20話 少年と遅刻魔と一途な女
ライドリッヒ、浩介との激闘を終え、重りの乗ったように重い身体をなんとか動かしながらも、玲はなんとかユロや珠子と別れた場所へと戻ることができた。
「………疲れた。というか、ユロにこの一件を伝えないと。でも手段が……」
『心配はねえぞ』
「うわっ!? いきなり出てくんな!」
唐突に虚空から現れたユロに、幽霊を見たかのような反応を示しながらも、内心、これで手間が省けたと得に思えた玲。
『これでも気配が分かるぐらいには誇張して近づいたんだがな……。玲、お前よっぽど疲れてんだろ』
「………まあ、だいぶ」
『だろ? …とりあえず今は休んどけ。睡眠ほど効果的な休息はないぞ』
「でも」
『でも、じゃない。―忘れてるかもしれないから今一度言うが、プラッシュドールの契約者が死んだ場合、その契約プラッシュドールもろども道連れ。つまりは俺も死ぬんだからな』
「………あ、そうか」
『玲。お前、そのテンション。マジで疲れてんだな? 有無も言わずに休めよ』
「それは………できない」
『あ?』
「決めたんだ。この戦争に終止符を打つために、みんなで協力するって。それなのに言い出しっぺの俺が欠けるなんてことはしたくない」
『…………主人公にでもなるつもりか?』
「いいや、違う。この世界を救う者たちに俺たちはなるんだよ」
『………そうかい』
どこか納得したかのような言い草で、ユロは空を仰ぐ。
『ついさっきまでは、友人に会いたい一心のみで戦場に身を投じるバカかと思ってたがよ』
「おい」
『どうやらそういうわけじゃ、なかったみたいだな。みちがえったお前を見て、俺は感動したよ』
「まあ、ね」
『―ということで、俺はお前に一つの最高でハイスペックでモテモテな提案をさせてもらう』
「………なんだそのアホらしい提案は」
『それはな、特訓だよ。特訓。今の単なる高校生なお前をみちがえるほどのムッキムキなボディーに。ちょっとの衝撃じゃあ揺るがないほどの強度を持った鋼のメンタルに、な』
―そこから二週間もの間。玲に過酷な試練が立ち塞がった。
『はーい、次腹筋100×5ー』
「ちょっ……まっ!」
『この短期間で軍人並み、またはそれ以上の肉体を我が物にするにはこうするしかねぇんだよ。だから、頑張れ』
「いくらなんでもこれは頑張りすぎだろお!?」
休む暇さえない、地獄のトレーニング。
今のような腹筋や腕立て伏せなどの基礎的なものから、それらの応用系のもの。そしてランニングや水泳など、ありとあらゆる形で玲の肉体に負荷をかけていく。さらにそれが約半日。
日が経つにつれて若干の慣れを感じつつも、やはり半日でする量のトレーニングではなく、心では必死に喰らい付いているつもりでも、身体が追いつかない。
だが、それでも玲は、自身の動かなぬ身体に鞭打ち、気合いを入れて身体を動かす。
「498………499っ………………ご…ひゃくッッ!! ―はーっ……はーっ……」
『んだよできんじゃねぇか。じゃあ次ランニング20キロ。その後30秒の休憩を挟んで反復横跳びを10分耐久―』
「きゅうっ……けい!! いい加減にまともな休憩させろ! お前ここんところ俺が食事と風呂と寝る時ぐらいしかしっかりした休憩取ってないの知っててやってんのか!?」
『食事と風呂と寝る時、も、だろ? 十分じゃねぇか』
「どこがだよっ!! トレーニングの量と休みの時間が釣り合ってないだろうがどう見てもっ!!」
『????』
「んな信じられない顔をされてもっ……!」
『仕方ないだろう。さっきも言ったがな、軍人の類稀なるフィジカルを手に入れるには普通は数年もの長い時間がかかる。そんな流暢にやってる暇はない』
「別にトレーニングなんてやらなくても、俺には能力が……」
『馬鹿かよ。そんな便利なもんに頼りきりだから地球人はバカになるんだよ』
