幾望
ラファルドとセリリカの心配を他所に、真白は今の状況を確認しようと手を叩いた。すると、大きな鏡が現れた。鏡には真白はもちろん、ラファルドやセリリカ。そして星空もばっちり映している。その鏡にすっと近付き、手をかざすとまるで静かな水面に一滴零れたような波紋が広がった。やがて波紋が消えるとそこには今の十二星座の皇子たちの様子が映し出されていた。
「……っ! なんということでしょう……!」
「これは……!!」
「なんと……むごいのう……」
映し出されたものは、皆が皆傷つき倒れている光景だった。とある宮では火災が発生しているのか、妙に赤いものがちろちろと揺れていて、また別の宮では校舎が跡形もなく崩れている光景が映し出されていた。そしてなにより、三人が驚いたのは皇子たちの傍らにある武器だった。十二星座の皇子たちはそれぞれに武器を持たせているのだが、そこに自身が継承しているコアが埋め込まれており、念じることで力を発揮することができるのだが……本来埋め込まれている箇所にコアがなく、その代わりに周囲にはガラスのような破片があちこちに飛び散っていた。それはつまり……。
「これは……」
これ以上言葉を出すことができないほど、三人の表情は険しくなっていた。出せたとしても真白が驚いた言葉のみで、それ以上はどうしても言葉を紡ぐことができなかった。真白はもう一度鏡の手をかざすと、今度は円形の表のようなものが表れた。そこには本来、各宮の記号が描かれているのだが今はそれもなく、残っているのはてんびん座といて座の二つのみだった。これはどう足掻いてもひっくり返せない状況だと悟った真白は、胸の前でぐっと拳を握りながら肩を震わせていた。
「真白……」
セリリカが心配になり真白に近付き、その背中を優しく包み込むと真白は静かにその手を握った。セリリカも言葉には出さないが「大丈夫。わたしたちがついている」と言っているかのように真白の手を優しく握り返していた。
「もう……大丈夫です。ありがとう。セリリカ」
「そんなの……真白が心配なら……わたしたちはいくらでも協力する」
「もちろんだ。何かあればすぐに駆け付けるので」
「セリリカ……ラファルド……本当にいつもありがとうございます」
涙を浮かべながら薄く笑う真白。その顔にセリリカとラファルドは胸が痛くなり、思わず顔をしかめる。しかめながら二人の思いはきっと一緒だろう。
「この宿命から真白を解き放ちたい」
真白にもうこんな思いをさせたくないという思いが、二人をより強くさせる一方不定期にやってくるこの絶望的な瞬間を二人は何度も経験してきている。そう、何度も。そしてそれを迎える度、二人は全力で真白を守りながら相方の様子も伺うという常人ではなしえないことをいとも簡単にこなしてしまう。それは、二人は一見すると普通の人間ではあるが二人は人間が生きられる年数を遥かに超え、真白の影響で成長が著しく遅延しているからである。セリリカは幼く見えて剣術の達人であり、ラファルドはセリリカの弟子でもある。この関係があるからこそ、ラファルドは剣術の腕は伸びしろしかなく成長しても果てない伸びしろが広がるばかりで、セリリカも教えても教えてもすぐにそれを吸収して覚えてしまうラファルドが恐ろしくも頼もしいと思っている。培った実力を試すといった面でも、この絶望的な瞬間というのはいいのかもしれないが聊か不謹慎ではあるのだが、二人の実力を試す場というのはそこしかないというのも事実。絶望的な状況になればなるほど、二人の力は強くなり真白を守ることなど容易ではある。しかし、それは数が少ない場合である。相手は有象無象に現れ、ラファルドの伸びしろと同じくらいの数が押し寄せてくる。個体の戦闘能力はそこまでではないとしても、それが一気に押し寄せてきては話が変わってくる。真白自身も戦うことはできるのだが、それは最終手段であって、戦闘は専らセリリカとラファルドが担当する。セリリカはどちらかと言えば前衛向きで、その華麗な剣捌きで敵を圧倒することが得意。対しラファルドは剣の腕前はもちろんだが、補助や支援が得意で手当ての心得もあり傷ついた仲間の救護もできる。あくまで応急処置であり、今を乗り切るための一時的な治癒なので戦闘が終わればちゃんとした手当もしてくれるというホスピタリティも持ち合わせている。セリリカが突っ込んで戦うに対し、ラファルドは計算をしながら戦う。真白はその細腕には似合わない両剣を持って踊るように戦う。右に白、左に黒の太刀を持ちそれぞれ蛇神が宿っておりその力を借りて戦う。蛇神も真白のことを気遣っているのか、時々真白の言うことを聞かないときがある。それは寧ろ真白に対しての愛あっての抵抗だということを真白はまだ気が付いていない。
「……もしかしたら。まだ可能性はないわけではないはず……です。一旦、カマリさんに話を聞くことくらいはできると思います。なので、今から行ってきます」
まだこの絶望的な状況を打破できるかもしれないと思った真白は、藁をも縋る思いで十二星座の皇子の長でもあるてんびん座の皇子─カマリを訪ねると二人に告げると二人は不安そうに真白を見つめながら小さく頷いた。
「大丈夫。ちょっと話を聞いてくるだけだから。そんな悲しそうな顔しないで?」
「……はい」
「……気を付けてな……」
「うん。その間、留守をお願いね」
真白は二人にそう告げ、天秤宮へ向かって移動を始めた。もしかしたら、私が戦って救えるかもしれないと小さな小さな期待を胸に、天秤宮へ向かった真白の顔はちょっとだけ笑っていた。




