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ポルカが向かったのは自分の部屋……ではなくて、そこよりももう少し奥にある大きな部屋だった。金色の取っ手を引き中へ入ると、中にはこれまた大きな円卓が置かれていた。そして等間隔に並べられた椅子には既に何人かが座っていて、入ってきたポルカとカスターを見た。
「ポルカ。お稽古お疲れ様」
「フェルグにいさん!」
フェルグと呼ばれたカマリと同じくらい身長の高い青年がポルカに微笑んだ。シルバーの髪色は毛先へ向かう程深海を思わせる深い蒼色へと変わっている。手には彼の守護する宮─双魚宮のコアが埋め込まれた三叉槍が握られていた。そしてフェルグの肩には彼のペットであるウミウシのレシャがすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。
「これまた大きくなったのう。ポルカ」
「スゥおねえさんも! こんにちは!」
雪のような白い肌、長い髪にどこか蠱惑的な笑みを浮かべる宝瓶宮のコアを埋め込まれた大きな水瓶を携えた女性─スゥは久しぶりに見るポルカをみながら高笑いをした。そして大きな水瓶を見せて「覗いてみるか?」というと、中から大粒の水を風船のように空中へとふわふわと浮き上がらせ、ポルカを楽しませた。
みんなポルカが成長していることを喜んでくれている中、一人だけ仏頂面でそっぽを向いているまるで野獣のような男性がいた。そんな獣が座っている椅子の後ろにはまるでチェーンソーのようなするどいギザギザがついた剣が置かれ、柄の部分には彼の守護する宮─獅子宮のコアが煌々と光っていた。
「れ……れおにすにいさん。こ……こんにちは……」
真っ赤に燃える炎のような色のショートヘアーに黒いタンクトップの肩から見える入れ墨、どこか気怠そうな眼にはぎらついた何かを感じさせるほどのエネルギーがあった。そのせいか、ほかのみんなにはないどこかぴりぴりした雰囲気に怖気ながら、ポルカは震える声で挨拶をした。その声に気が付いたのか、レオニスは小さく「あぁ?」と言いながらポルカを見た。鋭い刃物のような目線に一瞬びくりとするポルカだが、カスターが一緒だとわかるとほんの少しだけ緊張を解き頭を下げた。するとレオニスはしばらく考えたのち、ポルカの頭に優しく手を置いた。
「……」
無言ではあるが、これでもポルカがいて嬉しい……という彼なりの表現だとここにはいないおとめ座の皇子─スピカは言っていた。
(ちょっぴり怖い……けど、やさしいんだよね。れおにすにいさんは)
さっきよりもちょっと安心したポルカはにこっと笑顔で応えると、とてとてと歩きフェルグの隣の椅子へと座った。
しばらくして十二星座の長であるカマリが悠然と中へ入ると、全員はそれぞれ簡単に挨拶をしてから本題へと入った。それは、十二星座の皇子が守らなければならない封印というものについてのことだった。十二星座の皇子の所有物には封印を守るためのエネルギーを発する効果と、守護者の身体能力を向上させるコアが埋め込まれている。そしてそれらを手放したりしてはいけない、手に届く範囲で持っていなければならないなど色々と制約がある。今日まできちんと制約を守っているのだが、それでも封印を守る力は粒子の細かい砂のようにごく微量ではあるが確実に綻びが生じているとの報告があった。コアは守護者が戦闘態勢に入ったときや感情の昂ぶりなどで発動し、守護者に力を注いでいく。注がれた守護者の戦闘能力は一時的ではあるが飛躍的に上昇し、目の前の障害を取り除くことができる。中にはコアの力を応用し、守る力を発揮するものや自身の力を向上させる者、または守護者の思うように力を発揮する者など守護者のコアによって力は様々。
だが、そのコアの力が失われれば力はおろか世界までなくなってしまう。もし、コアが破壊されれば封印を守る力は薄れ、外からの星座の力を忌まわしいと思う存在たちによって浸食されてしまいやがて滅亡してしまう。それをどう防ぐかというのが一番のねらいなのだが、レオニスは無関心、スゥは難しそうに唸り、フェルグとカマリは互いに意見を交換しあっているのだが、ポルカにはまだ難しすぎて何がなんだかわからず、目をぐるぐるとまわしながら唸っていた。
「ポルカには……まだ早かったかなぁ」
「……ですが、今のうちにお話をしていてもいいと思ったのですが……。またあとでわかりやすく説明しておきます」
ついに耐え切れず、ポルカは机の上に突っ伏してしまい、ここで話し合いは終了となった。結局、これといっていい案は出ずに終わった。これに関しては定期的に話し合いをして実行をしなければならない事項なので、参加できる皇子はできるだけ参加し意見を述べてもらいたいというのがカマリの希望ではあるが、それぞれ事情があるため出席できないというのも事実であった。
「さて、今日はここまでですが……ポルカ。終わりましたよ」
カマリはポルカの肩を優しく揺すると、ポルカは「うーん」と唸りながら目を擦った。視界がはっきりする頃には大きな部屋にはカマリとフェルグしかおらず、ポルカはがっくりと項垂れた。
「あぁ……またやっちゃった……」
「いいんですよ。後できちんと詳しくお話しますので。そう気を落とさないでください」
「うう……きょうこそはちゃんとおはなしきくって決めてたのに……ごめんなさい」
「気にしないでいいんですよ。わたしたちはそんな頑張り屋なポルカが大好きなんですから。もちろん、カスターもね」
フェルグはカスターにウインクをすると、カスターは嬉しいのか小さく跳ねた。そしてポルカにも「がんばろう!」ということを表現すると、ポルカは「そうだね。あたし、がんばる!」と気合を入れて立ち上がった。その様子はカマリとフェルグは微笑みながらそれぞれポルカの頭を撫でると先にカマリが部屋を出て、最後にフェルグとポルカが部屋を出た。フェルグは戸締りをし、別室でおやつにしましょうというと、ポルカは太陽のように笑いながら「うん!」と答えた。仲睦まじく歩くその姿は兄弟というよりは、父と娘のようにも見えた。




