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異世界戦争[双子の地球 黒土]  作者: 鯖の味噌煮缶
第1章 小白争奪戦編
21/36

18話 少年と神を崇む者、そして炎のバーサーカー

 こちらはまたまた別視点。黒田玲視点。

 効率的に浩介を探すため、ユロと珠子と別行動にしたはいいものの、一向に見つかる気がせず、玲は途方に暮れていた。

 既に日は地平線に沈み、辺り一面闇に包まれ、コオロギ的な生物の鳴き声が聞こえてくる。

 ポケットの中にあるスマホを取り出す。黒土に転移する際、一応持ってきていたのだ。

 素早くパスワードを打ち、迷いなく電話アプリをタップ。珠子かユロに電話を掛けようと画策する。


「―いや、圏外じゃん」


 そんな策を嘲るかのように、画面右上に表示された圏外の文字に、多少の苛立ちを覚える。そもそも、現代世界の利器でさえ、圏外のエリアがあるのに、異世界で通話ができるはずなどないのだ。

 連絡手段がなければ、珠子とユロに、互いの状況を共有することができず、作戦遂行に支障が出てしまう。

 困ったなと乱暴に頭を掻きつつ、たまたま近くにあったベンチに腰掛ける。


「………ふう」


 よくよく考えてもみればの話。

 数ある軍人から、浩介という一人の人間を探し当てるなど、不可能に近いのだ。そして、それを短時間のうちに成し遂げなければならないとなると、さらにだ。

 ベンチに腰掛け、今後はどうすればいいのか、このまま前進すべきか、来た道を戻って合流すべきかなどを考えつつ、携帯していた水筒の水を飲む。


「せめて、何か手掛かりがあれば………いや、そんな甘くはないか」


 どれだけ深く考えたところで、そこから得るものは何もなく、ただ時間が過ぎるだけ。

 これ以上、無駄な時間は過ごすまいとベンチを立った玲は、とにかく前進を続けようと己の足を再び動かし始める。


 ―そう、まさにその時であった。



 ドオオオォォォォン………!!



 唐突に鳴り響く地鳴りに、玲は顔を上げる。


「―なんだ…? 爆発、か?」


 どこかの戦場で大きな爆発が起きたのかと思った玲だったが、すぐに、その爆音が、爆発から起きたものではないことに気づいた。


「………この音は……衝撃音? しかも連続して…」


 よく耳を澄ましてみると、何かと何かが互いにぶつかり合っている衝撃音が聞こえるのだ。それも何度も。

 しかもその衝撃音が聞こえる方向はと言うと。


「珠子が行った方角から……?」


 先程珠子と別れたあの地の方角から聞こえるのだ。

 そうなってくると、誰でもこんなことを思う。


「珠子のやつ、浩介と遭遇したのか!?」


 彼らの作戦、それは浩介を気絶までに追い込み、ドルが無意識下に行うであろう、浩介の進化を止めること。気絶させるには戦って止める他ならない。

 他の兵士らも兵器を用いて戦っているが、そことの区別がついた決定的な証拠は、衝撃音のその大きさ。

 少なくとも10キロは離れているだろう玲のところにも十二分に伝わるくらいの爆音。こんな爆音は兵器同士のぶつかり合いでは出せず、出せるのは、異能力同士のぶつかり合いのみとされているのがこの世界。

 となると、この爆音が珠子と浩介の衝突によるものだと確信が持てる。


「だとしたらヤバいって! 一刻も早く行かないと…!」


 もし、珠子が負けるような事が起きた場合。その負け方によっては浩介を進化させてしまう可能性がある。

 具体的には、ギリギリで浩介が珠子に辛勝した場合だ。

 復習にもなるが、プラッシュドールの契約者が進化を起こす条件として、「神装級の道具を何度も使ったときや、契約者が命の危機に面したとき、契約者本人の潜在的戦闘能力を全て引き出したとき」が挙げられる。

