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 食後のデザートもきれいに食べ終わり、後片付けをしていると日が落ちた空に一瞬白く光る何かが見えた。それはあまりにも眩しく発光し、思わず目を覆ってしまうほどだった。全員がその眩しい光を目撃し、ゆっくりと目を開けるとそこにはもうあの白い光は消えてなくなっていた。一体なんだったのだろうと子供たちは何度も窓の外を眺めていたが、そこに映っているのは夜空に瞬く数多の星々だけだった。

「まぶしかったねー」

「びっくりしたねー」

「おさらおとすところだったよー」

 幸い誰にも被害がなかったことにナルアダルアとほかのシスターたちは安堵の息を漏らし、きれいに洗い終わった食器を棚へと戻していく。明日の朝食の準備も簡単に済ませ、子供たちを寝室へ向かわせながらナルアダルアとシスターたちはさっきの光についてどう思うか小声で話し合った。

「特に問題はないと思いますが……あのような光は初めてでございます」

「しかも夜だというのに真昼のような明るさでしたね。何かの前触れでなければいいのですが……」

「明日、少し調べてみても良さそうですね」

「ええ。子供たちはお任せしてもいいでしょうか?」

「それは構いませんが……ナルアダルア様、おひとりで大丈夫ですか?」

「ええ。大丈夫だと思います。それに、いざとなれば、この力を解放します」

 そう言いながらナルアダルアは、両脚部に装着された記号のような文字が埋め込まれたグリーヴを指さした。やぎ座の皇子として避けられない戦いが発生した際、ナルアダルアは大切な人たちを守るため華麗な足技で脅威となるものを屠ってきている。その足技はどれも早く重く、動きを見てから避けようものなら全てが遅いくらいだと言われている。なので、相当な熟練者でない限りナルアダルアの足技をかわす者はごく僅かである。大切な者たちを守りたいという強い思いがナルアダルアをより早く、より強くしていると言っても過言ではないくらい、ナルアダルアにとって子供たちやシスターたちはもちろん、この土地に住んでいるすべての人たちを守るという大きな使命と十二星座の使命が重なっているこの状況こそ、ナルアダルアは常に最高の力を発揮することができるのである。普段はシスターとして、そしてあるときは十二星座の皇子として振る舞う彼女はが一目置かれているのはそれが理由なのかもしれない。

 寝室へ到着し、子供たちを寝かしつけたナルアダルアとシスターたちは子供たちを起こさないよう静かに扉を閉めお互いに挨拶をしながら各々の宿舎へと戻っていった。

「……気になりますね。あの光」

 自分の宿舎へ向かう途中、ナルアダルアは思わず呟いた。


 翌朝。眩しくも気持ちの良い朝を迎え、ナルアダルナは誰よりも早く起床し身支度を整え子供たちを起こしに寝室へと向かった。

「みなさーーん。おはようございます。気持ちの良い朝ですよー」

 爽やかな声と共にカーテンを開けると、思わずくらりとしてしまいそうな朝日を浴びた子供たちは小さく「うっ」と声を漏らしながらちくちくと瞼に刺さる朝日に耐え切れず布団に潜ってしまった。

「こーら。潜らないの」

「だってぇ、まぶしいんだもん」

 皆布団の中へと潜ってしまい、起きる気配がないと感じたナルアダルアはとっておきの切り札を用意した。

「今日の朝食は、みんなの大好きなミートボールグラタンですよー」

 そういうと、子供たちは布団をがばりと跳ね除けてきぱきと着替え始めた。まるで競争しているかのように廊下をぱたぱたと走る子供たちに気を配りながらナルアダルアはみんなを食堂へと向かわせた。

「いいにおいがするー」

「こっちだー」

 食堂から漂ういい匂いを手繰りながら子供たちは次々と食堂の中へと入っていった。中では既にシスターたちができたてアツアツのミートボールグラタンを用意して待っていた。ごろごろとした大きなミートボールの上にとろとろに溶けたチーズが覆いかぶさっており、それだけで子供たちの食欲を刺激していた。大きな器に作られたミートボールグラタンをきれいに切り分け、仕上げに少量の黒コショウをふりかけ子供たちの前へと配膳していく。配膳された子供たちは「はやくはやく!」と言わんばかりに大好物のミートボールグラタンを凝視していた。最後の子供にミートボールグラタンが行き渡ると、シスターは「食事の前のお祈りを忘れてはいけませんよ」と、子供たちに食に対して感謝の心を忘れないよう少し強めに言った。子供たちは「はぁい」と言いながら両手を合わせお祈りを始めた。全員がお祈りをしているのを確認したシスターはさっきとは別の優しい声色で「どうぞ召し上がれ」というと、子供たちはぱっと目を開いて大きな「いただきます!」と挨拶をしてから大好きなミートボールグラタンを頬張った。

