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緊急案件! 仕様外ルートを開拓せよ!


「つ……つっかれたぁあああ!!」


ミレニア様が去った後、足早に自室へと逃げ帰った俺は、ボスンとベッドにダイブした。


(『あざと天然キモオタおばかさん作戦』で乗り切るつもりが、つい地が出てしまった……)


これまで誰ひとりとして突っ込んでこなかった「聖女の奇跡」について質問をされて、つい嬉しくなり、オタク特有の早口で余計なことまでしゃべってしまった。


だって『奇跡』を体系化するために、俺がどれほど苦労したと思っているのか。この世界にはネットもSNSも何もない。

お気楽に聖女だなんだと騒ぎ立てる王子や王家の連中を納得させるために、たった一人で再現検証をして、言語を構築して……。あいつらときたら、技術の限界なんて理解しようともせず無茶ぶりばかりしてくるクライアント連中となんら変わらない。マジで『脳がバーン』するところだったんだ。


それに現実世界では、一日中モニターに向かってコードばかり書いていて、女の子とまともに会話した経験なんて皆無だ。あんな美少女が俺の仕事(?)について熱心に聞いてくれるなんて、そりゃあテンションも上がるというものだ。


だけどミレニア様は、途中までは興味深そうだったのに、急に冷たい態度で去っていった。


にじみ出た俺の地 (キモオタ)に引いたのか。あるいは、女心と秋の空というやつか。どちらにせよ、やっぱり俺には三次元(?)の女子の考えることはよくわからない。


まあ、いい。嫌われて距離を置かれたのなら、ノーマルエンドを目指す俺としては結果オーライだ。


ふぅ、と深く息を吐き出す。シーツの柔らかい感触が、限界を迎えていた精神に染み渡る。


これで最大の懸念だった悪役令嬢のヘイト管理は片付いた。あとはこのまま危険なイベントをすべて回避し、卒業までをやり過ごすだけ。そして稼いだバフアイテムを元手に、辺境で悠々自適なスローライフを送るんだ……。


──ん? イベント?


その単語をきっかけに、先ほどカフェテリアの窓越しに見た光景が脳裏にフラッシュバックする。

俺はガバッと上半身を起こした。


シリウスとアーサーの友情イベント。あれは、二人の固有イベントを同時進行で進めた場合にのみ発生する、個別ルート分岐への特殊トリガーだ。


ゲームの展開通りなら、この後、イベントを終えた彼らは揃って俺の部屋を訪れるはずだ。

その手に、俺へのプレゼントを携えて。


シリウスの贈り物を選ぶか。

アーサーを選ぶか。

あるいは、両方断るか。


どちらかを選べば、選ばれた方の好感度が大幅に上がり個別ルートへ一直線。逆に選ばれなかった方は好感度が大幅に下がり、ルートが閉ざされる。

両方断れば、当然どちらの好感度も激減する。


考えるまでもない。恋愛ルートを回避したい俺にとっては、「両方断る」一択だ。


だが──。


(待て待て、おかしい。嫌な予感がする)


そもそも、固有イベントはすべてスルーしてきたはずだ。なぜこのイベントが発生した? トリガーとなるフラグ(二人の間の些細な軋轢)など、どこにも立っていないはずなのに。


いや、もっと早く気づくべきだった。固有イベントを経由せずに好感度をカンストできている時点で、すでにおかしい。フラグ管理が完全にカオス(バグ)になっているのだ。


(ここで二人の好感度を激減させたら、全体のバランスが崩れるのでは……?)


現在のこの状況は、攻略対象全員の好感度が完全一律という、奇跡のバランスで成り立っているのだ。

もしここで二人の好感度が下がり、数値に差が生じたら──。『全員平等』というノーマルエンドの大前提が崩れ去る。その瞬間に残る三人の『求愛モーション (恋愛イベ)』が発火しかねない!


クライヴ王子に壁ドンされながら「もう君を誰にも渡さない」と耳元で囁かれる激甘ヤンデレCG展開……!?


ゾッと、耳元に寒気が走る。

絶対に嫌だ、どんなホラーゲームよりも身の毛がよだつ。


(こうなったら、居留守を使うしか……)


いや、ダメだ。シリウスがいる。ヤツは騎士科のエリートだ。気配を察知されて居留守がバレてしまえば、「両方断った」以上のペナルティを食らいかねない。


となれば、残された道は一つだ。

二人の好感度をカンスト状態で維持したまま、穏便にお帰りいただく。そんな仕様外の「第四のルート」を、自力でこじ開けるしかない!


(大丈夫、やれるはずだ! 俺はこのゲームの開発者──いわば世界の創造主だ!イケメンズの単純な男心ぐらい、完璧にコントロールしきって見せる!!)


ベッドの上で、俺が悲壮な覚悟を決めた──まさにその時。


コンコンコンッ。


静かな部屋に、無情なノックの音が響き渡った。


「ユニ、俺たちだ。入ってもいいか?」


扉の向こうからの声に、俺は特上の美少女スマイルを顔面に装着(セット)すると、バーンッ! と勢いよく扉を開け放った。


「はぁい♡ お待ちしてましたぁ! アーサーさま、それにシリウスさまっ」


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