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 負傷者の手当も終わり、シスターたちや子供たちにもようやく安心したのか、すやすやと眠り始めていた。よほど疲れていたのか、子供のひとり時折ぶつぶつと寝言を言いながら眠っていた。そんな眠っている住人達を見たナルアダルアは備品庫から毛布を持ち出し、眠っている住人たちにそっとかけた。見慣れない物体たちの攻撃は今は止んでいるものの、次はいつ攻撃を仕掛けてくるかわからないこの状況の中、自分自身を落ち着かせる事も兼ねて食堂へと向かった。料理をすれば気も紛れるだろうと思い、ナルアダルアは保冷庫を開け材料を手に取り調理を始めた。こんな時、自分も休まないといけないのかもしれないけど、こんな時だからこそまずは自分自身を落ち着かせ、みんなを落ち着かせ安心させてから自身も休みを入れても遅くはないと思いながら、慣れた手つきで野菜を刻んでいく。戸棚から調味料を取り出し、適量ぱらぱらとふりかけてから近所の住人から分けてもらった新鮮なお肉をたっぷり使い、小ぶりではあるがみんなに行き渡るように一つ一つ気持ちを込めて成形させていく。それらをオーブンでじっくりと焼いている間にソースとスープを作り、いつでも持ち運べる準備を進めていると、食堂の扉を叩く音が聞こえた。現れたのはシスターたちで一休みをしたからか、その顔には明るさが戻っていた。

「み、皆さん。どうされたですか?」

「それはこちらの台詞です。水臭いですよ。いくら眠っていたとはいえ、お声いただければすぐにお手伝いしましたのに」

「それはそうと……あら、わたしたちの出番は配膳くらいでしょうか?」

 怒っているような喜んでいるようなそんな感情が入り混じったシスターたちはすぐに状況を把握し、食器棚からあるだけの食器とカップを用意し大聖堂入り口へと運んで行った。そうこうしている間にも、オーブンからタイマーが切れた音が聞こえ、すぐにミトンをつけてからプレートを取り出しそのまま落とさないよう運ぶと、大聖堂の中からすでに目を覚ました子供たちが匂いをかぎつけて歓声をあげた。

「うわあ! おいしそう!」

「やきたてだ! たのしみー!」

「こらこら。お行儀が悪いですよ。さささ、きちんと順番を待ちましょうね」

「「はぁい!」」

 子供たちにナルアダルア特製のハンバーグ、スープを配膳し終えてから住人たちに配膳をしていくときれいに配り終えてしまった。おかわりはできないけど、とりあえず今は少しでもお腹が満たされれば気持ちにゆとりが生まれるから大丈夫だろうとシスターたちも少量ではあるが、確保ができた。

「では、みなさん。大地の恵みに感謝しましょう」

「「いただきます!」」

 みんなお腹が空いていたのか、無言でハンバーグとスープを食べていた。あるものは歓喜し、またあるものは涙を流しながら食べている光景にナルアダルアは何とも言えない気持ちになっていた。こうなってしまったのは、自分が十二星座の皇子だからなのかとかはたまた違う理由があるのかといつもより少し曇った表情をしていると、食べ終わった子供がとことことナルアダルアの前に立ちにこっと笑いながら言った。

「どうしたの? しすたー、こまったことがあったの? そんなときは、いつもわらっていましょうっておしえてくれたの、しすたーだよ! ね、しすたー、わらって?」

 無邪気に笑う子供を見たナルアダルアは胸を締め付けられそうになりながら、できる限り明るく笑って見せた。その顔を見て嬉しかったのか、子供はうんうんと頷きながら子供たちの輪の中へ戻っていった。

(ごめんね。心配かけちゃって……でも、もう大丈夫)

 子供たちの笑顔を見たナルアダルアは何かを決心したのか、小さく息を吐き大聖堂の高い高い天井を仰いだ。この大聖堂で過ごしてどれだけの時間が経過したのだろうか。どれだけの子供たちを見送ってきたのだろう。どれだけ季節が移ろったのだろう。そんなことを考えながら、ナルアダルアは片付けをする傍らシスターの一人に小さく耳打ちをした。

「子供たちをお願いします」

 聞き間違いではないかと確認しようとシスターが止めに入ろうとするも、ナルアダルアはただ笑みを浮かべながら裏口からこっそりと外へと出ていた。その意図を理解したシスターは誰もいない廊下で嗚咽を漏らしていた。