玲を鋭い言葉で一蹴したユロは、バチバチと片手に走る電流を戒めに見ながらそう語る。
『たしかに俺たちプラッシュドールが保有する能力は強い』
「だったら別に利用したって―」
『能力に全幅の信頼を置けば、その分相性不利の相手、ましてや何らかの手段で能力を封じられたら?』
「―なんもできない」
『なんもできないじゃあダメなんだよ。だから最悪の事態に備えるためにも、トレーニングで体を改造してかなきゃいけねぇんだよ』
「備えるって……大抵の敵は雑魚だし」
『……………はぁ、コレだから平和な国で育った奴は。―いいか? これはゲームじゃねぇんだ、戦争だ。死んでも復活するゲームじゃなく、一つの命しかない戦争なんだよ。たとえ雑魚でも背後を取られてもみろ。背後からのひと刺しで簡単にも死ぬんだぞ? そして中にはそんな意志のない死体を利用する輩もいる。それは嫌だろう?』
「嫌、だな」
『ならば強くなる、それしかない。結局最後に自分を守れるのは自分なんだよ』
その後も、対軍隊を想定した実践トレーニングや、トレーニングと題して多くの食材を胃にぶちまけられる、食事トレーニングなどが続いた。
その間何を思ったのか、黙々とトレーニングを続ける玲。
そう、戦争は数のぶつかり合いであり、質のぶつかり合いでもある。どちらかに振り切ったり何かに頼り切りなようでは三流なのだ。
―そして。
そんなこんなで長いようで割と短い二週間は幕を閉じ。
以前よりもがっしりとした肉体を引っ提げ、肌を触る冷たい風を感じながら、冷は再び戦場に立つ。
「―そういや二週間戦線に顔出してなかったけどさ、まさか深刻な事態にだとか……」
フード付きのウィンドブレーカーを装いながら、玲は今更ながらに疑問を投げかける。
『バカ言えちゃんと状況確認は随時行ってたわ。小白郊外でのお前たちの戦いで、浩介やライドリッヒ、そして珠子という、双方の主戦力担う人材が軒並み負傷したんだ。特にスワームに至っては、小白戦線の打開をしたのは浩介一人なのだから、その浩介を失った今は簡単には攻められないんだよ』
「じゃあ今攻めれば…」
『そうだな。浩介のいないスワーム軍では、純粋な武力で勝るロンリー軍には太刀打ちできない。つまりは敗戦まっしぐらだ』
「だよな……。でも、それを防ぐための俺らだろ?」
『そうだ。俺らは一応はどこにも所属していないフリーの者。第三者としてこの場をまとめれることができさえすれば、小白戦線はこれ以上血を流さずに済む』
ただ、と一つ。ユロは補足として、予測されるであろう結果を言った。
『その代わりだが、ヘイトが俺たちに向く可能性も否定できなくはない。地球では、クリスマスの日だけ休戦し、互いにその日を祝ったって言うぐらいには、人は何が起きるか分からんしな』
「マジか」
『マジだ。まあ、そもそもの話しだが、たかが数人で数万規模の軍を相手取るなんてことは普通不可能な話だ』
「たしかに、そんなバカことするぐらいなら、俺はさっさと逃げるか降伏する」
『だろ? ……だが今回は違う。今の強靭なフィジカルと、雷の力を持ったお前は、一人で軍隊規模の武力を有している。…まあ人を殺さない、という制限がある以上、本来の力は出せないだろうがな』
「とにかくは、今の俺ならある程度は戦えると?」
『まあな』
「でも、それでも無血で治めるにはそれ以上の武力が必要だろ。拮抗しているようじゃそもそも勝てないし」
『そう。だから援軍を事前に用意しておいた』
ユロが言い終わるのと同時。ユロがもたれかかっていた大岩から、よく知るクラスメートが姿を現した。
「まっさかこの俺を置いて一人戦線に行くなんてな……。玲、お前死に場所でも見つけんのか?」
「浩介っ!」
「おうよ。主人公の千布浩介さんだ」
『コイツな、目覚めてから珠子を通じて俺に連絡して来てな。絶対的戦力になるから協力してもらうことにした』
