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店や家に明かりが灯る頃、辺りは段々と夜の気配を連れてきていた。やがて暖色に包まれた町からは昼とはまた違う活気溢れる声で賑わっていた。商品の売れ行きを気にする声や、世間話で盛り上がる声、仲間たちとの食事を楽しむ声など様々だった。
そんな賑わう声の中を一人の女性が微笑みを浮かべながら歩いていた。黒檀のような短めな髪は毛先へ向かうほど夕日のように燃える赤色をしていて、頭頂部では黒髪をお団子にまとめそれをキセル型の簪できれいに留めていた。やや濃いめの桜色をしたグラスからのぞく刀のような鋭い視線、ぴんと尖った長い耳、口元には真っ赤に燃えるような赤色の紅を引き、肩には黒地に金色の刺繍が施された上着をかけ、腰には自分の身長と同じかそれ以上に長い二対の得物を提げていた。鍔の部分には色鮮やかな水色をした宝石のようなものが埋め込まれていた。深い紫色のタイトなパンツに黒色の低いヒールを静かに鳴らしながら歩く女性─真紅は今日も平和な町を見て小さく頷きながら巡回をしていた。
「平和が一番じゃけぇ」
小さくそう言いながら商店街、居住区街とを見回し何もないことを確認した真紅は町から少し離れた場所にある大きな屋敷へと向かって歩き始めた。やがて見えてきたのはヒノキでできた巨大な門構えだった。まるで中へ入る人を選んでいるかのようなその門構えは何とも言えない威圧感を覚える。真紅はその門構えの脇にある小さな勝手口から中へ入ると、石畳の両脇に黒い礼服のようなものをぴしりと着こなした体躯のいい男たちが列をなしていた。
「お頭! おかえりなさいませ」
「……いつもいらん言うておろう」
寸分の狂いもないきれいなお辞儀に真紅はやれやれといった様子で小さくぼやいた。少し外出するだけでこの出迎えはなんとも重苦しいと言っているのだが、それでも出迎えは辞めないこの男に辟易しているのだが、それでも真紅はこの男たちを家族として迎えている。家族であり、組織の一員であるこの男たちを。
玄関を抜け、大広間へと着いた真紅は用意されたふかふかの座布団にどっかと腰を下ろすと、男たちは遅れて座り真紅に向かって深く頭を下げた。顔を上げ一同の顔を見回した真紅は座ったまま声を張った。
「お勤めごくろうさん。今日もなにもなかったんは、あんたらの働きがあったからや。感謝しとるけぇ」
真紅の言葉ひとつひとつが体にぶつかるとびりびりと痺れるような感覚に、男たちは耐えながらただじっと耳を傾けていた。
「じゃけえ、今日もしっかり食って明日に備えておくんじゃ。いいな?」
「「おう!」」
「うん。いい返事じゃ。うちは荷物置いてくるけぇ、準備できたもんから食堂へ行くんじゃ」
一同、真紅に礼をしてから足並み揃えて食堂へ向かって歩いて行った。静まりかえった大広間に一人になった真紅は男たちが向かった方向とは逆に向かって歩き出した。枯山水の庭を通り過ぎ、彼岸花が描かれた襖を開けるとそこは真紅の部屋だった。最低限の物しか置いておらず部屋の中はとてもさっぱりとしていた。腰から得物を提げていたベルトを外し、代々伝わる刀掛けに二対の刀を置くと鍔からひと際眩しい青色の光が放たれた。そこには数字の6を二つ横にしたかのような図形が浮かび上がっていた。
「……」
真紅は十二星座の皇子のうちの一人で、かに座を守護している。十二星座の宿命に使命感をを感じながらも、稼業は非合法な組織で、真紅が長を務めている。幼いころに抗争で両親を亡くし、それ以降は切った張ったの裏街道。元々剣術に心得があった真紅は必死に剣の腕を磨き、今や他組織が襲ってきても返り討ちにしてしまうほどの実力をつけていた。
「……うちはこの宿命、きっちりと受け止めるけぇな。みとってな……」
刀掛けの近くに飾られた楽しそうに微笑んでいる両親の写真に一言、そう呟いた真紅は自分の頬を強めにパンと叩き気合を入れなおし、男たちが夕飯の支度をしている食堂へと向かった。
「うちもしっかり食べないかん。まだまだ負けてられんけぇ」
気持ちを切り替えた真紅は部屋を出て廊下に出ると、もうすでに美味しい道案内ができていた。




