2
翌朝。なんだか寝付けなかったシャウラはいつもより早く起きて身支度を済ませ、学園に向かった。こんなときは体を動かせばきっとなんとかなると思ったシャウラは教室にカバンを置いてすぐ、校門近くにあるバスケットボールコートへと走った。シャウラと同じ考えを持っている人が多いのかは不明だが、今日は珍しくほかにもバスケットボールで遊んでいる生徒が何人かいたため、チーム編成には困らなさそうだった。シャウラは軽く体を解してからボールを手に取りウォーミングアップを始めた。軽やかなステップに惑わされた男子生徒はあっけなく抜かれ、ポイントを許してしまった。
「さすがだなぁ。守り切れないや」
「うふふ。でも、次はわからないわよ?」
「よーし、負けないぞ」
ほかのクラスの人だからか、なんとなく気を追うことなく話すことができたシャウラはにこにこ笑いながら華麗なステップで男子生徒をひょいと抜くと、華麗なゴールを見せた。
「よーし、アップはこんなものね。せっかくだし、ちょっとしたミニゲームしない?」
「そうだな。チーム編成は……適当でいいかな?」
「もちろん! お任せしていいかな?」
男子生徒にチーム編成をお願いしている間、シャウラはふと空を仰いだ。とっても気持ちの良い青空なのだが、心なしかちょっとした胸騒ぎを覚えたシャウラは小さく「……まさかね」と呟いた。男子生徒の編成ができたという声にはっとし、すぐに意識を切り替えるときれいに三対三の編成ができあがっていた。
「先に五ポイント先取したチームの勝ち! シンプルでいいっしょ?」
「ポイント決めたら攻守入れ替え制?」
「そうだね。そうしようか」
「オッケー。そんじゃ、はじめましょ!」
シャウラはポケットに入っていたコインを上空に放り、両手でキャッチ。表か裏を尋ね手を開くと、自分たちのチームは後攻だった。これで準備が整い、各自が配置につくと男子生徒の合図とともにゲームが始まった。
「よっしゃ! いくぞー!」
元気のいい男子生徒がドリブルをしながら突っ込んできた。それにシャウラは真正面から止めに入ると互いにじりじりと距離を取りながら沈黙の攻防戦が繰り広げられていた。先に動いたのはシャウラだった。相手の目を見たままボールをカッティングすることに成功すると、すぐさまボールを奪いシュートを決めた。ボールは迷うことなく籠に吸い込まれ、先手を取った。
「おおー! 鮮やかだ!」
「まだまだ! ここからだ!」
再び相手チームから始まり、激しい攻防戦が始まった。今度は自分たちのチームの男子生徒がカッティングに成功し、シャウラにボールをパスしようとしたとき思いのほか力が入ってしまったのかコート外に出てしまった。
「あーもう、どこ投げてるのよ! すいませーん! ボールとってくれませんかー?」
ぽんぽんと音を立てながら転がるボールを追いかけるシャウラ。その先には同じ十二星座の皇子であるシェラハとアマテルが立っていた。転がっているボールをアマテルが拾い、シャウラに目掛け投げるとシャウラは目で挨拶をし、コートへと戻っていった。
「もう。他の生徒さんにぶつかったらどうするのよ! 次はもっとしっかりプレーしてちょうだい!」
「すまない。力みすぎた……」
「はいはい。じゃあ、次、行ってみよう」
ゲームを再開し、両チームはぎりぎりの攻防戦が楽しくなりポイント制など気にせずホームルームが始まる予鈴がなるまでゲームを楽しんだ。
心地よい汗をかいたシャウラはポケットからハンカチを取り出し、汗を拭いながら教室へ戻ると次々と教室へ入る生徒から声をかけられた。
「シャウラー! おーはよー!」
「お、今日もかわいいね」
「シャウラー、おっはよー!」
みんなの挨拶を笑顔で応えながら教室へ入り、着席をするとそこはいつもの学園風景が流れていた。昨日の宿題やっただとか、流行りの本がどうとか、コンサートのチケットがどうとか。どれもこれもが当たり前の会話がシャウラの目の前で繰り広げられていて、思わず小さく笑ってしまった。
(そうだよ。これこそが……青春だよ!)