「………あ、でも珠子は………。俺の聞いた通りだったら、珠子たちと同じ医療班のところにいたはずじゃあ…」
「あー……。片瀬か」
なにやら気まずそうに、その短髪な後頭部を右手でポリポリ掻きながら、玲は小さく息を吐くように言を発した。
「逃げて来た」
「は?」
「逃げて来たんだよ、片瀬から」
「謝るんじゃなかったのかよっ!?」
「そりゃ謝ったわっ! 逃げたのはその後!」
―いわく、話を聞いてみると。
目覚めた後、たまたま見かけた珠子に歩み寄り、以前の愚行を謝罪した浩介。
だが、何故か感極まっていた珠子に抱きつかれ、嗅がられ、顔を埋められ、挙げ句の果てには求婚までされたと言う。
「(何してんだ珠子、いくら浩介が好きでも、これでは厄介オタクにしか見えねぇだろ!)」
「まあともかく、謝ったしあの反応を見る限り許されてたっぽいしな」
心配すんなとばかりに、片手をひらひらと上げる。
そんなまるで「すぎたことは気にすんなよ」と言いたそうな面をしているが、あいにくのことだが。玲とユロは見えていたのだ。
「なら良いんだけどさ……」
「あ…?」
対面するように玲と話していた浩介は、背後から忍び寄る影に気付かずに、その者の抱擁をなす術なく受けてしまう。
そしてその者の姿を目視したした浩介は、次第に顔を、澄んだ青海よりも青く染め上げ戦慄する。
その者とは―
「浩介浩介浩介浩介浩介浩介っ! 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きっ!!!!」
「……っ!?」
「珠子、お前どうしたんだよこんなとこまで!?」
珠子だ。
何故か壊れた機械みたく、浩介と好きを連呼しているが。
「ねえ浩介。私ここまで頑張ったんだよ? 裏切りだとか言って私を追い回す輩を全員ぶちのめして、こんな愚かなことはやめてくれとか言う分からずやな同僚すらも振り切って、ロンリーに残る全てを捨ててまで貴方を追いかけてきたんだよ? ご褒美ないと私ここで死んじゃうよ…?」
「う………あ、あぁ…そうだな、頑張ったな……」
「うへへぇー……」
目がキマっている珠子の要望を、顔を引き攣らせながらも呑み、彼女の柔らかな髪を撫でる。すると珠子は、飼い犬が如くおとなしくそれを受け入れ、幸せや気持ちよさその他諸々を感じていそうな柔らかな表情を浮かべる。
―かと思いきや、撫でられながらもスッと表情を戦士のそれに戻し、玲へと視線を向けた。
「というわけで、玲、私も行くわよ」
「緩急つけすぎだろ……別にいいけど。でも珠子、いいのか?」
「何よ?」
「俺と浩介は元からフリーだったから、第三者としてこの戦いに介入しても別にいいんだけど。珠子はそうはいかないだろ。ロンリーの大佐ともなる人が俺らに協力してもいいのか?」
「何言ってんのよ」
呆れ顔で珠子は玲の疑問を切り捨てる。未だ撫でられているが。
そして、この上なく真剣な眼差しで、こう返すのだ。
「―愛。ええ、愛さえあればどうにでもなるわよ」
その間、5秒とコンマ6秒。
「いやいやいや、愛でどうにかなる問題じゃないって。この行為は軍に対する裏切りであって、バレたら珠子は死すら許されない処罰を受けるかもしれないのに―」
「だから愛さえあればどうにでもなるし、愛が最優先なの。裏切りとか、処罰なんて二の次。だから今は、浩介をあれ以上ないくらい、浩介の脳の処理が追いつかないぐらいの愛を伝えるの」
「?????」
「アンタの脳処理がバグってどうすんのよ」
バグっても仕方のないぐらいのイカれ具合だと思うが、とりあえずは保留にしようと思う玲。
「んで? その援軍はコイツらで終わりなのか?」
『珠子は想定外だったが、まあこれで全員だな』
数は多い方が良いしと付け足しのようにユロはそう言う。
そして、その言葉を聞いた浩介は、自身の仲間の事を話題に出した。
