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 その少女は巨大な水瓶から流れる清らかな水に手を浸しながら遠くを眺めていた。ひんやりとした心地が、今の少女の気持ちを落ち着かせてくれるには十分な冷たさだった。そして少女は濡れたを手を見つめ、小さく息を吐いた。

「憂いであればいいが……」

 すらりとした顔の輪郭、カシスのような瞳にあどけない表情。白雪のような髪、そしてその髪の上には金色に輝く小さな小さな冠をのせていた。元々少女が放っている高貴な雰囲気に加え、その小さな冠は大きさに関係なく威厳や更なる高貴を示していた。青い大きな二枚貝の上に腰掛け、手にはその二枚貝と同じくらいいやそれ以上に青い大きな水瓶を携えていた。そしてその水瓶にはまるで波を表しているかのような波状模様が刻まれた丸い物が埋め込まれていた。

 少女の名前はスゥ。十二星座の皇子であり、みずがめ座のコアを継承した家系の末裔。はるか昔に神々と関わり『時を超越する生命』を得たことで、家系といっても現在に至るまで一代での形成となっている。本人曰く昔に比べ少し成長が早まっているらしいが、周囲からは当然一切わからない。今の姿が少女のように見えるのも神々から得た力だとスゥは答える。ただし、聞かれた場合のみであるが。

 性格は天真爛漫でしたいことをしたいときに振る舞う等、個人の意思とは関係なく自由に重きを置いている。彼女が手にする大きな壺型の武器は、みずがめ座の力を宿すコアが埋め込まれており、自立して浮遊することの他、中に入り移動することもできる優れものである。ある日、この中に入って休んでいるときしし座の皇子であるレオニスが壺を割ってしまう勢いで叩いていると、驚いて出てきたスゥは顔を真っ赤にしながら「この愚か者がっ!」と可愛い見た目とは裏腹に烈火のごとく怒ったことがある。それもどのくらい前の話かと思うと、スゥは自嘲気味に笑った。

 スゥは壺を引き寄せまるで抱き枕のようにぎゅっと抱くと、これから起こるであろう出来事に不安を隠せないでいた。それは封印の隙間からやってくる悪しき存在についてだった。長年、封印は十二星座のコアの力で制御され、その封印を破ってこようものなら皆等しく粉塵と化すのだが今回はそれに異変が起きているとてんびん座の皇子であるカマリから報告があった。これはスゥだけではなく、ほかの皇子たちにも伝達済みとのことなのだが、今まで無事だった封印に綻びができていることにスゥは驚きを隠せないでいた。

「なぜだ……なぜ綻びができたのだ……?」

 これまた可愛らしい見た目からは想像もできない口調で原因を考えるスゥ。もしかしれてあれか、はたまたそれかと考えて見るも決定的な根拠にはならず考えることを断念した。封印が破られればこの世界は文字通り滅びてしまうという事実をこれからどうしていくかに視点を移し考えてみることにした。まずは自分たち十二星座の皇子にしかその存在を滅ぼすことができないという部分については、見つけ次第すぐに排除するという思いでとりかかることに。十二星座の力を以てすればそう簡単にやられることはないだろうと簡易的ではあるが答えを導いた。しかし、ほかの皇子たちについてはどうしたものかと考えを巡らすと、多分自分たちのことでいっぱいいっぱいになるだろうから助太刀は難しいという判断をしたスゥは、やれやれといった様子で立ち上がりお気に入りのお菓子を一口ぱくり。最近、異世界探索にハマっているスゥは各地で珍しい物を見てはこうして購入するという楽しさに目覚め、またそれを自身のストレス発散に活用している。今は黒く細長い棒状のぷるぷるした物を口にし、幸せそうな顔をしているスゥはこのお菓子にどっぷりと浸り異世界に行く度に少し違ったパッケージの物を購入し楽しんでいた。

「……少し話を聞きに行ったほうがいいかもしれんのう」

 もぐもぐと口を動かしながら、スゥは情報の発信元であるてんびん座の皇子カマリの居住へ向かうことにした。まずは情報を仕入れることが大事だと思ったスゥは食べかけのお菓子を大事にしまってから、大きな壺の中に自身を押し込め出発した。


 ふよふよと漂いながらたどり着いた天秤宮。乾いた風が吹き空は薄赤色に染まり、間もなく日が傾こうとしている時間だった。壺から這い出るように出たスゥはまず新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。緑豊かな草木の息吹や季節を感じさせる風の匂いに気分があがったスゥは壺を片手に目の前に見える大きな白い城に「ほう」と感嘆の声を漏らした。今から歩いて行けば暗くなる前には到着できるかもしれない……だが、歩くのは少し距離があり何より面倒だ。

「……さて、どうしたものか……ん?」

 一歩踏み出し先で足元が冷たいと感じたスゥ。視線を落とすと、スゥの目の前には清らかな小川が流れていた。この水量ならもしかしてと思ったスゥはにししと笑いながら小川に向かって軽く手を叩いた。

「アルバリの輝きぞ」

 すると小川はまるで意思を持っているかのように空中に浮いた。スゥが目的地を指さすと小川はまっすぐその方向に向かって伸び、小川のアーチを形成させた。上から滴る雫もなんのその、スゥは今閃いたこの技にふふんと鼻を鳴らしながら胸を張った。

「これは妾にしかできんのでな。では、参ろうぞ」

 青い大きな二枚貝を呼び出し水流の上に乗せ、スゥがちょこんと座ると水の力を利用し大きな二枚貝は進んでいった。ゆっくりと確実に目的地へ向かっている間、スゥは壺の中から別のお菓子を取り出し幸せそうに頬張った。

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