 少し遅れてナルアダルアが食堂に到着し簡単な食事を摂った後、昨日のあの発光について調べてみることにした。最後にお水を一口含んでからシスターたちに一言「子供たちをお願いします」と言いながら足早に現地へと向かった。


「確かこの辺りの筈なのですが……」

 記憶を頼りに発光した場所を探すナルアダルア。広大な大地の中からあの発光箇所を探しだすのは少し無茶だったかなと思ったナルアダルアは、ふうと溜息を吐きながら空を仰いだ。小鳥たちは楽しそうに空を泳ぎ、雲は流れに逆らうことなく優雅に漂っている。まるで不安な気持ちいっぱいのナルアダルアを嘲笑うかのようなあまりにものんびりとした時に、ナルアダルアはふっと頬を緩めた。

「そうね、焦っても仕方ないわ。じっくりとゆっくり手がかりを探していきましょ」

 のんびりとした時間に助けられたナルアダルアは自分に気合を入れなおし、調査を再開した。心なしか先程よりも足取りは軽くなっていて、気持ちもどこか余裕が生まれて鼻歌を歌いながら調査を進めた。

 調査をして数時間。昨日の発光と何か関係があるのではないかと思われる個所を見つけた。それはあまりにも小さく注意深く見てみないとわからない位に小さな小さな異変だった。

「……これ、かしら」

 ナルアダルアは小さな小さな異変の前で屈んでみた。それはまるで黒炭のような物だった。しかし、この辺りに住んでいる住人から黒炭が取れるといった情報がなかったのを覚えていたナルアダルアは不思議に思い、その黒炭のような物に触れてみた。黒炭にしては少し重量感があるものの、特に危険な物のようではないけど……なぜだろう。何か異質な気配を放っているそれは、ナルアダルアの警戒心をちくちくと刺激していた。そっと黒炭のような物を戻しこのことをシスターたちにも共有できるよう、簡単にメモを取った。

「場所はわかったけど……なんでこんな黒い物があんな風に光ったのかがまだわからないわ……。うーん」

 見つけることはできたものの、謎は深まるばかりだった。一人で考えても答えが出るまでに相当な時間を要すかもしれないと思い、この物体についての考察は後回しにし物を見つけたことだけでも大きな一歩を踏み出せたかなと小さく呟き、ナルアダルアは帰路へと就いた。


 朝に出発して大聖堂に戻ってきたのは日が傾きかけた頃だった。ほぼ一日調査をしていたというのに、原因がわからないなんて言ったらシスターたちに笑われるだろうかと心配になりながら大聖堂の裏口を潜ると、そこにはシスターたちが飲み物を片手に談笑をしていた。

「あら、ナルアダルア様。おかえりなさいませ。今、飲み物をご用意しますね」

「どうでした? 何かありましたか?」

「え、ええ。一応、あったことはあったのですが……その……」

 なんとも歯切れの悪い言葉に何か何かとシスターは首を傾げていると、ナルアダルアはポケットからメモを取り出し調査の結果をみんなに共有した。そこには見たまんまをスケッチした黒炭のような物体と、ナルアダルアが感じたことが事細かに書かれていた。

「これが……昨日の発光の原因物……ですか?」

「そうなんです。これがそうなのか、確証はないですけど……それなのかなという段階ですね」

「黒炭のような物と書かれてますが……実際に黒炭ではなかったのですか?」

 シスターの一人がナルアダルアに質問をすると、あの近辺では黒炭が取れないことを説明するとシスターたちは大きなうなり声をあげた。

「黒炭のようで黒炭でない……ううむ。謎ですねぇ」

「しかし、情報が全くないという状態ではなくなったと思います。ナルアダルア様、本当にお疲れ様でした」

 シスターから飲み物を受け取り、一口含んだ。冷たいレモンティーの甘味と、ほんのちょっぴりレモンの酸味が疲れたナルアダルアの体だけでなく、緊張感でいっぱいだった気持ちまで優しく解いていく。少し遅れてシスターたちの得意なお菓子─エッグタルトが運ばれた。ナルアダルアはこのエッグタルトが大好きで、特に疲れたときにこれが運ばれた時にはまるで子供のようにはしゃいで喜んでいた。

「子供たちには内緒ですよ? うふふ」

「シスター……ありがとうございます。いただきます」

 卵とミルク、そしてチーズの優しい甘さにとろけたナルアダルアは、無言でエッグタルトを完食した。今日のエッグタルトは、今まで食べたエッグタルトの中で一番心に沁みたような気がしたナルアダルアはできうる限り最大の感謝のお祈り、そして「ごちそうさま」と挨拶をしてから、さっきの黒炭のような物についてもう少しだけシスターたちと話し合うことにした。議論は子供たちの夕食の支度ぎりぎりまで及んだ。

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