「俺の方からも援軍呼んでやろうか?」
『あれだろう、オリバとかその辺りを呼ぶつもりだろう。…そしてドルも』
「まあな」
『やめとけ』
すぐに拒絶され、理由も聞かず怯んでしまう浩介。
『アイツらは御国に命捧げてんだ。簡単にはスカウトはできん』
「でも……にしたってドルは俺の相棒で―」
『―ひとつ、無知なお前に教えてやる。プラッシュドールがなんらかの理由なし、または王の許可なしに軍から離れた場合……』
「あ?」
ユロは何拍か置いたあと、右手を握り、爆弾が爆ぜるように素早く手をパーにしてこう伝える。
『もれなくそのプラッシュドールは問答無用で破壊される』
いきなりの衝撃の事実に、驚きを隠せない一同。
「ま、待てよ。それだとドルとはもう一緒に戦えないってか!? 相棒でも友人でもなくっ、敵としてこれから接しろと!?」
「おおお落ち着いて浩介。嘘よねユロ、さすがに」
『んなわけあいかい。俺がこんなときに嘘つくとでも?』
「どどどどどどうしようどうしよう!!」
「二人とも落ち着いて…。たしかにこれは驚きだけど、ユロの言う通り、プラッシュドールが軍から離れるとその機体は破壊されるってなると………ひとつ疑問が出てくる」
すると玲は視線をユロに向ける。
「ユロは破壊されるはずでは?」
『―まあ、たしかにな』
「いや、まあたしかにな、では済まされないことだろ。なんでお前は破壊されてねぇんだ」
『浩介、そういえばお前には言ってなかったか。俺は昔、軍と国から地球に追放された者なんだよ』
「…そういえばそうだったような」
『ざけんな割と重要な過去なんだぞ。―でだ。追放されたとなれば、俺の機体名はスワーム軍には登録されてない。追放された機体は名簿から抹消される仕組みだ。そして追放者はいないも当然、ましてや地球に追放されたとなれば、余程のことがなければ戻ってこられない。今やスワームの者ではない俺は、だから破壊されない、できないってわけ』
「なるほど、納得理解」
『腹立つ言い方だがまあ良い。……路線がだいぶズレたが』
ユロは背を向け、その先を指差す。
その先は、今なお治まらぬ戦火の火種を抱えた都市、小白。
『これで俺たちの戦力は以上だ。まずは小白に向かい、あの火種を抱えた都市を鎮火する』
「すんません比喩わからないっす」
『小白を治めるって意味だ。浩介、お前理系か?』
「どっちでもないフリーだよ」
『なんだ、頭悪いだけか。そりゃそうか』
「ぐっ……あぁぁぁ!!」
「落ち着いて浩介。ほら、私の頭撫でて気分落ち着かせよ?」
『ちっ……。―で、もちろん無血でだ。殺しは許さない』
「無血で、両軍のヘイトを向けられたうえで、戦線をまとめる。まあ難しいよ、そんなこと」
「だから俺たちが助太刀として協力すんだろ? 眠らされてから体力トレーニングしかしてなかったし、腕に自信ないけど」
「私も」
はぁ、と玲とユロから息が漏れる。
『じゃあ行くとするかね』
「着いてどうすんだよ」
『4、4で別れ、それぞれスワーム側、ロンリー側を対応してもらう』
「戦力的に大丈夫そう? 私と浩介は、久しぶりの戦闘だけど」
『だったら班決めは決まりだ。俺と珠子、浩介と玲のタッグで行く。それぞれ前者はスワーム、後者はロンリーを対応する』
「お、俺たち一緒だな、玲」
「ラッキーだね」
スムーズに班決めは決まり、多くの者はその配属にとても満足している。
一名、愛しの浩介と一緒になれず、ユロに牙を剥く者もいたが、そこには触れないでおこう。
―そして再び戦いの火が吹き起こる。
キーンという耳痛い金属音が小白市内の街宣スピーカーから発せられ、両軍の兵士は互いの懐を探りながらも耳を傾ける。
それらのスピーカーから発せられた声は、実に奇妙で奇抜で興味をそそるような―
[えー……我々………なんだっけ?]
