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互いに何度顔を見合わせただろう。
互いに何度庇い合っただろう。
互いに何度背を預けただろう。
互いに何度馬鹿言いあっただろう。
互いに何度……。
もう数えることも億劫なほどたくさんの「互い」を経験したレオニスとスピカはその場の空気だけで互いが何を欲しているかをすぐさま察知し、互いに連携しあう。レオニスが補助を欲していると察すればすかさずスピカが補助し、スピカが詠唱したいと察すればレオニスがすかさず時間を稼ぐ。こうして互いを知り尽くしているからこその連携が成り立ち、見たことのない異形にも立ち向かうことができている。次第に数が減ってきていると感じたレオニスは、表情を崩さず小さく笑みを浮かべながら目の前の敵に拳を穿っていく。
「なんか嬉しそうだね」
「気のせいだ」
軽口を叩きながらスピカは新しいロリポップをポケットから取り出し、口へと運んだ。甘酸っぱい味が口いっぱいに広がり幸せそうな顔を浮かべていると、その横から黒い影のような物体が隙をついて現れた。
「油断しすぎだろ」
「えー、だって、レオニスがいるし大丈夫かなって思ってたんだ♪」
「ああそうかよ」
投げやりに言葉を発したレオニスは意識を集中させ、手のひらを上に向けた。するとそこから淡い光が生まれゆらゆらと揺れながら何かを集めているように小さな光がそこへと集まっていく。その光は影のような物体から生まれ、淡い光へと吸い込まれて行っていくのが見えた。そしてその光が消えると、影のような物体は音もなく消えていった。レオニスは様々な戦い方を習得しており、そのうちの一つ「レクス」を開放していた。その時々によって変わるこの戦法は対人はもちろん、こういった魔物のようなものにも対応が可能となっている。これも魔人と星座の力なのかもしれないと隣で見ていたスピカは嬉しいのか声に出して笑いながら杖を構えなおした。
「さぁて、ボクももう少し頑張っちゃおうかな♪ そーれっ!」
スピカが杖を回すとハート型の膜が更に分厚くなり、あちらこちらに同じように新しい分厚いハートの膜が生まれていった。やがて生まれたハートは花びらのように集まるとくるくると上空で回り、ピンク色に光った。その後、まるでハートが雨のように降り注ぎ、影のような物体を次々と貫いていった。一体たりとも逃がさないというスピカの思いが具現化したそれは、止むことのないピンク色の雨を降らし続けていった。そんな中、致命傷を免れた影のような物体はなんとかその雨の隙間を縫って徹底しようとしたのだが、それをスピカが見逃すわけがなかった。ロリポップを口の中でころころと転がしながら杖を構えると、ピンク色の雨は移動し影のような物体を容赦なく貫いた。
「逃がさないよ! えへへぇ、嬉しいでしょ?」
音もなく霧散していった影のような物体に別れの言葉をプレゼントしたスピカは嬉しそうにウインクをしながら、更にピンク色の雨の量を増やしていった。それはまるで世界を「カワイイ」で包み込むかのようだった。
「最後はボクが飾ってあげる!」
とどめとばかりにウインクを決めると、辺り一帯に蠢いていた影のような物体は一瞬で消えてなくなっていた。残っているのは枯れ果てて荒れに荒れた無骨な大地だけだった。お掃除が終わってすっきりしたのか、スピカはえっへんと胸を張りながら両手でハートマークを作りながらレオニスに言葉を投げかけた。
「ボクはボクの好きに囲まれていつまでもきらきら輝いていたいなー」
いつものスピカだと思いながらその様子を見ていたレオニスの目が一瞬、見開かれた。全部片付けたと思い込んでいるスピカの背後に鋭く入り込む影のような物体。レオニスは反射的に地を蹴り、スピカに体当たりした。体当たりを受けたスピカは吹っ飛び、代わりにレオニスは影のような物体からの重い一撃を受けた。
「ぐぅう……っ!!」
「れ、レオニス!!!」
影のような物体の一撃は思いのほかレオニスの肩を抉っており、レオニスは苦痛でその場から動くことができなかった。地にうつ伏せで藻掻いているレオニスを見たスピカは悲しさ以上に怒りを爆発させ、レオニスに問い詰めた。
「な……なんでレオニス! ねぇ、バカなの? バカでしょ?! ねぇ、バカなんでしょ?」
「……っせぇ……くるぞ……」
レオニスの絞りだした声にはっとしたスピカは杖を振りかざした。スピカの気持ちが杖に埋め込まれたコアに反応し、星座の力が再び目を覚ました。杖から眩い光が生まれ、レオニスの肩を抉った黒い影のような物体は霧散していった。今度こそ危機は去ったと思ったスピカは急いでレオニスの手当をしようと杖に気持ちを込めた。杖から発せられた淡いピンク色の光はレオニスの肩をゆっくりと塞いでいる一方、スピカは一歩も動くことができない。この魔法は術者が動けない代わりに対象者の傷を確実に癒すというもの。今のこの状況の中で使うことは危険を意味しているのだが、そんなことはスピカにはどうでもよかった。ただ、レオニスの傷を癒したい、レオニスを助けたいというスピカのやりたいことを優先した。
「レオニス……大丈夫だよ。ボクが必ず治してみせるから……待っててね」
「……ばか……おま……え……しろ……」
「え? なに? もうちょっとだから待って……」
ズッ
「え……?」
何かがスピカに衝撃を与えた。前へつんのめるようにスピカはお腹あたりが妙に温かいと思い、視線を落とすとそこには鋭く尖った真っ黒い物体が見えていた。ゆっくりと後ろを見ると、もういないと思っていた影のような物体がスピカの背後から右腕でスピカを貫いていた。ようやく事態を理解したスピカは口からロリポップを落とし、レオニスの上に重なるように倒れると目に涙を浮かべていた。
「ごめんね……オニス」
「……」
「レオニス……手のかかる大きなボクの大好きな……こど……オニ……ス」
大好きな人の名前を口にしたスピカは静かに目を閉じると、次第に広がる冷たい感覚に意識を捕らわれていった。
何かが壊れた音が聞こえた。




