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別室にてフェルグによる今回の話について追加講義が行われていた。大好きなお菓子とジュースと一緒に講義を受けたポルカはうんうんと頷きながらチェック柄のクッキーをぽりぽりとかじっていた。ポルカも今度こそきちんと理解しようという気持ちが強いのか、先ほどより目力がすごく説明しているフェルグが時々驚いてしまうほどだった。
かなり細かく噛み砕いて説明を終えたフェルグはポルカに理解ができたかと尋ねると、元気よく手を挙げながら「はい! りかいできました!」と応えた。フェルグはちゃんと理解できたかより、元気よく返事をしてくれたことが嬉しかったのか小さく笑った。
「? フェルグにいさん? なにかおもしろかった?」
「あ、ああ。すまない。そういう意味ではないんだ。私は元気よく返事をしてくれたことが嬉しくてね」
「……?」
何のことだろうと首を傾げながらポルカは次のクッキーに手を伸ばしはむはむ。卵と牛乳をたっぷりと使ったこのクッキーはポルカのお気に入りで、こうしてフェルグたちが集まってお話をするときに必ずフェルグはたくさん持ってきてくれる。そしてそのお菓子をもぐもぐしながらジュースを飲みながら大好きなフェルグやカマリたちと話しをすることがポルカは何よりも幸せな時間だった。
幸せそうにジュースを飲んでいるポルカとは対照的に、フェルグの顔はどこか曇っていた。というのも、星座の力に一番早く目覚めたポルカは親元を離れ、こうして他の十二星座の皇子たちと関わりながら生活をしている。本来は親元と一緒に生活するのが正しいのだが、星座の力は封印を守る上では欠かせない力となっているため、仕方のないこと。ポルカの両親もそれを承知でこちら側に預けているのだから……いや、それでも両親はまだ幼いポルカをこちら側に預けることに本当は反対していたのではないか。本当はもっともっとポルカと同じ時を過ごしたかったはず……なのに、星座の力に早々に目覚めてしまったばかりにこのようなことになってしまった……これは、星座の力を憎むべきかそれとも封印を恨むべきか……フェルグはなんとの悔しそうな表情をしていると、とんとんと誰かに肩を叩かれた。振り返るとそこには心配そうにフェルグの顔を覗き込んでいるポルカだった。
「どうしたの? どこかぐあいわるいの??」
「あ……いや……」
咄嗟に言葉がでなかった。幼くしてこの役目に手を挙げて引き受けてくれたのに……もしかしたら二度と両親に会えなくなるかもしれないというのに、このポルカときたら両親といる以上に元気に過ごしていた。勉強はもちろん、竪琴の稽古も嫌な顔一つせず積極的になんでも吸収しようという気持ちが人一倍強い。そんなひたむきな子が十二星座の皇子になるだなんて誰が予想できただろうか。
(できるのなら、今すぐにでも親元にお返ししたいくらいなのだが……)
もし、ふたご座の皇子がいなくなってしまったらその分封印を守る力は弱くなってしまい、綻びは今よりも早まるだろう。この子の幸せか、それとも世界の幸せか……。それを天秤にかけることなど……。
「? ふぇるぐにいさん?」
「……すまない。ちょっと考え事をしていてね」
「ポルカ、ちからになれるかな?」
「え?」
「いっつも、ポルカのおはなしきいてくれるフェルグにいさんのように……はできないかもしれないけど、なにかポルカがおてつだいできることがあったらおしえてね! ポルカ、がんばるから!」
ふんと小さく鼻息を吐きながらやる気を見せるポルカの隣でカスターも同じようなポーズをとってみせた。
「あはっ! カスターちゃんもてつだってくれるって!」
「ああ……ありがとう。ありがとう……」
このとき、フェルグは自分のことが情けないと感じた。まだ幼いからという理由で勝手に悲観してしまっていたのだが、実際はこんなに元気でやる気に満ちている。そして大人顔負けのバイタリティを持っていて、この満開の笑顔だ。心配をしなくても大丈夫だよとどこかから聞こえてきそうなその可愛らしい笑顔にほっとしたフェルグはポルカとカスターをぎゅっと抱き寄せた。
「ごめんなさいね。色々と変な方向に考えてしまっていたようだ。でも、もう大丈夫。ポルカの元気な笑顔が見れて、わたしの悩みは全て吹き飛んだよ。ありがとう」
今はこの時を大事にしていこうと決意したフェルグはいつもより長く、ポルカとカスターを抱きしめた。そして、何か有事の際はポルカとカスターだけでも守ろうと何度も何度も自分に言い聞かせた。
講義という名のお茶会を終え、ポルカとカスターは自室へと向かった。長い間お話に付き合ってくれたフェルグにお菓子とジュースのお礼をし、るんるん気分で廊下を歩くポルカはカスターに「たのしかったね」と言うと「そうだね」と言いたげに表情を緩ませた。ふんふんと鼻歌を歌いながら自室の扉を開け、中に入るとそこは可愛らしい動物たちのぬいぐるみでいっぱいの部屋だった。小さな天蓋付きのベッドには星と月のオーナメントが飾られており、まるで星空を持ってきたかのような作りだった。ふかふかのベッドに座り、そのまま後ろへ転がるといつでも夜空を楽しめるような黒い天井が見えていた。ポルカはその天井を見ながらあれこれ考えることが好きで、何か楽しそうなことを思いつくといつの間にか時が過ぎてしまっているということもしばしば。今はフェルグから教えてもらった話を少しずつ思い出しながら天井を眺めていたポルカ。その顔は先ほどの楽しそうな顔ではなく、少し難しい顔をしていた。
「ふういん? そのふういんがなくなっちゃうと、このせかいがなくなっちゃうっていってたけど……なんでなくなっちゃうのかな??」
いまいちピンと来ていないポルカは疑問に思っていることを口にした。まずは「ふういん」について考え直してみることにしたポルカはむくりと起き上がり、カスターを抱きしめながらフェルグが言っていた言葉を思い出した。
「えっと、ふういんっていうのは……わるものたちがこっちのせかいにこないようにしているものってことだったよね。だけど、そのふういんっていうのがだんだんちからがよわくなってきていているって……。そのふういんをまもるちからっていうのが、ポルカたちのちからだっていっていたけど……あってるかな?」
記憶を頼りに整理してみたのだが、いまいち正しいかがわからない。どうしよう、もう一回ちゃんと理解した方がいいのかな。急に不安に駆られたポルカはカスターを抱きしめながら自室を飛び出し、さっきまでフェルグと話していた別室へと走った。
「ちゃんとりかいしないといけないきがする。まだフェルグにいさん、いるといいんだけど……」
廊下を走るポルカの背後では、何やら黒い物体が点々とついているのだがポルカはそれに気が付くことなく必死に走っていた。必死に走っている姿を見た黒い物体は音もなくげらげらと笑っていた。




