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異世界戦争[双子の地球 黒土]  作者: 鯖の味噌煮缶
第1章 小白争奪戦編
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裏話その1 激闘のエピローグ

 目が覚めると、そこは先程までいた木々に囲まれた砂場ではなく、衛生兵が右方左方に駆け回る、小白戦線後方の医療テント。


「……私は、一体……?」

「あの子はそっち! ええっとその子は…あっち! ―あっ大佐殿、お目覚めになりましたか」

「え、ええ。―ところで貴方」

「あ、はい?」

「私は誰に運ばれたの?」

「あ、いえ……それが―」

「―私だ」


 声のした方向に思わず振り向く。

 そこには、同じくして病床で仰向けに寝ているライドリッヒその人が。


「えっ……!? しょ…少将殿………。えと、その腹部の怪我は一体…?」

「どうせ覚えてないだろうが、この怪我はお前が原因のものだ。まあ、仕方ないのもあるが……」

「と、とりあえずルイ大佐殿はまだ休んでいてください。貴方様の傷は少将殿のものよりも深刻なのですから…」


 よく感覚を研ぎ澄ましてみると、珠子の右腕の感覚が鈍く、その右腕にはこれでもかと言うぐらいに包帯が巻かれている。


「(そうか……私は、右腕を浩介に燃やされて…)」

「―ルイ」

「は、はい」

「復讐だとかは考えないことだ。事情は知らないが、お前。過去に色々とその少年に対して酷な事をしていたのだろう?」

「まあ………そうですが」

「ならそれは致し方ないことだ。たとえそれがやり過ぎだとしてもな。人の憎しみってのは人によっては日に日に倍増していくのだからな」

「そう…ですか」


 だが、珠子は復讐心などは一切なかった。否、持つべきではないと自負していたのだ。

 好きな人に復讐心を抱くなど、その先に待っているのは破滅であり、それは自身の望んでいる結末ではない。


「―別に私は、彼に復讐したいとかは考えてないんです」

「あ? なんだそうだったのか。では私の言ったことは意味がなかったな」

「いえ、そういう意味で言ったわけではなく……」

「ん?」

「私はまだ、彼に謝ってません。そして、自身に秘めてる思いも言えていません」

「………そうか。お前はあの男が好きなのだな」

「………まあ、そうです…」

「私もあの男には、興味…というか、言い方が悪いが利用価値があると踏んでいる」

「本当に酷い言い方ですね」

「わかっている、そんなこと。―でだ。すでに私は彼を見つけ、保護するためにも、捜索隊を結成し近くにも開始するつもりだ」

「私も参加した方が―」

「いやお前はいい、しっかり休め。重大な戦力であるお前をなんかの拍子で失ったら面倒だからな」

「私のことが心配なら、そんなまわりくどいこと言わずにストレートに言えばいいじゃないですか」

「黙れ、そして寝とけ」

「分かりましたー」


 適度に誤魔化されつつも、珠子は言われた通りに床に就く。

 ベッドの寝心地は、悪くはないが、決して寝やすいとは言い難いもの。

 地球時代の快適なベッドで長らく就寝していたのもあり、寝ようにも寝れない珠子は、テントにあるシワを無心に数えながら、時間が過ぎるのをただ待つ。

 一方の少将はと言うと。なんとすでに恐怖を与える顔から出る寝息とは思えないほどの可愛い寝息を立て、寝ている。


「(……疲れてたのかしらね?)」


 ルイも十二分に理解している。

 最近のライドリッヒは頑張りすぎなのだ。

 大黒戦線での勝利に最も貢献し、文句無しのMVP。その実力を買われ、大佐から少将に繰り上げられ、そのまま小白戦線にもその場の最高戦力の一人として投入。これでまだ動けるほどの無尽蔵のスタミナは、残念ながらライドリッヒにはない。