 ギリギリの戦いの中で、浩介が一方的に攻められ、ピンチになることがあるだろう。

 その場合、条件の一つ、「契約者が命の危機に面したとき」に該当する。

 そして、長期戦になるだろう。

 お互いの身体能力、技、頭脳ら己の全てを用いて戦い、その中で成長していき、自身の奥底に潜んでいた戦闘能力が開花する、なんてこともあり得る。

 その場合、「契約者本人の潜在的戦闘能力を全て引き出したとき」に該当する。

 ―いずれにしろこの二人の衝突が発生した時点で、進化の可能性は浮上してくるのだ。

 だったら珠子やユロと行動すれば良かったのではないか、と思うこともある。

 だがそれでは、バラけて浩介を捜索するよりも効率が落ち、別の場所で戦闘を起こした浩介が、人知れず進化してしまう、なんて事態になりかねないのだ。


「珠子………死ぬなよ!」


 浩介の進化により、珠子の生死が危うくなることをあの一瞬で察した玲は、衝撃音の発生源のもとへ向かう。一刻を争うため、雷の速度で移動する技、神速しんそくを用いて。


『神速………、それは雷の速度で大地を駆け抜ける技』

「ん? なんだ?」


 突然として暗闇から聞こえる声に足を止める。


『黒田玲、と言ったか。私は、アックスフォード・ライドリッヒ。ロンリー軍少将の階級を承っている者だ』

「そんなお偉いさんが俺に何のようですか?」


 未だ正体を現さないライドリッヒは、暗闇越しに語る。


『君を足止め……または始末しにな』

「―どういうことだ」


 ライドリッヒが放った言葉に、玲も声色を変える。

 そんな玲に臆する事なく、ライドリッヒは続ける。


『彼はいずれ神へと成る存在だ…。私はその神とやらを拝みたくてね』

「彼……浩介のことかッ」

『そんなに怒ることはない。怒るのは私の話を聞いた後にしてくれないか?』

「チッ……! なんなんだよ、お前の話は」

『よくぞ聞いてくれた玲くんよ。好奇心旺盛な君には全てお話しよう』


 ライドリッヒは、一つ咳払いを挟んだのち、自身の計画をあるがままに明かした。


『―まずこの戦争によって、黒土に存在する5の大国とその衛星国は重大な損害を被った。そしてその中でも、戦争の中心となっている我が帝国、ロンリー大帝国と、敵国、スワーム大共和国の、黒土における超大国の被害は大きく、もはや両国は義務的に戦争を続けている次第だ』

「それで? お前は何をしたい」

『他の大国が介入したとて、超大国には敵わない。なにせ、戦力、技術、土地。全てにおいて大国らは超大国に負けているからだ』

「だからっ! お前は何をしたいんだって―」

『だから私は戦争の止めるため、神を創ることにした』


 半ば食い気味に語るライドリッヒに、玲は面食らう。


『神を創ることで、その圧倒的軍事力で双方を沈黙させ、戦争を終わらせることができる』

「その神こそが浩介だと……?」

『そうだ。彼……と言うか()()()()()()()()()()が神へと昇格することができる』

「内……だと?」

『君が知っても何も得することはないさ。―ともかく。私は彼を神に………まあ、その前哨として、彼にはなんとしてでも進化してもらわなければならないのでね。君にはここで黙って行く末を見ていてもらいたい』


