リンゴ
俺はなんとも言えない気持ちのまま、帰路を歩く。
「どうすりゃいいか……」
あんなにもきっぱり拒絶されてしまっては、俺としても動きようがない。
――――けれど、別に良いのかもしれない。
すでに俺とカエデは赤の他人だ。
別にあいつがあのまま、茫然自失と抜け殻のように毎日を過ごし、死んでいったところで、俺には関係の無い話。
あいつに立ち直ろうという意志があったのなら、俺だって手伝ってやった。だが、あいつは俺の救いの手を拒んだのだ。
だから、これ以上俺があいつに手を掛けてやる義理は無い。
それに、俺には直ちに達成したい夢があるのだから、余計な事に使っている時間なんてないのだ。
「うん。そうだな」
俺とカエデは、もう互いに救ったり救われたりするような関係じゃない。
だからもう、どうでも良い。どうでも良いのだ――――。
――――でも……。
俺の中で、入学試験の日の、カエデが俺の死体を抱えて泣き喚く姿が頭から消えない。
以前見せた殺意に満ちた目が、諦めたような瞳が、どうしても忘れられない。
俺は――――。
「ん?」
俺の視線はなぜか、不意にとある露店の、とある商品に吸い寄せられた。
「そうだ」
そして俺は、あることを考え付く。
「うん。それでいこう」
正直、俺がこんなことをしたところで、カエデが立ち直ってくれるかは分からない。
でも……それでも良い。
もしカエデの心にこの贈り物が響かなくても、俺はただ自己満足として、これを贈る。
「そうだ。うん。そうしよう――――」
俺はカエデを救えない。
ただ自分の思いをぶつけることしか、俺には出来ない。
だから精一杯、俺は気持ちをカエデにぶつけてやる。
カエデのためじゃなく、俺のために俺は動く。
「おじちゃん、この店の中で、とっておきの甘い奴をくれないかな――――」
◆◆◆◆◆◆◆◆
私は、入学式の日からこの学院の寮に入った。
今日も今日とて、一限目が始まる時間に私は起きる。
この寮では体調不良を証明できない限り、遅くても一限目が始まるギリギリの時間に外へ叩き出される。そのため、本当は外になんて出たくないけれど、私は今日も制服に袖を通して外へ出た。
授業を受ける気など毛頭ない私は、いつもの噴水のふちに座った。
この場所は良い。噴水の水が叩きつけられるような音が私の頭を空っぽにしてくれる。
考えたくない事を考えないでいられる。
目の前を他の生徒が通り過ぎるたび、皆が私の事をなにやら笑ってきたけど、別にそんなのどうでも良い。
私は何に対しても、やる気が起きない。
サクラを失った事による傷が深すぎて、立ち直れる気がしない。
「サクラ…………」
いついかなる時でもサクラの顔が頭に浮かぶ。
そしてそれと同時に、もうこの世にサクラが居ないという事実が、吐き気を催す程に辛くなる。
サクラ無しで、私は生きていける気がしない。
――――そんな思いを抱きながら、今日も茫然としただけで一日が終わった。
その後、何度も同じような一日が流れる。
いや違う。全く同じ日が流れる。
サクラを失ったことによる悲しみは、どれだけの時間を過ごそうが、消える気配すら無い。
私は今日も明日も、サクラを忘れられる気がしない。
きっと、サクラの面影に囚われて、このまま人生を終えて行くのだろう。
私は今日もいつもの噴水に向かい歩みを進める。
いつもと何ら変わりない一日。
でも今日は、いつもとは少しだけ違う事があった。
――――噴水のふちには、ウサギ型に切られたリンゴが二つ置いてあったのだ。
そのリンゴを見た瞬間、昔の記憶が私の頭を駆け巡った。




