表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

次の人生

 結局その後、俺が追加で試合をすることは無く、その日の内に合格が言い渡された。

「俺、どこに帰れば良いんだ…………?」

 数々の手続きを終え、解放された俺はすぐさま路頭に迷った。

 フラッシュの家の場所なんて知っている訳がない。

試験会場から出れば使用人が迎えにでも来ていると踏んだが、そんな様子も無い。

仕方が無いから、俺はひとまずこの場を離れ、何となく人通りの多い大通りの方へ向かう事にした。

「にしても、多少違和感はあるな」

 サクラとフラッシュでは体格が多少違う。

 具体的には、フラッシュの方が背は少し高いため、少し気を抜くとつまずいてしまいそうになってしまう。

 そのため、ただ歩くことに懸命になっていると、不意に少し小汚い服を着た少年がぶつかってきた。

「あ、ごめんなさい」

 ぶつかってきた子はそう俺に謝った後で、走り去って行こうとする。

 一見ただの不注意にしか見ないソレ。だが――――。

「おい待て」

 俺に呼び止められたことで、その少年はビクッと肩を跳ね上がらせた。

「俺の財布を返せ。言う通りにしたら、何か良い事があるかもしれないぞ」

 俺がそう言い放つと、その子は俺に背を向けたまま財布を投げて返してくる。

 そして、両手を挙げて、俺の言った通りその場に立ち止まった。

「ほらよ」

 俺は財布を受け取った後で、その子供に財布の中から取った金貨を数枚ほど投げる。

 少年はそれを、驚きながらも丁寧に両手でキャッチした。

「い、いいの?」

「ああ。持ってけドロボウ」

 俺がそう言うと、少年は特に感謝を示すことはせず、全力で走り去っていった。

 やはり、都市にもああいう境遇の子供はいるものなのだな――――。

「あっ、ここにおられたのですね」

 少年の背を見送っていると、背後にメイド服を着た女性が立っていた。

「申し訳ありません。想定よりも試験が大幅に早く終わったせいで、お迎えが遅れてしまいました」

 その使用人は息を切らしながらも、懸命に俺へ頭を下げた。

「あ、ああ。えっと、別に気にしなくていい……ぞ?」

「ありがとうございます。直ちに近くへ馬車を回してきます」

 そう言って使用人は去って行き、ものの数分で俺の下へ馬車が来た。

 そして、俺は数分ほど馬車に揺られ、行きついた先は宿だった。

 宿はかなり清潔で、シャンデリアなども飾ってある豪華な宿だった。

「……早く休みたいな」

 清潔な宿で寝られる幸福感と、試験を終えたことによる疲労感と、カエデを傷付けてしまった事に対する罪悪感を全て抱いた複雑な感情のまま、俺は部屋の扉を開ける。

 するとそこには、水色の髪の可愛らしい少女が居た。

 見たところ、俺と同い年くらいだろうか。

「あなた、お帰りなさい」

 その子は、嬉しそうに微笑んで俺にそう話しかけた。

「あ、ああ。ただいま」

 あなた…………もしかしなくても、この子は俺の妻か? いや、年齢的に婚約者と言ったところか?

「合格おめでとうございます。ララは信じていましたよ」

「お、おう。あ、ありがとう」

 ララ……本名か愛称かは知らないが、この子の事はララと呼べば良いのだな?

「ララは俺の合格、もう知ってたんだな」

「ついさっきメイドから聞きましたから」

 その子――ララは、ニコニコと幸せそうに笑いながら、俺に歩み寄ってきて、俺の上着を脱がせていってくれた。

 そして俺の上着を宿のクローゼットの中にしまうと、ララは奥のベッドに座った。

 ベッドが二つある時点で察してはいたが、やはり同室なのか…………。

 ララにフラッシュの中身が入れ替わったことを気づかれぬよう、一日中気を張っていなくては。

 ――――特異な効果を持つ固有魔法には、まれに縛りが宿る事がある。

 俺の固有魔法にも残念な事に縛りが宿っていて、その内容は、この魔法の存在を他人に知られてはいけないという事。

 もし俺の魔法のタネが他人に知られてしまうと、俺の魔法は消滅してしまうよう出来ている。

 だから、フラッシュの中身が入れ替わったことをこの子に感づかれる訳にはいかない。

「ふぅ、ヨイショ」

 俺は一度大きく息を吐いた後、ララが座っていない方の、手前のベッドに座った。

「え……?」

 しかし、なぜだかララは俺に、驚愕の視線を向けてきた。

「ど、どうした?」

 何か気付かぬうちに、不自然な事をしてしまったのだろうか?

「いえその、今日は…………なさらないのかと驚きまして」

 ララはモジモジと体をねじりながら言う。

 なさらないって――――もしかして…………。

「いや、今日は疲れてるんだ。悪いな」

「そうですよね……。では、今日はやめておきましょうか」

 そう言うと、ララはクローゼットを開け、上着を羽織った。

 フラッシュの野郎、イメージ通りのクソ貴族すぎるな…………。

「ふう」

 俺は今度こそ力を抜き、そのままベッドに寝転がった。

 フワフワのベッドで寝るのなんて、生まれて初めてだった。

 でも、こんなにも心地の良いベッドの上に寝転がっているのに、幸せだという感情は湧いてこなかった。

 なぜなら、眼を閉じると、あの時カエデが俺に見せた、恨みに支配されている強烈な表情が、頭の中につい浮かんできてしまうから。

「カエデ……」

 結局その日は、眠気はあっても、あまり熟睡することはできなかった。



評価・感想よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