 ―たしかに神を創ることができたのならば、戦争が終わる。そうなのかもしれない。

 だが、そうでもしたら、せっかく会えたかもしれない友人を、またしても手放すことになる。そんなこと、玲は望んでもいなかった。


『できれば今後のためにもここでの戦闘は避けたいものでね……。ここは是非とも御協力を―』

「―するわけねぇだろがッ!!」


 自身の友人を奪おうとするライドリッヒに対し、怒りのままに玲は辺り一面に電撃を放つ。


『―これは、早速交渉決裂だと見てもいいか?』

「俺がそう易々と大切な友を手放すような愚図に見えたかよ? だったら悪いが、俺はそんな奴じゃなくてね」

「………そうですか」


 急にハッキリとした声が、玲の後方から聞こえた。

 驚いて、バッと振り返るも、その者はいない。


「よろしい。ならば始末させてもらうまで」

「始末? 笑わせるなよ、さっきの神速を忘れたのか!!」

「ええ、もちろん。忘れるわけがないじゃないですか」


 玲は戦わず、神速でいち早く浩介と珠子のもとへと駆けつけることを選んだ。

 しかし、相手はロンリー軍少将。そんな玲を見逃すはずがなかった。

 なんと、突然玲の片足を掴んだのだ。それも、地面から生えてきた謎の手が。

 そして、その謎の手は、謎の怪力で玲を振り回して地面に叩きつけた。


「ぐっ……!?」

「この私に抜け目などありません、完璧です」

「お前もっ……珠子と同じような能力を………!?」

「まあそういうことです。実力では彼女を完全に上回りますが」


 いつの間にか地面から生えていた謎の手は、周囲の土をかき集め、人の形へと変貌していた。

 上級階級の者だと一目で分かる軍服に、腰に携帯している刀らしき物。そして不敵に笑うその口と、細く弧を描く目。それらがライドリッヒを恐怖ある者に立てあげている。


「これが、私の姿。見惚れるのはよしてくださいよ」

「誰が見惚れるかよ。とっとと倒して俺は珠子のもとに向かわせてもらうぞ」

「無理ですね。私と君とでは、戦いの練度に差があり過ぎます」


 そう言って、ライドリッヒは、周辺の砂をかき集め、玲の周りに、人型の砂人形を作り上げる。

 その砂人形は、ロンリー軍の兵士そっくりであり、一人一人が銃を構え、玲に銃口を向けている。


「これぞ土傀儡マリオネット。君はこれを突破できるかい?」

「知ったことかよ、全部ぶち壊せば済む話だっ!」


 力のこもった、電撃を纏った拳を玲は一つの砂人形に繰り出す。

 だが、


「んなっ!?」

「形は人であれども、所詮は土。そんなパンチなど通用しない。……まあそもそも砕けたところで問題はありませんが」


 当たりはしたものの、その直後。土人形はぐにぃと変形こそしたが、倒せはしなかった。

 そして、そのパンチを受けた土人形本体は言うと、まるで、何も攻撃を受けなかったかのような佇まいでその場で再生していた。


「―では、次は私から」


 次に玲が捉えたものは、刃。土でできた刃だ。見た目はとても鋭利でどんな物も切り裂けそうに見える。


「させてたまるかっ! 雷撃トールッ!」


 たまらず玲は雷撃を繰り出すも、


「ふっ……」


 刃はそれらを全て断ち切り、勢いそのままライドリッヒは玲の目の前にまで肉薄した。


土斬コルタール……」


 そして、あっという間に玲の腹部を切りつけ、玲から鮮血を吹き出させる。


「ぐっ………!? ぁぁあ………!」

「だから言ったでしょう。君と私とでは、練度に差があり過ぎる、とね」


 痛みに耐えられない玲は、そのまま地面に倒れ込む。

 幸い、斬られた箇所は浅く、内臓を切られたなんてことはなかった。

 だが、忘れてはならないのは、玲はこの世界に来て間もない高校生だと言うこと。戦闘はおろか、戦争にすら巻き込まれなかった世界にいた玲にとって、浅く切られただけでも相当の深手となってしまう。

 とは言え、まさか軽く切っただけでこんな反応をされるとは思ってもいなかったライドリッヒ。


「―ところで。君は……本当に戦士なのかい? 私は君を軽く切ったつもりだったのだが……」

「俺はっ……つい数時間前まで平和な世界にいた一般人なんだよ……! 鍛えてもないし、これと言った才能もないんだっつーの!」

「……! なるほど、納得だな。通りで能力に似合わない者だと思ったが………可哀想な若者だね。少しだけ同情するよ」

「敵に同情され……ても嬉しくないわっ!!」

「別に期待などは最初からしてないよ……。―まあ、軽い雑談も挟んだが、君は宣言通りここで始末させてもらう」


 砂の刃を振り上げ、玲の首を標的にライドリッヒは処刑を行う。

 玲は逃げようとするも、いつの間にか自身を掴んでいた複数の砂の手によって、逃げることができない。


「お前っ……! 無関係で、ただ友人を助けたいだけの一般人を無惨に殺すとかっ、気が引くとかないのかよ!?」

「ない。軍人は皆狂っているのです。それに君は、スワームの技術を行使しているではないか。たとえロンリー(こちら)の味方の立場を取ろうとも、許されるものではないのでね」

