『血海』の宣告と魔王の器【ルカ視点】(※付録:キャラクター設定資料②)
今朝のことだった。
ユニねえさまが、僕の部屋を訪れて『誓いの石』をおねだりしてくれた。
突然のことに、僕は、とっても驚いたけど……天にも昇るような気持ちだったんだ。ついに、ねえさまが僕を選んでくれたんだって。
「わたしたち、とっても『近い』関係だね☆ 『誓い』の石だけに! 笑」
無邪気に笑うねえさま。そうだね、ずっと一緒だよ。
その石に──僕の魂に掛けて誓うよ。未来永劫離さない。ねえさまに近づく邪魔者は、僕が全員滅ぼしてあげるって。
だけど、廊下で彼女の胸元を見た瞬間──僕は、底なしの絶望に突き落とされた。
彼女の胸元でジャラジャラと揺れる、無骨なワイヤーに束ねられた5つの石。僕の石だけじゃない。王家や、他の派閥の男たちの石までが、そこにはあったのだ。
『──おかわいそうな、ルカ様。あの方を信じてしまわれたばかりに……』
すれ違いざま、見知らぬ女生徒が落とした残酷な囁きが、呪いのように僕の耳朶へねっとりと絡みつく。
──裏切られた。僕だけじゃ、なかったんだ。
ピキリ、と。
その瞬間──僕の血に刻まれた、忌まわしい呪いが目を覚ました。
──あの、『近い』の『誓い』は──愛の言葉なんかじゃなかった。ねえさまの傍に侍る権利が欲しいのなら……他の男たちと血の海になるまで殺し合えという、いわば『血海』の宣告だったんだ!
自身の中の底知れない闇が完全に制御を失い、暴走する。噴き出したどす黒い瘴気は、ゴウッと激しく渦を巻き始めた。
僕の正体。それは、古の時代に封印された『魔王』の器だ。
表向きは天才魔導士としてもてはやされているけれど、少しでも感情が乱れれば、内なる魔王の力が溢れ出し、すべてを破壊してしまう。だから僕は誰からも恐れられ、息を潜めるように孤独に生きてきた。
ねえさまへの愛執と、裏切られたという絶望。
それが最後の引き金となり、僕の全身の血管を呪いが駆け巡る。視界が黒く染まり、周囲の空間が悲鳴を上げて歪み始めた。
(ごめんなさい、ねえさま。……もう、抑えきれない)
限界を超えた力が放出され、学園ごと世界が跡形もなく吹き飛ぶ──。
僕がすべてを諦め、絶望の中で目を閉じた、その時だった。
「──ルカくんっ!」
ふわり。
背後から、温かくやわらかな感触に包まれた。
「大丈夫。わたしは……ここにいるよ」
「ユニ、ねえさま……」
ねえさまは背中越しに僕の胸元へスッと手を差し伸べた。
そして、祈るように小さな唇を動かし、天才魔導士と呼ばれる僕すら聞いたことのない、神聖な呪文を呟いたのだ。
『Output_Redirect to External_Storage;』
すると──。
僕の体を突き破ろうとしていた強大で邪悪な魔王の力が、ねえさまの胸元にあるペンダントに向かって、凄まじい勢いで吸い込まれていったのだ。
僕からそっと身体を離したねえさまは、ビカビカと明滅する5つの魔石をしばらく見つめていた。
僕の闇をすべて飲み込んだそれを確認するように頷くと、パッと顔をあげる。
「……うん。落ち着いたみたい。良かったぁ!」
ねえさまは何事もなかったかのようにふわりと微笑み、そのまま廊下をパタパタと走り去っていった。
あとに残された僕は、体からすっかり闇が消え去っていることに気づき、その場にへたり込んだ。
◇◇
どうして、ねえさまはあんなことをしたんだろう?
その答えは、すぐにわかった。ねえさまが複数の『誓いの石』を身につけていたことに憤慨する令嬢たちを、ミレニア様が諫めているのが聞こえたからだ。
『あの石は、聖なる力を補強するために王家から託されたものですわ』と。
「……あっ」
頭の中で、カチリと音がした。
ねえさまは、気まぐれに遊んでいたわけじゃない。僕を裏切ったわけでもない。
僕の中に眠る『魔王』の力が限界を迎えていることに、彼女だけが気づいていたんだ。
でも、僕から溢れた魔王の闇を抑え込むためには、あまりにも膨大な『力の器』が必要になる。だからねえさまは、なりふりかまわずに駆け回り、王家や他の男たちにも頭を下げて……。5つもの至宝を集めて、僕を救うための器を作ってくれていたんだ……!
