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既朔

 その少女は静かに祈っていた。心を穏やかにし、自分の呼吸すらも聞こえないくらい静かに。遠くのものまでも見えてしまいそうな程、薄い袖羽衣の上には変わった巫女服を身に着けていた。銀河に浮かぶ星々を思わせるかのような銀色の髪は、見ているだけで時を忘れてしまいそうなほど魅力的だった。雪いやそれ以上に白い少女の肌には所々に薄く何かの鱗のようなものが這っているようにも見えた。特にやや高めの履物を履いている両足にはすぐにそれが見てとれた。そしてその鱗のようなものは時折光ってみせ、その度に少女の顔を小さく歪ませた。少女も周りに気付かれないよう我慢をしているのだが、時々その我慢をも超える痛みに思わず声をあげてしまうときもある。その声に驚いた周囲の人たちには「大丈夫」と気丈に振舞ってみせるも、内心は痛くて痛くて仕方がなかった。冷たい自分の手で抑えるもその痛みは中々引かず、諦めた少女はまた無理やり笑顔を浮かべ振舞った。

 幾万の星々が内緒話をしているかのような星空の中、一人また一人と人影が現れた。気配に気が付いた少女は静かに目を開き、振り返った。そこにはぴしりとした異国情緒あふれる鎧に身を包んだ若い少年と、黒いアーミーコートを着た幼い顔立ちの少女が立っていた。

「セリリカ、それにラファルド。来てくれてありがとうございます」

「礼には及びません」

「私たちはいつでも、傍にいるからな」

「二人とも……ありがとう」

 恭しく頭を下げたラファルド。深い藍色の羽織に金色の肩章、純白のベイカーパンツにやや丈の高い黒い履物を身に着けている。そして腰には爽やかな青色をした束が鞘が収まっていた。栗色の長い髪を器用に結わい、純粋無垢を表しているかのような玉飾りで先端を束ねていた。肩章についた白銀の飾りがラファルドが歩く度に小さく凛と鳴る。

 その隣で少女に会えたことが嬉しいのか、幼い顔立ちの少女は嬉しさを隠しきれていない満面の笑顔ではしゃいでいた。肩章がついているのは同じなのだが、ラファルドとは少し異なるがこちらは純黒と赤二色を使った、落ち着きの中にある秘められた強い思いを感じさせる配色だった。頭からは白く渦巻いた角を生やし京藤色の長い髪をそのまま垂らし、先端はゆるく巻いていた。白のタイトなパンツに赤い低めのヒールを履き、腰にはセリリカの軍服と同じ配色の刀が収められていた。軍服の背から生える翼、腰からのびる黒く太い尾は竜を思わせるかのようだった。しかし、セリリカの友人の中には、セリリカの尾は竜にも蛇にも見えると答える者が一定数いた。なるほどうねうねと動いている様は餌を見つけた時の蛇に見えなくもなかった。

 少女は薄く笑みを浮かべながら二人に謝意を述べると、そのまま視線を上へと向けた。数多の星々がひそひそ話をしているかのような空間の中に一つだけ、元気のない星が見えた。その星を見つけた少女はひどく悲しい表情を浮かべた。その様子に気が付いた二人は少女の元に駆け寄ると、少女は小さく首を振りながら「大丈夫です」と細い声で答えた。

「真白、大丈夫か」

「何があったのだ」

 真白と呼ばれた少女は何度か深呼吸をし、落ち着いたころを見計らい二人の目をまっすぐ見つめながら答えた。

「星が……このままでは……壊れてしまいます」

 その言葉に二人は思わず息を飲んだ。それは単なる滅びではなく、辛く悲しい宿命を背負った真白のことを知っているのなら、それはまた意味が違ってくる。世界が滅びる即ち……。

「大丈夫です。もう……慣れてますから」

 大丈夫と何度も言う真白。しかし、その表情からはとても大丈夫そうに見えないのは気のせいだろうか。その証拠に、真白の足首には透明な鱗のようなものがじわりじわりと這い上がっていた。

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