[治安維持委員会!]
[なあ珠子、そこはジャスティスプロテクターズで満場一致だったじゃ……?]
[黙れ玲。そんなダサいネーム、この俺は認めてないし、そこはこの俺ユロが考えた、暫定統治軍ではなかったのかよ]
[あーもうわかったわかった、全員シャラップ! ―えー、我々暫定治安プロテクターズは、スワーム大共和国ならびにロンリー大帝国の両軍の小白部隊に―]
[[[[宣戦布告をするッ!!]]]]
なんとも間抜けさが抜けきらないままでの宣戦布告に、あくまでも冗談として、奇妙さも奇抜さも興味心もそそられずに無視を決め込む、両軍一同。
だが、すぐに両軍は気づくことになる。
この間抜けな集団が、両軍を上回る実力を持った武闘派集団だったということに。
「―さて、ユロ、殺しちゃダメなのよね?」
『当たり前だ。……それに俺のこともな』
「なんだ、気づいてたの? 私、あんたのこと、結構恨んでるからね」
『班決め程度で恨みを持たれてもな……』
「愛は全てを消し去ることも可能なのよ?」
『わかった、わかったよ』
このような雑な会話をしつつも、その傍らでは、常に兵士たちの悲鳴がそこら中から湧き出ている。無論、殺さない程度に手加減をしてだ。
それほどなまでに、彼らは強くなったのだ。
一人で軍隊規模に匹敵するならば、それが4倍。おそろしいものだ。
[おい、ヤバイぞあの女とちっこいの!]
[こうなったら、アレ出すしかないぞ……]
[よし、アレ持ってこい! 奴らに一発くらわせろ!]
「ん……?」
そう。遠くからの兵士の会話を聞いた二人が、その会話が聞こえた方へと目線を向ける。
すると、そこには、巨大な大砲がズラリと並んでいた。
[たとえ超能力を使えたとて、所詮は人! でかい玉くらったらひとたまりもないのは変わらないこと! お前ら……―ってーッッ!!]
ッドオォォォン…! と、地を揺らすほどの衝撃と爆音を伴って、数十発の砲弾が、珠子とユロに注ぎ込まれる。
コレはやったと、多くの兵士は思ったと同時、少しやり過ぎたかと思いもした。
―だが、そんなことはなかった。
「―氷壁」
[なっ!?]
女が地に手をつけた直後、地面から分厚い氷壁が姿を表し、砲弾を全て受けきったのだ。
[バカなありえない! 23発だぞ!? それも同時発射の! ……まあ良い、女がダメならあのちっこいのを狙うまで! 第三小隊、背後に周り、ちっこいのを射殺しろ!]
[―了解…]
『なんだ…?』
機動力が持ち味の第三小隊は、素早くちっこいのの裏を取り、そして即座に発砲する。
―だが、こちらも。
[よし、裏は取れた。総員、撃てッ!]
『―神速』
[しょ、小隊長、ちっこいのの姿が! 見当たりません!?]
[ど、どこだ! 奴は、ちっこいのは!]
[―電光弾]
[アイツ、はやっ―ぐあっ!?]
