第三夜 「前進ノ夜」
ようするに、塵にも芥にも等しい個人という存在に価値はあるのか。そんなくだらない問なのだ。
答えなんて決まっている。塵芥で出来たこの世界に、いらない塵や芥なんか無い。
けれど、そんな答えじゃ納得できないのがヒトというもので。
夜を歩き始めて、一か月ほどたった。
二週間前から、僕は何も考えないようにしていた。
あれ以上考えることが、怖かったから。
けれど、この夜の街で他のことを考えたり何も考えないでいるのは難しい。
どうやら街の景色というのは人が作るもので、誰もいない街は案外どこも似たような感じなのだ。
こんな状態では、自分の中へと潜ることくらいしかできることが無い。
恐怖なんて、致死的な退屈の前には無力らしい。
そして、思考は始まりへと回帰する。
人はなんのために生きているのだろうか。個々人にある個人的理由や生物学的多様性の欲求の他に、何もないのか。
生きているということは、生きていたということは、何によって証明されるのか。
いや、そもそも命とは何をもって命というのだろう。
どれ一つとして、満足のいく答えが出ない。
人が生きる理由なんて個人的欲求の充足以外に見当たらないし、生の証なんてそれがどんなものかさえ想像できない。
命の定義なんて、雲をつかむような話だ。
ただ、こうやって思い悩みながら見る無人の街は、いい。
明かりはついていて、無人でも動く機械は動いていても、やはり命の気配がない街を生きているとは誰も言えない。
まるで僕の悩みがバカバカしいことのように、これが答えだと言わんばかりに死んでいる街が、僕を励ましてくれているようで。
そうだ。答えはきっと、ここにある。
そう信じよう、今は。
そして、僕は再び歩き始めた。