「(大佐時代から頑張りすぎなところがあったけど……少将になって更に磨きがかかった。そのおかげで収入が上がったとか喜んでたけど、過労死したらそのお金は使えないわよ……)」


 余談も余談なのだが。この二人、実は同僚の間柄なのだ。

 珠子の方が階級が下になってしまったのもあり、普段は敬語を使ってはいるものの、心の中では階級が同じだった一般兵から大佐時代までと変わらず、タメ語で話しかけている。


 

 ―閑話休題。

 依然として眠りにつけない珠子は、暇を潰すために、誰の目にもつかぬよう、静かにテントを抜け、夜の風に吹けていた。


「……気持ちいいわー。思えば私も最近は休めてはなかったし」


 まだ地球で任務をこなしていた時から、直近の浩介戦に至るまで。休めるどころか次々に厄介ごとが降りかかり、それに比例して疲労も高まるもの。

 だが、この片瀬珠子。そうではなかった。


「………でも、なんでだろ。浩介に会えたから? …多分それね。好きな人に会えるだけで、疲れなんて()()()なものは薄れるもの」


 千布浩介という名の想い人。知り合いのツテで彼が異世界へと旅立ったことを知ったとき、珠子は様々な意味で悲しんだ。

 それは単に会えなくなるという意味でもあり、何故自分は彼に優しくできず、裏返った優しさをぶつけていたのか、という意味でもあるが。

 それ故に、この黒土で浩介と再会できたことは、この上なく嬉しいことだったと。

 だが、会えたとて、浩介側に良い印象は持たれておらず、あったのは憎悪の感情だけだったと。

 そして……………完膚なきまでに下された、と。


「―まだ、右腕は痛いわね……。未熟とはいえ、浩介の持つ能力が強力なものなのは事実だったみたい」


 未だ感覚がない、包帯巻きにされた右腕をまじまじと見つめ、珠子は思う。



「(―また……会えないかなぁ…)」



 そう。

 たとえ卑下されたとしても。

 右腕のみならず、左腕が焦がされたとしても。

 それでも彼に会いたいという、嘘偽りのない、純粋な恋心。

 それが原動力となり、彼に会おうとする意志となるのだ。



 ―そんな新たなる決心をする最中。


「す、すみません!」

「―ん? どうしたんですか………ってどうしたんですかその人はっ!?」


 一般兵が担ぐ、傷だらけの謎の少年を見て、思わず衛生兵は声を上げる。


「いや、どうしたも何も……。ただ、あそこの雑木林の中で倒れていて―」

「そんなことはどうだっていいっ! いますぐ彼を治療しないとっ!」


 そんな傷だらけの少年を担架に乗せ、治療室とまではいかないものの、その機能を確立している簡易医療室へと運ぶ。

 しかし、その少年は、すーっ……すーっ……と寝息を立ててはいるが、目覚める気配はなく、何か薬でも飲まされたのかとその衛生兵は予測をした。


 その後は滞りなく治療は進み、外傷は癒えたものの、内部の傷や精神的な傷が癒えてないとされ、医療テント内の病床へと運ばれる形となった。


「(さすがにこれ以上起きるのは健康やパフォーマンスに影響が出るし、寝ましょうかしらね……)」


 明日からの事を考えると、遅くまでの夜更かしは良くない。

 そう思った珠子はそそくさとテントに戻る。

 微かな眠気を感じながらも、テントの入り口を捲る。


「(これから………私はどうすればいいのかしらね。浩介はスワーム側の立場を取る以上、次会うときはまた戦うだろうし。浩介の、戦争を終わらせる、という目標を邪魔したくない。邪魔したくないのなら、戦わない方が良いし………でもそうでもしたらライドリッヒとか、他の上官が黙ってないし………)」