失敗に次ぐ失敗。
目視できないほどの弾速を持つ鉛玉をくらい、第三小隊は壊滅。
いずれもなぜかどれも致命傷を外れる箇所に玉をくらってはいたが。
そして大量の砲弾による集中砲火も無駄。
「ねえ軍人さんたち」
[あ……?]
『そっちが切り札使うならよ、こっちも使っていいよなぁ?』
[マズイ……総員即時撤退! 急げ!]
「判断は早くしなきゃ……ね?」
スワーム軍は、背を向けて一斉に逃げ出そうとするものの。
[たたたっ大隊長!]
[なんだ!?]
[背後から猛スピードで氷―!?]
[おいどうし―!!]
[だ、大隊長!? ―って足が!]
即座に地を這うようにして展開された氷が、兵士たちの足を凍らせる。
[だ、だがまだだ! スワームの意地を見せるんだ! 総員、構えッ!!]
ガチャチャ、と、そこら中から銃を構える音が、そして、全ての標的は二人へと向けられる。
「……こうなると、やりづらいのよねー。手違いで殺しちゃいそう」
『嘘でもそんな物騒なこと言うなよ』
「既に物騒な事態じゃない」
『まあ否定はしない』
そもそもこの黒土という世界自体が物騒とも言えるのだが。
曖昧に誤魔化したユロは、一応は手を出さない珠子に代わり、右手を天に掲げる。
『何も技なんか必要ねぇのよ』
そう言った直後、バンッ、と、重く、痛々しい発砲音が、360度全ての方角から発せられた。
そして。
『磁力による反発。珠子の氷の壁にしろ、磁力にしろ、俺たちに銃は無意味ってわけ』
反発し我が物とされた鉛玉は、全て綺麗に、かつ全兵士の重要器官を外した箇所へと打ち返される。
それを驚く暇なくくらった兵士たちは、波のさざめきのような音を立て、次々に地についていく。
「……ふっ、私が手を出すまでもなかったわね」
『出すまでもじゃなくて、出せなかっただろ』
「うっさいわね、漬けるわよ」
そして、能力を使い手際よく兵士たちを一箇所にまとめ、珠子の氷塊鍵を用いて、全員を縛り上げ任務完了。
「まあ、こんなものでしょ」
『やっぱ一般の奴らじゃ敵わないか』
「もうちょっと手応えがある奴がいても良かったけど、仕方ないわよね」
『合流するか?』
「んー…見張ってましょ、あの集ら。目覚められても面倒だし」
『だよな』
ひとまずの休憩ということで、二人はその辺の地面に腰をおろす。
戦闘中は、集中していたがために気が付かなかったが、終わってみれば、かなり気づくところがある。
一つは、周りの景色。
焼け野原になったとはいえ、やはり小白は美しい。開戦前から、周辺国に住む世界屈指の芸術家がこれでもかと、そのぐらいに褒めちぎるほどに美しい。
二つに、物。
兵士の装備を漁ってみるに、非常に品の良い物ばかりが揃っていることに気づいたのだ。
特に感心したのは、生まれながらの軍人であり、装備のありがたみを知る珠子。
ロンリーの装備は、ダメとまではいかないが、決して良いとは言えない程度の物。だがスワームの装備はというと、その技術力に物を言わせ、確認した全員の装備全てが高品質だったのだ。
「凄いわねスワームは……」
『俺が軍にいた頃はそうでもなかったがな』
「そうなの?」
『あんまし覚えてないがな、国が軍事力に力を入れ始めたのは、首相が変わったタイミングでな』
「それって……」
『あぁ。察しの通り、サーファ現首相。あの悪名高い奴だ』
「たしかに、開戦前はあれだけ技術大国だなんて言われてたのに」
『アイツが軍事拡張しなかったら、スワームはもっと早く滅亡していたに違いないからな。今やアイツは国内で英雄扱いだ』
「まるで、彼がホントは悪い奴、なんて言いたいようじゃない」
なんでわかったと言わんばかりに目を見張ったユロ。