笑ってしゃべって恋をして。甘酸っぱい経験をたくさん重ねて大人になっていくんだと思っていると、シャウラはふと思考が止まった。
大人になっていく……?
果たして今の自分は大人になれるのだろうか。友達に話したらきっと笑われるだろう下らない質問なのかもしれないが、シャウラは突然不安になった。
(……あぁもう、本当に壊してしまいたい)
皇子であることを誰にも話してはいけないという掟がある以上、大きな声で封印について話せないことにもやもやを感じながらシャウラは無理やり気持ちを落ち着かせた。すべて収まったとまではいかないが、さっきよりもだいぶ気持ちが落ち着いたことに気が付いたシャウラはカバンから教科書とルーズリーフを取り出しペンケースを広げた。今日は少し苦手な数学が一限目にあることもあり、ほんのちょっぴりブルーな気持ちになりながらも授業に集中しようと自分に軽く気合を入れたとき、ちょうどよく始業チャイムが鳴り担当の先生が入ってきた。
「起立!」
「礼!」
「「おねがいします!」」
「はい。おはようさん。では、出席を取ります。呼ばれたら返事をしてくださいね」
こうして何気ない青春の時間は待つことなく流れていった。
こうして次から次へと授業は進んでいき、ようやく昼休みの時間になった。さすがに集中力も限界になってきたシャウラは椅子の背もたれに寄りかかりながらうんと大きく伸びをした。体中に固まっていた緊張感がするっと流れていくような感覚を感じてからシャウラは学食へ向かった。
「シャウラー。おつかれー。学食行く?」
「あ、おつかれー。うん、今から行こうとしてたよ」
「あ、じゃあ、一緒に行こう。今日、新しいデザートが出る日なんだって」
「え? そうなの? 知らなかった。聞けて良かった」
「でしょでしょ? んじゃ、争奪戦になる前にれっつごー!」
クラスメイトに腕を引かれながら辿り着いた学食には、既にたくさんの生徒たちで賑わっていた。入口できょろきょろと空いている席がないか探していると、奥の方ではあるが空席があるのを見つけたシャウラは今度は自分がクラスメイトを引っ張っていった。視点を動かさず真っすぐに進んでいくと、クラスメイトも空いていることに気が付き、途中からシャウラの引っ張りなしでも行くことができた。ちょうど人数分の席が空いていてまずは第一関門「席探し」をクリアした。それからはバフェテリア形式で好きなものをトレーへと乗せていき、最後に新商品のデザートをしっかりトレーに確保した二人は満面の笑顔のまま席へと戻った。
「あー、新商品はぎりぎりだったねぇ。間に合ってよかった」
「ね。もう少し席を取るのが遅かったらアウトだったね」
アイスティーを一口含みながらシャウラ。生ハムとクリームチーズのホットサンドにかぶりついた。適度な塩気にコク深いクリームチーズが見事にマッチし、一瞬にしてシャウラの顔をとろけさせた。朝にバスケットボールをしていたせいものあり、より一層美味しく感じていた。
「すっごいいい顔してんじゃんシャウラ。そういえば、朝にバスケしてたよね。珍しい」
「あ、うん。なんか昨日寝付けなくってさ。せっかくだし早起きしちゃったんだ」
「へぇ。何か悩みとかあったの?」
何気ない一言がシャウラの胸をぐさりと刺した。まさかどこかで聞いていたのかと思うほどのピンポイントを突いた言葉に、シャウラは思わずむせ返った。慌ててアイスティーで流し込み落ち着きを取り戻すと慌てて首を横に振った。
「ううん。違う違う。昨日、妙に暑かったじゃん? だからかもね」
残っていたホットサンドイッチも慌てて完食し、新商品のデザートも味わうことなくさらさらと食べ終え逃げるように学食を出ていく姿をクラスメイトは頭に疑問符を浮かべながら見ていた。
「……昨日、逆に寒かったくらいだったけどなぁ……」




