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「?」
誰かに呼ばれたような気がした少女はふと後ろを振り返った。しかし、そこには誰もおらず代わりに静けさだけが佇んでいた。おかしいなぁと何度確認をしてもそこには誰もいなかった。気にはなるけど、今はそれどころではないということを思い出した少女は目の先を歩く長身男性のあとを追いかけた。
「はい。では、竪琴のお稽古を始めましょう」
「はい! おねがいします!」
防音設備が整ったな小さな部屋の中で金色に輝く髪をフィッシュボーンに結い上げ、両サイドに下げている少女が元気よく返事をした。ラベンダーパープルの瞳にちょっぴり大き目なフリルドレスを身に着け、右手には髪色と同じかそれ以上に輝く竪琴を持っていた。左腕には小さな少女のぬいぐるみがひっついていた。
少女の名前はポルカ。そして、ポルカの左腕にひっついているのはポルカの親友カスター。ぬいぐるみなのだが、まるで意思を持っているかのように振舞っているその姿は姉妹を思わせるほどだった。ポルカは幼くして十二星座の皇子としての力に目覚め、急遽親元を離れ同じ十二星座の皇子の長であるてんびん座の皇子カマリのもとで守護者として暮らしている。長身痩躯、ブルーベリー多めのヨーグルトのようなホワイトパープルのロングヘアーに白のいタキシードのような格式ばった衣服を纏い、まるで英知を宿しているかのような澄んだ薄いシルバーの瞳をもち、手には天秤を模した杖を持っている。その杖のちょうど真ん中辺りには彼の守護している十二星座の緑色のコア─てんびん座が埋め込まれていた。ポルカの竪琴にも彼女の守護する十二星座の金色のコア─ふたご座が埋め込まれている。このコアは、封印と呼ばれるものを守る上でとても大事な役割を果たしている。一つは、このコアがある限り封印を守り続けているということ。封印が破られるということは即ち世界の終末を意味している。それを防いでくれているのは、このコアから発している星座の力のおかげである。そしてその星座の力を引き出せるのは、その十二星座のコアに対応した皇子のみである。ふたご座ならポルカ(とカスター)、てんびん座ならカマリといった具合だ。
今、カマリとポルカが行っているのは楽器演奏の練習だ。ポルカは幼くして親元を離れているため、教養などはすべてカマリから受けている。勉強やマナー、楽器の演奏や雑学など広範囲にわたる。親元を離れる際、ポルカは母親から寂しくないようにと手作りのぬいぐるみを手渡された。それは、ポルカにとってもよく似た可愛らしい小さな女の子だった。ポルカの手に渡ると、そのぬいぐるみはまるでポルカに挨拶をするかのように小さくお辞儀をした。最初こそ驚いていたポルカだったが、大好きな母親が作ってくれたぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめながらぬいぐるみに名前を付けた。
「きょうからあなたはカスターちゃん! よろしくね! カスターちゃん!」
カスターと名付けられたぬいぐるみはさっきよりも嬉しそうに手をぱたぱたと動かすと、ポルカは更に慈しみを込めてカスターを抱きしめた。仄かに優しい香りがポルカの鼻腔をくすぐると、ポルカはうんと大きく頷いて大好きな両親に大きく元気に手を振った。
「ぱぱ! まま! いってきます!」
「ポルカ、気を付けてね」
「カマリ、ポルカをよろしくおねがいします」
カマリはポルカの両親に深々と頭を下げてから、まだ幼いポルカの手を引いた。最後まで満面の笑顔のまま手を振るポルカに、両親は見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。
「さぁ、次は『おほしさまのうた』を練習しましょう」
「はい!」
カマリの指揮に合わせてポルカが竪琴を演奏する。弦を軽く爪弾き演奏することで星空に瞬く星々をイメージを抱きながらポルカは譜面とにらめっこをしながら演奏をした。何か所か間違えてしまった箇所はあるものの、カマリの適格なアドバイスを受け止めたポルカの学習能力は凄まじく数分でマスターをしてしまった。
「おつかれさまです。細かい箇所の訂正はありますが、概ね順調に演奏できています。その調子ですよ」
「やったー! カマリおにいちゃんがおしえてくれたからえんそうできた! ありがとう!」
「いえいえ。わたしはただ助言をしただけです。実際に演奏を行ったのはポルカなのですから。吸収のスピードには驚きました」
「えへへ」
カマリは思ったことを素直に伝えると、ポルカは少し恥ずかしそうにもじもじとしていると足元にいたカスターも「よくできました!」とばかりに拍手を送っていた。
「えへへ。カスターちゃんもありがとうね」
「では、軽く『おつきさまのうた』を練習して今日は終わりましょう」
「あ、はい! おねがいします!」
譜面をめくり、まずはにらめっこをしてから小さく息を吐きポルカは演奏を始めた。強弱をつけて演奏をする『おつきさまのうた』は、さっき演奏した『おほしさまのうた』よりも少し難しい曲ではあるが、それをポルカの持前のセンスで演奏をこなしていく。何度か止めて演奏をしながら最後に竪琴の手入れを施し、今日の練習は終わりを迎えた。
部屋を後にしたポルカとカスターは、先生であるカマリにお礼をしてから次の予定が行われる場所へと駆け足で向かった。次はちょっとだけ難しいお話になるかもしれない……けど、ポルカはそんな時間も全部全部大好きだと小さく呟きながらふと肩に止まるカスターに視線が移った。
「カスターちゃん! いこう!」
カスターちゃんと一緒ならなんだってできる。改めてそう思い直し、ポルカは広い廊下を元気よく駆け抜けていった。