「なんなんだよ、この世界は!!」

「こういう世界なのですよ、ここは。まあ、私としては、自身の計画を遂行できるので悪くはないのですが」


 ライドリッヒは玲の処刑間際、玲にも、動物にも、そして空気が振動しないぐらいにポツリと呟き、その刃を下ろした。


「―これでやっと、この腐った世界そのものを変えられる……」


 そして刃が落とされ、浩介を救うその作戦は、一人の死をもって白紙になったのだ。





 ―だがしかし。





「っ………!?」





 しかし、結果は異なる道を進んだ。

 今にその刃を下そうをしていたライドリッヒに横っ腹に、勢いよく何か大きな物体が衝突。ライドリッヒを吹き飛ばしたのだ。


「はぁ……はぁ……。な、何が起きたんだ……?」


 ライドリッヒが吹き飛ばされ、そのおかげで砂の手により拘束が解けたことで間一髪助かった玲は、吹き飛ばされたライドリッヒに目を向ける。

 ライドリッヒは腹部を押さえ、かなりの激痛に顔を歪めているが、ある一点をずっと凝視している。それも驚愕の表情で。

 そして、ライドリッヒが凝視しているそのある一点にも目を向ける。

 するとそこには、衝撃の物体(じんぶつ)がいたのだ。



「れ……………玲ぃ………」

「た、珠子っ………!!」

「な、なぜ……彼と戦っていたはずのルイが……ここにいるのですか……!?」


 浩介と戦っていたはずの珠子だ。それもかなりの傷を負っている。


「珠子、どうしたんだよ!? 浩介は、アイツはどこにッ!?」

「…………すぐ、そばに………」


 珠子はライドリッヒと衝突した衝撃で、脳震盪を起こしながらも、そのボロボロの人差し指で、玲の右側を指差した。

 その方向は森林。本来なら数多くの草木が生い茂り、生き物の家と化している場所。

 だが、そんな草木を業火で燃やしながらコチラへと一歩、また一歩近づくバーサーカーが一人。


「―浩介ッ!!」


 玲の親友、千布浩介その人だ。

 感極まり玲は自身の傷の痛みをも振り切り、浩介に駆け寄る。

 そんな様子を見た珠子は、玲に向かって警告を告げた。


「ダメよ玲っ! 今の浩介は()()()()()()()()()()()()()の!!」


 その言葉を側から聞いたライドリッヒは、浩介の様子からとあることに気づいた。


「ルイ大佐……」

「ライドリッヒ少将殿!? なぜここにいるのですか!?」

「そんなことは後で良い、私の質問に答えるんだ!」


 ライドリッヒは、横目でバーサーカーとなった浩介を見ながら、珠子に問いを投げかける。


「彼は()()したのか!?」

「なっ……!? なぜその事を少将殿が―」

「いいから答えろッ!!」

「はっ………はい! 率直に言いますと、浩介は進化しておりません」

「あれで、だと!? ではあれはなんなんだ!?」

「おそらく……いや、あの姿になったのは、私が彼の逆鱗に触れてしまったのが原因かと」

「逆鱗?」

「理由は伏せますが……。とにかく、今の彼は進化はしていない代わりに、精神が荒ぶって、それこそ親友でも押さえつけれないほどに凶暴化しているんです」


 よく見ていると、いかに浩介が凶暴化しているのが分かる。

 虚でどこか焦点がずれている目。ずっと半開きで何かをブツブツと唱えている口。指をコキコキと鳴らしている両手に、ボサボサの髪。廃人にも見えるその姿が、全て怒りから来ているものだと言うらしい。

