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 翌朝。二人は何事もなく通学路で顔を合わせ挨拶をし、そのまま学園行きのバスへと乗り込んだ。既に座席は満席となっていて座ることはできないけど、学園まではそう遠くないので立っているのもそこまで苦ではなかった。二人はつり革に掴まり窓から流れる景色を静かに見ていた。窓の外ではほかの学校の生徒が黄色い帽子をかぶり手を繋ぎながら登校している姿や、急ぎ足でどこかへ向かう大人たちなど様々な景色が映っていた。天気がいいからか、学校へ行く生徒の顔はどこか嬉しそうに見えたり、大人たちの顔はほんのちょっぴり暑そうな表情が浮かんでいた。

「間もなく、学園前です。お降りの際はお忘れ物ないよう、ご注意ください」

 運転手のアナウンスにはっとしたシェラハはまるで降りる生徒たちの濁流に飲み込まれるような形で押し出されると、バスの扉は静かにしまりそのまま発車した。あまりの勢いに二人は肩で息をしながら校門を潜ると、校庭では元気な声を出しながらバスケットボールをしている女性を見かけた。

「ナイスパス! そのままシュートしちゃいな!」

「入れー!」

 ボールを受け取った男子生徒は女性の声のあと、すぐにボールを投げるとそのボールはきれいな弧を描いてゴールへと吸い込まれていった。

「ナイスシュート! さ、これで逆転できたね! まだまだ行くよ!」

「おう!」

 スカイブルーのセミロングヘアーに白のノースリーブのシャツ、淡い紫色のショートスカートに左右色違いのソックスを履き、腰あたりから伸びるまるでさそりのような尾を持つ女性は爽やかな笑顔にきらきらの汗を浮かべ楽しそうにしていた。

「あ、あれ。シャウラだ」

「シャウラ? ほんとだ」

 シャウラと呼ばれた女性もまた、シェラハとアマテルたち同様十二星座の皇子であるのと同時にこの学園の先輩でもある。シャウラはさそり座のコアを継承するもので、とにかく活発で誰とでも仲良くなれる社交的な性格の持ち主。 そしてなにより面倒見がよく、クラスメイトたちだけでなくシェラハたちに対しても優しく接してくれる。

 ところが、ある日風の噂で聞いたのだが、シャウラはよく学級委員に推薦されているのだが、その度にいつも断っているらしい。その外にも学園内の異性の生徒から告白をされたりと人気者なのだがそれらを全て断っているというものだ、断り方も実にシャウラらしく傷つける要素は一切なく相手を不快にさせることなく断っているというのだから驚きである。ただ、いつも断っているということに疑問を感じたシェラハはふと気が付いてしまった。やるのが嫌ではなく、どこか何かを避けているのではと。それは学園内のみんなと深く関わらないようにしているようにも見えたシェラハは、もしかして……と心の中で思ってしまったのだ。もちろん、そのことに関してはアマテルにも言っていないし大丈夫なのだがずっと抱えているのはなんだか胸が苦しくなってきていたシェラハは思い切ってアマテルにどう思っているかを聞こうと口を開きかけたとき、ぽんぽんという何かが跳ねる音が聞こえた。

「……? ボール?」

「あーもう、どこ投げてるのよ! すいませーん! ボールとってくれませんかー?」

 それはバスケットコートから飛び出してきたボールだった。アマテルはボールを持ち軽くシャウラ目掛けて投げるとシャウラは目で挨拶をしてから再びコートへと戻っていった。

「もう。他の生徒さんにぶつかったらどうするのよ! 次はもっとしっかりプレーしてちょうだい!」

「すまない。力みすぎた……」

「はいはい。じゃあ、次、行ってみよう」

 すっかり言うタイミングを奪われてしまったシェラハは、軽く咳払いをするフリをしてその場を誤魔化した。よかったのか悪かったのかはわからないけど、今はとりあえず教室へ向かうことにした。話はいつでもできると考えたシェラハは言いかけたもやもやを無理やり飲み込んだ。


 昼休みに入り、シェラハとアマテルは屋上でランチをすることにした。嫌がるアマテルは理由を問うと、ほんのちょっぴり日差しは強いがそれよりも心地よさが勝っていたというのが理由とのこと。この時のシェラハに何を言っても無駄だと知っていたアマテルは観念し、購買部で購入したサンドイッチとイチゴ牛乳を片手に屋上へ出ると、視界が一瞬真っ白に塗りつぶされ、その後ゆっくりと気持ちの良い青空が広がる校外の景色が広がる。

「……悪くねぇ」

「でしょ? 購買部のスペースもいいけどたまにはこうして外で食べるのいいかなぁって思ってさ」

 普段、屋上は開放していないのだが不定期に開いているのを知っていたシェラハは試しに一人で外でランチをしていても誰にも注意されなかったことから、これは大丈夫だと思い学園に登校してから職員室の掲示板をチェックするのが日課になっていた。職員室の掲示板に屋上開放の情報が出ていても、屋上でランチをする生徒は非常に少なく今まで他の生徒と鉢合わせたことがなかった。それはシェラハにとっては好都合であり、二人きりの時間を過ごしたいときはこうしてアマテルを誘いゆっくりランチを楽しんでいる。