 行き詰まった考えを張り巡らせながら、テントの中に入り、ライドリッヒの邪魔にならないよう、静かに病床へ向かうため、忍足で歩く。

 だが、余計に静かにすることを意識してしまっていたからか、気づいてしまったのだ。


「(―ん? 何か、向こうが騒がしいような……)」


 こんな深夜なのに、切羽詰まるような声が微かに聞こえるのだ。

 もしこれが、他軍からの侵略だとしたらマズイと、珠子は足早にテントを去り、その声の元に素早く向かう。


「(狙いは誰……? いや、そんなこと、ライドリッヒの首に決まってるか……)」


 たしかに、こんな辺境の医療班の拠点など、襲うにしても得られるものが少ない。

 だが、今はライドリッヒという、軍の中でも指折りの実力者が滞在している。それだけでここを襲う価値は出てくるのだ。


 兎にも角にも、敵兵に見つからないよう、中腰かつ、忍足、さらには周囲を随時確認しながら先を進んで行く。

 しかし意外にも、敵兵の足跡も、ましてや気配すらも珠子は感じることはなかった。

 そして、背後から堂々と迫る強者の気配すらも。


「(おかしいわね……。私の幼少期から培われた百戦錬磨の第六感が反応しないなんて)」

「―ルイ、お前コソコソしてんだ? ゴキブリか? 夜這いか?」

「ひゃあッ!? ら、ライドリッヒ、寝てたはずじゃ……」

「どれだけお前がコソコソとテント内を彷徨いたとて、私はこの軍の少将。そして、最高戦力の一角を担う者だぞ? 気配が分からないわけない」

「いやこっわ……」

「あとなんだその口の利き方は……。たとえ同僚だとしても、今は私の方が階級が上だ。もし周りの上官が目上の人にタメ語を話すお前を見掛けたりでもしたら、首が飛ぶぞ?」

「すみません…」

「―で? 何してたんだ、お前。夜這いか?」

「夜這いではないです。したくもないです。―えと、なんかあそこのテントの方面が騒がしくて、何か襲撃とかトラブルがあったらマズイと思ったので…」

「…………………あー。なるほどな、それでここに繋がる、と」

「え? 何か知ってるんですか? ―はっ!? まさか少将殿はスパイ―」

「違う、変な妄想をするな」


 ライドリッヒは、一人勝手な妄想を繰り広げる珠子をよそに、発生源である、医療テントへと歩き始める。


「あっ危ないって! アンタ私の話聞いてた………聞いてましたか!?」

「大丈夫だ。よそ者の襲撃ではない。この時間帯に運ばれたとある人物の容態で少々話題になっていたようだな」

「とある………人物?」

「まあ有無を言わずについて来い」


 とりあえずライドリッヒの後を追う。

 やはり敵兵らしき人影はおらず、襲撃ではと思っていた珠子のあては外れていた。

 数分歩いた後、ライドリッヒは足を止め、親指で目の前の医療テントを指す。


「ここだ。ここに()()()が寝ている」

()()()……ですか。誰なんです?」

「それは入ってからのお楽しみってやつだ」

「焦ったいですね、さっさと言えば良いじゃないですか」

「まあ良いだろそこは。―まあ入れ。私は早く寝たいんだ」

「それ言ったら自分もですよ。まあ分かりました、入れば良いんでしょ、入れば」


 半ば気怠げにテントの幕を上げ、中に入る。

 だが、中にはランプや小さい棚などの小物や、予備の衣類程度の物しかなく、後はせいぜい、そこで寝ている人ぐらいだった。


「………なんにも目に止まるものとか無いじゃないですか。それこそそこで寝ている人ぐらい―」


 が、止まった。珠子の目が、その人に。


「だから私は言ったんだ。入ってからのお楽しみだ、とな」

「…………は、反則………よ」


 そして、現在この医療テントにて身体を休めているその人こそ。


「千布浩介。この子がここで休んでいるだなんて、なんたる巡り合わせだろう?」


 まさに先程、珠子が会いたい会いたいと嘆き、ライドリッヒがその存在を神と崇み、親友と激闘を繰り広げた、千布浩介その人だったのだ。

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