 実際、必死に話しかける玲を見向きもせず、浩介はただ一点、珠子に向かって歩みを進めている。


「なあっ浩介!! なんで反応してくれないんだよっ!? お前だったら女のマネした俺に赤面してたじゃんかよぉ!?」

「…………黙れ」

「俺だよ、黒田玲だよ! お前の唯一の親友の黒田玲だよ!? なあ少しぐらい返事してくれよ、寂しかったんだよ!」

「……………………黙れ」

「なあ浩介っ! なんで返事してくれないんだよ―」

「黙れぇぇぇぇぇ!!!」


 ビクッとその場で数十センチ、玲はその怒号に驚き飛び跳ねる。

 今まで黙っていた浩介は、高校生とは思えないほどいかつい面をして、玲に牙を剥いた。


「片瀬だけは殺さなきゃならねぇんだ。それを邪魔するなら玲、お前も巻き込むぞ」

「ななっ、何をそんな物騒な!? 浩介、さすがに珠子を殺す必要はないと思うんだけど―」

「なかったら俺はこんなにも怒ってないはずなんだよ」


 その一言で玲すらも黙ってしまう。


「元からと言えば、俺が変なレッテル貼られて皆に避けられたのも全部コイツのせいなんだ。コイツさえいなければ……!」


 震える浩介の右手から、今までに見たことがないレベルの灼熱の炎が滲み出ており、それが今にも襲い掛かろうしている。

 その様子を直に見た珠子は、同じく意味は違えど震える両手に喝を入れ、対抗するように水を生成し始める。


「ちょっ……!? 珠子もそんなムキにならなくても!」

「アンタは黙ってて! この分からず屋には(とても不本意だけど)真実を解らせる必要があるのよ」

「真実もクソもねえだろ、クソアマ」

「クソクソ言って、アンタはうんこの魔人なの?」

「―殺すっ!!」


 静かなる怒りから、激しく暴れる怒りへと変貌させ、浩介はその灼熱の炎を放つ。

 珠子も負けじと大量の水を放つ。

 が、しかし。1000度を軽く超えるであろうその炎は。いとも容易く水を全て蒸発させた。そして、蒸発させてなお、衰えることのない炎が珠子に襲い掛かる。


「ハッ……! そんなちゃっちい水で、俺の炎を鎮火できるとでも?」

「珠子っ!!」

「そんなこと承知の上っ……よ!」


 炎をなんとか身を捩って躱し、拳銃を模した右手の人差し指から、鋭く尖った氷の弾丸を飛ばす。


「馬鹿が、そんな小道具で傷一つつけられるとでも?」


 だがそんな弾丸をもろともせず、浩介は一瞬で氷の弾丸を溶かしたうえで、珠子に前進。

 珠子も必死に弾丸を飛ばすものの、手のひらから放たれる微小の炎により、すべて溶かされ、水に変換されていく。


「氷なんか燃やしてしまえばいい。水は高温の炎で焼き尽くせばいい。お前はもとより、俺には勝てなかったのだよ」

「ひいっ……」

「怖いよな……? 死ぬのが怖いよなぁ……? ―ははっ、馬鹿らしい。人ざまをいじめることを娯楽のように思ってる奴には、こんな末路がお似合いだ」


 珠子の怖気付いた表情をじかと見つめ、顔をもはや狂気とも取れるレベルに歪めて笑う。

 そして、炎の拳を掲げた。


「学校の奴らが知らないこの異世界で。証拠も死体も遺言も何もかも…。何も残さずに死ね」


 炎の拳が、もはやハムスターのように弱々しくうずくまった珠子の背中に突き刺さる。

 だが、それが剣ではなく拳なせいか、珠子は未だ生きている。

 しかし拳の余波で、珠子の身体は炎に包まれている。


「そんなに弱ってるようじゃあ……能力も出せないはずだ」

「な……なんで………その、ことを…?」

「道中、お前の仲間の兵士に聞いた。相手は能力者だからな。能力を発現できなくなる要因さえ分かれば、その能力者はただと一般兵と同じだ。炎で焼き尽くせばいい」

「あ、あなたは……」

「イカれてる、か?」

「!?」


 フッ……と、浩介は鼻で笑う。


「そうだよイカれてるさ、俺は。世界を守りたい一心でここに来たのにさ………」


 浩介から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

 そして、空いている左手でとある形を組み出す。

 それは俗に言う、指パッチンするためのもの。

 パチンっ、と浩介が鳴らすと、珠子を包んでいた炎が一瞬で消え去った。

 何事かと珠子が顔を上げると、そこには、仏の笑顔にも等しい表情をした浩介がいた。


「助けてくれるの?」

「あぁ……。こんなことして、すまなかったな。おあいこって事で許してくれないか?」

