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なんとか子供たちの晩御飯の仕度を終え、ほっと一息ついているとシスターの一人がふと窓の外を見た。すると、なにやら白い光の筋のようなものが夜空を横切りそのまますっと消えていった。なんだろうと疑問に思っていると、その白い光の筋はまたいくつも夜空を横切っていくのをほかのシスターも見ていた。無言で「見た」という合図を送ったシスターたちは食事に夢中になっている子供たちを眺めているナルアダルアにこっそりと耳打ちをした。すると、ナルアダルアは笑顔のまま小さく頷き「あとで様子を見に行きます」というとシスターたちはすぐ片付けができるよう準備を進めた。
「食事が終わったら食器をこっちに持ってきてくださいね。今日は洗い物はわたしたちが行いますので、みんなはゆっくり休んでくださいね」
シスターに促されながら食堂を後にする子供たちをナルアダルアたちは見送り、最後の子供が食堂を出ていくのを確認すると、ナルアダルアは裏口から子供たちには内緒でこっそり抜け出し自慢の脚力を生かし現場へと向かった。風のように駆け、あっという間に現場へ到着するとそこには昼間に見たあの炭のようで炭でない物体がいくつか転がっていた。
「昼より数が増えてる……本当にこれは一体……」
なんでこんなものが降ってきたのか理由がわからないナルアダルアは、大聖堂に戻ろうと炭のようなものに背を向けたときだった。小さなガラスが割れるような音がナルアダルアの耳にすり足で入ってきた。すぐに振り返り様子を伺っていると、炭のようなものは小さくかたかたと動き次第に夜空と同じ、いや夜空よりも深く冥いぐにゃりとした物体へと変化した。
「な……なんですかこれは……」
そういえば、先日カマリからの手紙に封印について書かれていたのを思い出した。なんでも、封印を守る力が弱くなりつつあるとのことで、このままでは封印を御することができなくなってしまうと。そして、その存在はこの世のものではないという表記も加わっていたで、今目の前にいるのが封印を破ろうとしている存在なのかもと思った。
「そ……そんな……」
十二星座の力で御している封印が破られたらなんて誰が想像しただろう。いや、現にこうして見慣れない物体が目の前に出現しているのが答えなのだろうと思ったナルアダルアはまずは気持ちを落ち着かせ、意識を集中させた。高まった意識を今度は自分の脚部へと集中させると、コップとコップを軽く打ち付けたかのような音が鳴った。やがてナルアダルアが守護する星座─やぎ座のコアがくっきりと浮かぶと、ナルアダルアはシスターの顔から十二星座の皇子の顔へと変えた。
「子供たちを守るため、戦います!」
先手必勝とばかりに狙いをつけたナルアダルアは脚力を生かしたスピードで迫り、そのスピードを殺さないまま風をも切り裂く刃物のような蹴りをお見舞いした。脚力と勢いを十分にのせた蹴りは見慣れない物体へと叩き込まれると、何度も地面をバウンドしながら転がっていった。蹴ったときの感触は確かにあったことに妙な安心感を得たナルアダルアは、さらに加速しながらさっきよりも強烈な蹴りを叩き込むとピクリとも動かなくなった。これで一体倒せたという安心感にほんの少しだけ心が緩んでしまったのか、ナルアダルアはの背後から見慣れない物体がいくつか襲ってきた。すぐにはっとし、振り向き様に蹴るとどこか遠くへと消えていった。
「そんな動きは……っ!」
すぐに体制を整え、襲い来る見慣れない物体を次から次へと蹴り飛ばしていく。一体蹴る度に耳を打つ破裂音のような音と共に衝撃波が発生し一瞬だけその部分を歪ませた。徐々にナルアダルアの蹴るスピードが増していき、どんどんと数を減らしている……はずなのだが一行に見慣れない物体たちは減る様子が見えなかった。むしろ増えているようにも感じた。
(なんで……なんで減らないの?)
段々と心に焦りの色が見えたナルアダルア。そんなときに見てしまった最悪の光景に、ナルアダルアの気持ちをさらに焦らせた。白い光の筋が大聖堂の方にも降り注いでいる光景を見てしまったナルアダルアは目を見開き、声を出した。
「そんなっ!!」
大聖堂には子供たちとシスターがいる。そして何もよりも大切なこの地で暮らす人たちがいるのに。ナルアダルアは荒ぶる呼吸のまま、ここにいる見慣れない物体をすべて蹴り飛ばすとすぐに大聖堂へと向かって地を蹴った。
「みんな……無事でいて……!」
最高出力で大聖堂に向かうナルアダルアは、風そのものだった。
大聖堂へ戻るとそこは惨状と化していた。あちこちでは火災が発生し、シスターたちが心を込めて手入れをしてくれた花壇はその火災で燃やされ踏みにじられ、住人たちの思い出が詰まった家屋は無残にも崩れていた。その原因となっているのは、さっきナルアダルアが対峙をしていた見慣れない物体だった。見慣れない物体がこの地に暮らす環境を無差別に破壊していた。倒れている人、逃げる人、隠れている人が中、その辺にあった武器で反撃をする住人もいたが、見慣れない物体からの攻撃を受け虚しく地面に倒れていった。
「大丈夫ですか!」
たまたまその瞬間を目撃していたナルアダルアはすぐに駆け付け、介抱すると住人は目に涙を浮かべながら「あぁ……最後に聖女様を見れて……幸せ……す」といいながら息を引き取った。住人をゆっくり下ろし、人影のない場所へと移すとナルアダルアは直ぐに意識をコアに向け最初からフルスロットルで突っ込むことを決めた。ナルアダルアの思いがコアに注ぎ込まれると、それに呼応するかのようにコアが眩い光を放つとナルアダルアは目を見開き目に映る見慣れない物体を次々と排除していった。そして排除しつつ負傷した住人を介抱しすぐに大聖堂へ向かうよう指示をし、再び排除へと向かった。
あちこち燃える中、一通り救助と排除を終えたナルアダルアは今度は消火活動を手早く済ませると今度こそ自分も大聖堂の中へと入った。広い聖堂中ではすべての長椅子をベッド代わりにし既にシスターたちが負傷した人たちを救護していた。住人たちは誰もみなどういった状況なのかがわかっていないという中、シスターたちの顔には焦りのようすは一切なくただ真っすぐに「助けたい」という思いだけが映っていた。それは、「かもしれない」という未確定な情報を共有していた分だけでも頭に入っていたからなのか、それとも元々シスターたちが今することをきちんとわかっているからなのかはわからない。ただ、今はそんなことよりも負傷者の手当が先決だと判断したナルアダルアは大聖堂の入り口を厳重に施錠し、救護バッグを片手に負傷者の手当に向かった。
「もう大丈夫ですよ。安心してくださいね」
その笑顔は十二星座の皇子からシスターへと変わった。