「ユニ、ねえさま……っ!」
僕は、なんて愚かなんだろう。
どこか誇らしげな、ねえさまの笑顔。胸元で揺れていた、ペンダント。
そうだ。ねえさまが必死だったのは、少し考えればわかったはずだ。
彼女はただひとえに、僕を救えることを喜んでいたのだ。
あんなにもみすぼらしく、品のない代物を首から下げて得意になるなんて……ありえないのだから。
それなのに僕は、あろうことか唯一の理解者であるねえさまを疑い、この汚い手で傷つけようとした。
「……ねえさまは、僕の光だ。僕が一生かけて、ねえさまを守り抜いてみせるからね……っ!」
温かな光の中で、僕は愛しい人のためだけの、決して破られることのない狂気にも似た誓いを立てたのだった。
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【 乙女ゲーム『アルカディア・クロニクル』キャラクター設定資料②】
■ ルカ(Luca)
【基本情報】
属性: 天才ショタ / 闇(魔王の器) / 激重ヤンデレ
立場: 名門貴族の嫡男。魔術塔の特待生。
【公式設定】
ヒロインを「ねえさま」と慕い、常に後ろをついて回る天使のような美少年。歴代最年少で魔術塔に入った天才だが、体が弱く時折ひどい発作に苦しんでいる。庇護欲をそそる可愛らしい態度でヒロインの母性本能をくすぐる、王道の癒し系ショタ枠。
【裏設定(個別ルートにて解放)】
その小さな体は、古の時代に封印された『魔王』を宿すための生きた器。絶えず生み出される瘴気に体を蝕まれ、周囲に心を閉ざして生きてきた。しかし、文献のどこにも記載されていない「光の魔法」を行使するヒロインに出会い、「彼女なら僕の中の闇を振り払ってくれるかもしれない」という切実な希望を抱いてしまう。その光への執着が、やがて狂気的な独占欲へと変貌していく。
【エンディング一覧】
・トゥルーエンド『夜明けの空に咲く魔法』
ヒロインの献身と、魔術塔の総力を結集した大魔術により、ルカの体から魔王の魂だけを完全に分離・浄化することに成功するルート。呪縛と激痛から解放されたルカは、本来の明るく純粋な心を取り戻す。数年後、見違えるほど逞しい青年へと成長したルカが「もう弟じゃなくて、一人の男として見て」とヒロインを迎えに来る、感動的で爽やかな王道大団円。
・ラブエンド『ふたりぼっちの暗黒童話』
闇の力の覚醒を止められず、魔王化するルート。ルカの精神は一度は闇に呑まれかけるが、ヒロインへの愛執によりかろうじて自我を保つ。人間としての愛憎が魔王の破壊衝動に拍車を駆け、ルカは、ヒロインに害をなす(あるいはヒロインに近づく)すべての存在を消し去り、世界を闇に沈める。誰もいなくなった瓦礫の玉座で、永遠に歳を取らなくなったルカがヒロインを抱きしめながら「ずっと僕だけのねえさまでいてね」と微笑む、狂気と依存のメリバ(メリーバッドエンド)。
・バッドエンド『世界を焦がす黒き絶望』
ヒロインの優しさは自分だけに向けられたものではないと気づき、さらに自分以外の人間とヒロインの関係を邪推してしまうルート。唯一の希望だったヒロインへの不信感から心が完全に折れ、絶望とともに魔王の力が暴走。誰の手にも負えないほどの破壊の嵐が巻き起こり、ヒロインもろとも世界が跡形もなく吹き飛ぶ最悪の結末。
◆◇◆
ルカ「ねぇ、ねえさま。すべてを跡形もなく吹き飛ばして……ふたりで『血海』に沈みましょう」
ユニ「ダジャレだよ!? てか、世界滅びるところだったん!? 勘弁してくれよ……!」
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次回はユニ視点です。引き続き楽しんでいただけるよう頑張ります!
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