「は………、うんっ!! うんうん!! 私こそごめんねっ! 今まであんなことして…!」

「もういいんだ、そんなこと。―それよりさ、この戦争を俺たちで終わらせないか? こんな腐った戦争を」

「分かったわっ! それじゃあ行きましょ!」

「ん? どこへ?」

「私の基地! そこでこれからの作戦と……あと、あなたに伝えたいことがあるから!」

「いいぜ、行こうか」


 まるで今までの戦闘がなかったかのように、珠子はウキウキに立ち上がり、浩介の手を取る。

 それは和解の証。

 それを受け入れている浩介も、信頼している証。


「浩介……」


 この一連の流れについていけなかった玲は、呆気に取られていた。















 ―だが、呆気に取られていたせいで、玲は気付かなかったのだ。

 その代わりに気付いたライドリッヒは、咄嗟に叫んだ。



「ルイ大佐! 今すぐその子から離れろ!!」

「へ?」



 そして珠子も気付いたのだ。

 珠子の握っている浩介の右手ではなく、意味ありげにポケットに隠している左手に。


「―馬鹿だな、ああ! 本当にお前は馬鹿だ!」


 さっきまでの仏の顔を剥がし、再びバーサーカーに戻った浩介は、ポケットの中に隠していた左手を素早く出し、自身の右手を掴んでいる珠子の右腕をがっしりと掴んだ。


「俺がそう簡単に改心するとでも!? あぁ、恨みってのは怖いもんだよなぁ……。だってよ、人を騙してまでソイツを殺そうと画策するんだぜっ!?」


 そして有無も言わずに左手から炎を生成。ガッシリと掴まれている珠子は、右腕から次第に全体へと広がっていく炎の様を、未だ状況が飲み込めないながらも直視した。


「どう、して? 貴方さっき、この世界を守りたいって言ってたじゃない! あれは嘘だったの!?」

「ホントだよ、あれは。たださ―」


 一つ気づいたんだよ、と。一拍ほどおいて浩介は、自身の恨みに囚われながらも、たしかな覚悟を持った目つきをして言った。


「―とある敵軍の奴に言われたんだ。相手国の状況も知らず、国から笑顔が消えていることも知らず、俺らを殺してもいいのか? って」

「だから、なによ?」

「俺はこの戦争を終わらせたい、それも最小限の被害で」


 だけど。


「それとこの事情は全くもって関係がない。この事情は俺たちの地球の中の、日本っちゅう国の中の、とある高校内での話だ。この黒土での戦争とは一切関係ねぇ」

「話を逸らせようとも無駄、と…」

「そうだ。もう何をしようが俺のこの殺意に揺るぎはない」


 だから。


「ここで死ねぇッ!!」

「浩介ッ!!!」


 見ているままでは何も変わらないと、玲が浩介の暴走わ止めるべく、浩介を殴る。

 意識が珠子に向いてこともあり、浩介は簡単に殴り飛ばされた。


「珠子っ!!」

「………………」


 なんとか炎がまわる前に止まれたため、全身が焼かれることは防げたが、一連の猛攻を受け続けた珠子の身体は限界を超えており、意識を閉ざしていた。

 そして、自身の憎き存在である珠子を救おうとする行動をとった玲を見た浩介は、玲に対しても殺意を向ける。


「―玲。お前もなのか……? お前もそっち側なのか?」

「違う。浩介の味方だ」

「じゃあなんでそんな奴を助けるッッ!! ソイツは俺をいじめてそれを楽しんでたクズだぞッッ!!」

「お前は真実を知らないからそんな言えるんだ。本当は珠子だって―」

「言い訳なんて御免だッ! 結局玲はソイツを助けた。その事実が俺への敵対の証拠なんだよ!」


 その激しい剣幕に押し黙られる。

 もう言葉では浩介を止めることはできない。そう感じた玲は、ライドリッヒに切られた腹部の痛みを確かめつつ、自身の拳を硬く握る。


「………分かった、そこまで人の話を聞かないのなら。力ずくで浩介を正気に戻す!!」

「はっ………! やってみろよ、ばあぁぁかっ!!」


 いまの今まで親友の間柄であった二人の炎と雷の拳がぶつかり合うことで、戦いのコングは鳴り響く。

 そして、小白戦線における最大級で、黒土でも後世に語り継がれるほど知名度が高い、通称「南西の大乱」が今ここにて開幕。この広大な小白南西部にて、大規模な戦闘が行われ、双方破壊の限りを尽くすのであった。

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