「んで、何か言いたそうだったけど。何かあったのか?」

「……さすがだね、アマテル君」

 あんドーナツの袋を開けたシェラハは早速かぁとばかりに小さく息を吐いた。軽く一口かじり、もくもくと口を動かし飲み込んだ。そして、シェラハはアマテルに小声で尋ねた。

「シャウラ先輩……もしかして……」

「…………だろうな」

 シャウラが言いたいことを察したアマテルは小さくそう答えた。答えを聞いたシェラハはあんドーナツの袋をぎゅっと握った。それは、シャウラも皇子として考えて行動をしているということだった。あの噂がもし本当なら、そして皇子としての使命を混ぜ合わせると導かれる答えは一つ。


 仲良くしすぎると後に辛くなる。


 それはきっと封印のことだと思うと、シェラハは小声で言うとアマテルはイチゴ牛乳をずずずと吸った。封印を守るため、そしてその封印を誰にも口外しない。だけど、普段通りの生活は過ごすという常に緊張感の中であそこまできらきらと輝けるシャウラを何度羨ましいと思ったか。自分だったら、とにかく普段通りを意識しなきゃという義務感が強くなってしまいそうな気がして学園生活なんて無事に送れるのか不安ではあったが、隣でハムサンドイッチをもくもくと食べているアマテルがいてくれたからここまで頑張れることができた。

 不愛想で言葉足らずでだけど弱い者いじめや曲がった事が大嫌い。筋が通っていないことなら猶更許せないアマテルは、時々相手を分からせるため実力行使をしてしまう。それについて誰かが告げ口をしたとしても、アマテルは特に弁明することもなく無言を貫いてしまう。それは周りにとって肯定と捉えられ、アマテルを悪者扱いする人が後を絶たない。だけど、そんな正義感が強いアマテルに心惹かれているシェラハはアマテルの前に出て、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

「アマテル君を悪く言わないで!」

 まさかのシェラハの登場に周りも驚くも、そんなことなどお構いなしにシェラハはアマテルをひっつかんで誰もいないところへ移動すると、シェラハはアマテルに抗議をする。

「なんでいつも何も言わないの?」

「……言ったところで誰も信じてくんねぇだろ。だったら、何も言わない方が楽だし」

「だからって……アマテル君は何も悪くないのに……なんでわざわざ悪者にならないといけないの?」

「…………」

「アマテル君……」

 次第に涙を浮かべ泣き出すシェラハ。袖で涙を拭っても溢れる涙は留まることを知らなかった。さすがにまずいと思ったのか、アマテルは無言で近づきそっとシェラハの頭に手を置くと「……わりぃ」と一言。その言葉にさらにシェラハは感情を抑えきれずに泣き出してしまった。

 シェラハも幼馴染としてアマテルを知っているが、なんでも自分が被ればいいと思っている節がある。例え自分がやっていなくても、無実でも。本当は何もしていないのに、本当は何も悪くないのに悪者扱いにされてしまうということに、シェラハはなんでもっとアマテルのことをわかってくれないのだろうと思いながら出たのがさっきの一言だった。話せばわかるはずなのに、何も悪くないアマテルが傷つくこと、それはアマテルよりシェラハが一番傷ついているということに今気が付いたアマテルは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「……わりぃ」

「…………」

 無言で首を横に振り、アマテルの言葉を否定。何度も何度も首を横に振り、涙を流すシェラハにアマテルはシェラハを抱き寄せ頭を撫でた。

「……少しだけな」

「……ぅん」

 アマテルなりの気遣いにシェラハは小さく頷き、ほんの少しだけ甘えることにした。

 しばらくして落ち着きを取り戻したシェラハはアマテルに「ありがとう」というと、アマテルはそっぽを向いて応えた。それからというもの、アマテルを悪く言う人に対し怒るシェラハという構図が生まれた。本当に悪くないということを言えればなんら問題はないのだが、それが言えないでいるから生まれたこの構図は学園内でちょっとしたものとなった。


「封印……かぁ」

 あんドーナツの袋を結びながらシェラハ。果たして封印が解かれてしまったらこの光景はどう変化してしまうのだろうか想像もつかなかった。

「んなこと気にしてる暇あんなら、午後の授業のこと気にしろよ」

「……アマテル君には言われたくない」

 午後一番の授業は、あの特殊な癖を持った先生の授業だった。前回はバツとして教室の掃除で済んだのだがもし今回もとなったら……どんなバツが待っているのかそれこそ想像がつかなかった。

「とにかく、それについて考えるのはやめだ。きたらその時に対処するだけ。そうだろ?」

「……うん」

 もし封印が解かれれば世界がなくなってしまうというあまりに抽象的な表現しかわかっていない今、大好きな学園やアマテルを失いたくないシェラハは口をきつく結んで力強く頷いた。その時が来たら包み隠さず力を発揮し、みんなを守ることに注力すればいいだけの話だと自分を納得させると、残っていたレモンティーを一気に飲み干しきれいに畳んでゴミ袋へ入れた。

「さ、うじうじするのはここまで。午後も頑張っていこう」

「オレは寝るかもしれないから、その時はまたよろしくな」

「もう。これ以上掃除当番は嫌だよ。アマテル君、しっかり」

「できたらな」

 そんなやりとりをしながら屋上を後にする二人。扉を閉めたシェラハは、ほんのわずかではあるが嫌な予感がしていた。それは言葉にできない何とも言えない嫌悪感というかなんというか、表現するのが難しいということだけははっきりとしているもの。

「……大丈夫……だよね」

 自分だけが聞こえるくらいの声でそう呟くシェラハ。きっと大丈夫だと信じてる。いや、信じたいという気持ちから出たその言葉に一縷の望みを託したシェラハは教室へと向かった。

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