表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

約束できない

風に流される雲を眺めていると、カエデが俺の顔を覗き込んで来た。

「こんな時なのに、呑気ね」

「こんな時だから、精一杯呑気になってるんだよ」

 俺たちは今、屋根の無い簡素な馬車に揺られている。

 向かう先は当然、国立魔法学院の入試会場だ。

「ねえ……サクラ」

「ん?」

「サクラはさ、魔法学院に入学したら、何をしたいの?」

「ん? そうだな……」

 魔法学院は、その校名とは反して、魔法だけを学ぶ所ではない。

 魔法以外にも一般的な勉学、礼儀作法、体力の強化など、ありとあらゆることを極める学校だ。

 だから、魔法が使えなくても、入学した後でやることに困るという事は無い。

「逆にカエデは、魔法学院に入学したら何をしたいんだ?」

 俺はあえて質問を跳ね返してみた。

 するとカエデは、少しも嫌がる様な素振りは見せずに、迷いなく言葉を紡いでいく。

「私は、とにかく魔法学院で優秀な成績を収めて、魔法師になりたい。それで、結果を出して最終的には、田舎に広い領地を持つ貴族になりたい」

 真っすぐ、空を見上げながらカエデは語る。

「田舎の貴族?」

「うん。スラム街じゃ土地が狭いから野菜を育てる事も動物を飼う事も出来ないでしょ。だから、広い領地を持つ貴族になって、野菜や動物を育ててのんびりと人生を送りたい」

 きっとそれは、スラム街に生まれ、明日無事に生きられるかも分からない中で育ってきたからこそ出る願いなのだろう。

 とても素晴らしい願いだと俺は思う。

「いいのか? 魔法学院に行ったら、田舎の貴族なんかよりも幸せな何かにだってなれるぞ? それこそ、都市でたくさんの使用人を雇って、いい男だって侍らせられる」

「いや、いいかな。私にとっては、田舎の貴族で十分幸せだから」

 微笑みながら、カエデは言う。

「ただし、サクラが居てくれれば、だけどね――――」

「――――ん? 今何か言ったか?」

「い、いいや。何も言ってないよ」

 顔を真っ赤にして、カエデは首と手を慌てて振る。

「そうか」

 カエデが何か小さく呟いたような気がしたが、気のせいか。

 …………いいや正確には、気のせいだったことにしておくか――――だ。

「それで、サクラは?」

 やはり、俺へとその質問は帰ってきてしまった。

「そうだな……」

 俺は考え込む。

 悩み、迷い、苦しんで、俺の頭の中を数々の思考が駆け巡った結果、一つの結論が導き出された。

 ――――カエデには、もうこれ以上嘘を付きたくない。

「俺は、一つの目的を達成したいかな。たとえ死ぬことになろうとも――――」

 短く簡潔に、俺はそう答えた。

 嘘を付きはしない。でもやはり、真意は語りたくない。その結果が、この言葉だった。

「目的?」

 俺はカエデの言葉に答えることはせず、ただ頷く。

 深堀して欲しくない事を露骨に態度で表現した。

「そっか……」

 カエデは、どこか寂しそうな表情をして空を仰ぐ。

「ねえサクラ」

「ん?」

「一応言っとく。何があっても、絶対に死なないでよ」

 カエデの様子から、その言葉が心の底から出たものであることは容易に読み取れた。

 ――――でも俺は、カエデのその言葉に頷くことはしなかった。



評価・感想よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