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心地よい青空の下、清らかな歌声が聞こえてくる。その歌声は白を基調とした大きな聖堂の中から響いていた。スズランの咲き誇る花壇を通り抜け、レンガが敷き詰められた歩道の案内通りに歩を進ませれば、天井に近い面に大きなステンドグラスが張り付けられた正門が誰でも分け隔てなく歓迎してくれる。チョコレート色の扉をゆっくりと開くと、目の前には赤い絨毯が敷かれていた。絨毯の先には同じ服を身に着けた小修道児たちが大きな口を開けて清らかな歌を歌っていた。そしてその絨毯を境に左側と右側には扉と同じ色をした長椅子が用意されていた。幅もきちんと整えられて置かれた椅子には何人かが小さな冊子を手に気持ちよく聖歌を歌っていた。パイプオルガンの荘厳な旋律となんとも神聖なその歌声は見事に混ざり合い、沈んでしまった気持ちをきれいにしてくれそうなそんな音色だった。
荘厳な旋律を奏でているのは、明るい栗色のロングヘアーを三つ編みにし、頭部には表面はダークグリーン、裏面は若草色のウィンプルを金色のティアラで押さえるように着けていた。そしてそのウィンプルの端からはややうねりのある角が顔を出していた。そしてその角のすぐ下にはパーン族の特徴的な耳がぺろりと垂れていた。ダークグリーンのシスター服と同じ色の脚部にはシスターらしからぬ物々しさを感じるブーツの上部には何やら記号のようなものが埋め込まれた丸い物体が淡い光を放っていた。
シスター─ナルアダルアは曲の終わりを告げるかのようにロングトーンを鳴らすと、一瞬の静寂の次の瞬間、大きな拍手の雨を浴びた。
「今日も素敵な演奏、ありがとう!」
「相変わらずお上手ね。今度、習ってみようかしら」
参加していた人たちが口々に感想を述べる中、演奏席から立ちあがったナルアダルアは小さく頭を下げてから、今回参加してくれた人たちに感謝の言葉を述べた。参加者は少し恥ずかしそうに顔を赤らめるナルアダルアに大きな拍手を送ると、指揮を執っていたシスターが修道児を退出させた。修道児はみんな満面の笑顔で参加者に大きくを手を振りながら退出していくと、数分後にはもの悲しさを感じる程の静寂がやってきた。それを合図とばかりに、参加者たちは次々と出口へと向かい各々の家へと帰っていった。ナルアダルアは最後の参加者が見えなくなるまで見送ると、扉をゆっくりと閉め内側から施錠をし簡単に聖堂内の掃除をしてから子供たちが待っているであろう居住区へと向かった。
ナルアダルアは十二星座のやぎ座のコアを継承した家計の末裔である。代々領土を治める統治者の血筋に生まれた彼女は現当主を務める一方、多くの孤児と寝食を共にするシスターとしての一面を持つ。幼少期から驕ることなく真っ直ぐに育った彼女は、一人でも多くの人々を救済するべく奔走する姿じゃら時に聖女と称される。そんな彼女に仕える者も非常に優秀で、多くのことに身を投じなければいけない彼女を強く支えている。
今日の集会がうまくいったことを胸を撫でおろしながら廊下を歩くナルアダルア。実は今回演奏した曲は難易度の高い曲で、それをうまく弾けるか集会が始まる直前まで心配をしていたのだが、子供たちが「たのしみだね」と言いながら並んでいる姿を見たらなんだか弾けるような気がしたナルアダルアは緊張感と高揚感をうまくつなぎ合わせ自分でも満足のいく演奏だったと思っていた。
「実は……わたしが助けられているのかもしれませんね」
ぽつりと呟きながら居住区の扉を開くと、満面の笑顔で溢れた子供たちがナルアダルアを迎えた。
「しすたー! おそいー!」
「えんそうかい、おつかれさまー!」
「ごはんのじゅんび、できてるよ! はやくたべよう!」
みんなナルアダルアの周りに集まり、早く早くとせがんだ。一人ずつなだめながらナルアダルアは自分の席に着き、子供たちからの配膳を笑顔で受け取った。今日はミルクたっぷりのクリームシチューと自家製ライ麦パンと、子供たちが頑張ってこねたハンバーグだった。形はどれも違っているのだが、それがまたこの子たちの個性を表しているのかと思うと、ナルアダルアは思わずくすっと笑ってしまった。
「さぁ、みんな待たせてしまってごめんなさいね。今日の歌声、みぃんな素敵だったわ。一等賞をあげないとね。美味しいごはんでみんなの一等賞をお祝いしましょう! では、みんな手を合わせて」
「「いただきます!!」」
待ってましたとばかりに子供たちはクリームシチューを頬張った。よほどお腹が空いていたのか、多くの子供たちは口の周りにシチューがついていても気にする様子もなく、夢中になって食べていた。あまりの勢いにびっくりしたシスターの何人かが注意をしようとするのを、ナルアダルアは静かにそれを制した。今日の一等賞は子供たちだもの。今日はほんの少しお行儀が悪くても、きっと許してくれるでしょうと思いながらナルアダルアはライ麦パンをちぎって口に運んだ。ライ麦本来の香ばしさが口いっぱいに広がり、かりかりに焼けた表面がなんとも言えない美味しさを強調させていた。続いて子供たちがこねたハンバーグに手を付けると、「それはぼくがこねたんだよ!」とか、「それはあたしがこねたんだよ」と言い合いが始まった。きちんとした円形だったりずっしりとした重みのあるものまで様々なハンバーグはどれもナルアダルアにとってはどれもかけがえのない嗜好の一品だった。
「もう。そんなにむきにならないでも大丈夫よ。みんな頑張って作ったのはすごく伝わるから……ね?」
ナルアダルアがウインクをすると、子どもたちは恥ずかしそうに顔を反らし口をつぐんだ。その様子にほかのシスターも思わずくすくすと笑うと、自分たちの食事の準備を始めた。少し遅れて全員での食事は温かく、終始和やかな雰囲気だった。