 一人外へ出たナルアダルア。恐ろしいほどに静まり返った見慣れた町は悲しみを覚えるほどに荒れていた。どれもこれもあれのせいなのかもだと思うと、ふつふつと怒りがこみ上げ静かに地を踏みつけた。でも、もうこれで大丈夫。ここで、すべてを終わらせれば済む話。

「ナルアダルア、お相手しましょう」

 覚悟を決めたナルアダルアがそう言うと、どこからともなく見慣れない物体が現れあっという間に周囲を塞いでしまった。不規則に動きながらこちらの様子を伺っているのはなんとも嫌悪感が勝り、さすがのナルアダルアも思わず顔をしかめてしまった。

「本気でいきます」

 静かに闘志を燃え上がられたナルアダルアは、右足のコアに意識を注ぎ込んだ。程なくしてコアが眩い輝きを放つのと同時に地を蹴った。風のように動くその姿をとらえられなかった見慣れない物体はスピードが十分にのった蹴りをまともに受けると爆音と共にきれいな弧を描きながら飛んで行った。それに恐怖というものを知ったのか、見慣れない物体の一部が退散しようとしたときナルアダルアは既にその一部を捉え蹴り飛ばしていた。

「ヤギの脚力からは逃げられませんよ」

 無事に蹴り飛ばしてから他の見慣れない物体に標的を変え、次から次へと蹴り飛ばしていく。その瞳の奥には「ここに住むみんなを守る」という強い思いに満ち満ちていた。その思いが強ければ強いほど、コアも光を増し蹴りの威力が増幅されていく。その思いを前に、見慣れない物体たちはただ蹴り飛ばされていくだけのボールの存在へと変わっていった。

「わたしがやらなきゃ……いいえ。やります!」

 さらに強く思いを込め、コアを一段と輝かせた。徐々に加速していくナルアダルアを目視できるものはおらず、ただひたすらに蹴り飛ばされていく。ただ、相手も蹴り飛ばされるだけではないが数は減るどころか少しずつ増えている。どうやら手数で攻めようとしているのだと感じたナルアダルアは、力の量を調節しながら蹴り飛ばしていった。

「あなたたちの目的はなんであれ、わたしはただあなたたちを倒すだけ。そう……それだけです」

 静かにだが怒りを含ませたその台詞にさらに闘志を燃え上がらせたナルアダルア。ここで一気にけりをつけようと残っている力をすべて解放させた。辺り一帯を包み込まんばかりの白い闇に覆われながら、ナルアダルアは白い闇の中を縦横無尽に駆け抜け、蹴り飛ばしていった。途中、ナルアダルアの攻撃を一寸の差で交し一撃を加えようとするもすべて見切られ反撃をくらったものもいた。

「その隙、無駄にはしません!」

 丁寧に攻撃を見切り、豪快に蹴り飛ばす。蹴り飛ばしたあとも油断せず、構えを解くことなく次の攻撃へと繋いでいく姿はすでに一人の戦士だった。


「はぁ……はぁ……」

 思う力はあっても、スタミナはそれまでは補ってはくれなかった。かれこれ数時間の戦闘の末、数を減らしたはずなのだが終わりを告げることはなかった。

「蹴っても蹴っても……はぁああ……やぁ!!」

 ナルアダルアは手のひらに意識を集中させ、巨大な火球を呼び出し密になっている箇所目掛け投げ飛ばした。大きな破裂音と共に跡形もなく消えていく見慣れない物体に、ようやくほっとしたナルアダルアは蹴りながら火球を作りながらの戦法へと変えていった。ごく僅かではあるがその成果があり、増えることはなくなったがそれでも今度は火球を作る時間をどうやって見繕うかが課題となった。

(このままでは……子供たちが……!)

 やらないと被害が出てしまう。ナルアダルアの気持ちに焦りが出たほんの僅かな隙を、今度は見慣れない物体たちが見逃すことはなかった。その隙を突いた攻撃に気が付いたときには手遅れで、鋭く尖った右腕はナルアダルアの急所を貫いていた。

「あ……ああ……あ……」

 鈍色に染まる空を仰ぎながらナルアダルアは自分から流れている鉄の液体へ倒れると、大聖堂の中にいる子供たち、シスターたち、住人たちに手を伸ばした。

「みんな……ごめんね……。シスター、わたしに代わって……子供たちを……どう……か」


 何かが壊れる音がした。

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