えで言うと……中規模の怪物を単独で始末できるぐらいの戦闘力がある」
中規模の怪物を単独で。それを耳にした大臣らは驚きを隠さず会議室はどよめいた。
中規模の怪物の撃破は、だいたい兵士100人規模でやっとというぐらいだ。
それを単独で撃破なのだから相当の戦力だということが伺える。
「十分だろ? 一機で100人分なのだぞ」
「……たしかに」
「そうですね。もう私たちからは何も言うことはありません」
大臣らの抗議が収まりを見せ、議論は無事に終幕。
ただ、最後に一つ。防衛総括大臣がドルに尋ねた。
「いいのかね? お前と契約した本人と戦うのかもしれないのだぞ?」
『………問題、ありません』
ドルは静かに拳を握る。
『裏切り者にはそれ相応の処罰を与えるだけです。それが私の相棒だったとしても』
その握った拳にどのような意味、そして意志が込められていたのか。それはまだ誰も知る由もなかった。




