第二夜 「隔絶ノ夜」
あれは、夜の街を探索するようになって二週間ほどしたころのことだと思う。
夜気が、はぜた。
ビルの壁面を蹴って飛ぶように移動する僕の姿が、影となって地面に落ちる。
既に、この探索も二週間になる。
最初の数日でわかったことの他にも、いくつかのことがわかっている。
たとえば、この夜の街での行動は昼の生者の街に何の影響も与えず、夜の街では高かった身体能力も昼は普通のままだということとか、この夜の街は現実の夜の街とは少し違う場所らしいということとか。
街の真ん中にそびえたつ巨大な電波塔を見上げながら、公園の噴水を眺める。
当然だが、深夜の二時だと水が出ていない。
それでも、僕は噴水を眺めながらパックジュースをすする。
まるで時間さえも凍りついたような景色を肴に、まずいまずいと友人が絶賛していたジュースを飲んでいる。
もう少し早ければ、電波塔のイルミネーションがきらびやかに輝いているが、そっちを見るために公園に来たのではない。
ここが、今自分が移動できる限界の距離にある場所だからだ。
途中で、無人の駅や無駄に豪華で気になっていた高級マンションなんかを歩いてみた。
駅は期待していたよりも無味乾燥で面白みにかけていたが、マンションは予想以上に面白かった。
何せ、共同スペースが広い。
エントランス、小ホール、集会所、廊下、よくわからない広場に怪しげな裏庭や正面の駐車・駐輪場を兼ねた前庭。それはもう隅々まで歩きまわってついでに機械室のような場所まで歩きまわることができた。
明日あたり、悪趣味なことにこのマンションのすぐ近くにあるお城のような形状のホテルに突っ込んでみるのも悪くないかもしれない。たぶんどの場所にも入れるだろうし。
だんだんと広がっていく探索範囲を気の向くままに歩きまわる日々は、思ったよりも充実していた。
誰もいない街を、自分しかいない自分だけの夜を歩きながら、考えた。
今の僕は、孤独なのかどうかを。
常識で考えれば、孤独だろう。
でも、数時間もすれば終わる一人ぼっちに孤独感を感じる歳でもないし、そもそも夜は孤独なものだ。
今の僕が孤独なのではなく、きっと誰もが夜は孤独なのだろう。
感覚を閉じれば、誰かを感じられないのだから。
目を閉じ耳をふさげば、世界は自分の中にしかなくなる。
こんな風に廃墟の夜を歩かなくても孤独になれるのに、どうして人は孤独を感じるんだろう。
ようするに、僕はこんな場所にいなくても孤独なんだ。
そして同時に、当然に孤独であることはもはや僕自身の孤独ではない。
つまりは心次第なのだ。拍子抜けだが、たぶん孤独感なんてものは感傷でしかない。
そのまま、別のことについて考える。
生きる意味について、考える。
世界の中では取るに足りない塵のような自分が生きる意味なんて、無いんじゃないか。
誰かはきっと見つかるというけれど、そんなものはそもそもなくて、僕は生きている意味がない存在なんじゃないのか。
そう考えた瞬間、どうしようもなく怖くなって、僕は立ちどまった。
こうやって誰もいない夜に居るのは、僕の存在が無意味だからなんじゃないかって。そう思えて。
思わず、近くの電話ボックスによりかかる。
たよりなく明滅する街灯と電話ボックスからの光に照らされながら、僕は震えていた。