しばらく間を置いて、サーファの裏を語る。
『…………アイツは。サーファは、当時でっちあげで俺を地球に追放した張本人だ』
「あのサーファが?」
『見かけによらずそんなことをするんだよ、アイツは。邪魔だと思った障害は自ら排除する、面倒な奴だ』
「でも、実績はあるのだから何も言えないわね」
『だから俺的にはマサシノの方がマシだ』
「あの最悪と評されるマサシノの方が?」
苦虫を噛み潰したような表情で、苦い記憶の一部を話すユロ。
民衆からの評価は抜群に高く、現首相サーファ。
逆に民衆からの評価がイマイチな、前首相マサシノ。
マサシノは、プラッシュドールの生みの親。サーファはスワーム大共和国の英雄と、していることは同率なぐらいなはずなのに、なぜそこまで差が開くのか。
その原因はマサシノが生前行った、実験の数々の逸話である。
『マサシノはな、俺らを現代に復活させたいわば親。だが、その過程で何千人もの人の命を実験で奪ってきた』
「聞いたことあるわ。他にも、結婚して産まれた子を、ろくに子育ての手伝いもせず会いにも行かずに実験に明け暮れいたくせに、いざ会ったとなったら、誘拐し、片手を切り落として実験に使ったとか」
『そう。マサシノは非道でクズ。だが、それでも国を思って古代的技術の賜物である俺らを復活させた。それはたしかなんだ』
「だから、陰湿なサーファよりかはマシだと」
『そうだ』
「アンタも大変ねえ……」
そう言って珠子は締めるしかなかった。
自分は目的を持って生まれたわけではないし、冤罪で地球へ罪人として追放されたわけではない。全て逆。任務で地球へと派遣された軍人。
だからこそ、真逆のユロの境遇は聞くに耐えない。
それを理解していたのか、無理矢理珠子が話を終わらせても、ユロは何も言うことはなかった。
「『……』」
そして訪れる静寂な時間。または気まずい時間、今すぐにその場から離れたくなる時間。
―だが意外にも発破をかけたのはこの二人の誰でもなく。
[ザザッ……あー、あー。聞こえるか、ロンリーの輩ー。……まあ聞いてるか]
「『!?』」
そこらの兵士の胸ポケットから落ちたトランシーバー。そこから音声が聞こえる。
ユロはその声に聞き覚えはなかったが、珠子にはその声から、過去数度にわたる因縁を連想させていた。
[どうやら俺の仲間が世話になったようで]
「えぇ。アンタも世話になってみる? ―オリバ大佐」
[そうだな。まあそれは後々……。―ついでに聞きたいことがあってだな。そっちに浩介がいるみたいだな]
『何がしたい……?』
[回収でき次第……………処分、する]
「それは絶対に天変地異が起ころうとも乗れない話だわ」
トランシーバーの向こう側から、ため息のような音が漏れる。
[……はぁ…まあ無理なことは分かってたけども。……んじゃあ本題]
トランシーバーから音が消え、異様な雰囲気が周囲を漂い始める。
その雰囲気を二人は感じとり、戦闘体制を取る。
[んなぁに、別に大したことじゃない]
「ん?」
『珠子、注意しろ。何か嫌な予感がする』
[本当に大したことはないって。―まあ、それは俺にとっての話……だけどさ]
珠子が咄嗟に氷壁を出すために右手を地面に添えるが、既にその脅威は目の前まで迫っていた。
[―テメェら殺すことぐらい、俺にとっては読み書きするぐらいに簡単なことなんだよ]
直後、ステルス技術の応用か定かではないが、一斉に珠子とユロの周囲360°に、何百体もの戦闘ドローンが姿を現す。
そして、小さくとも、集まり束となれば大きな脅威となる。
何百体もの機体から発せられる何百発、否その何倍以上もの銃弾が二人を襲う。




