第15話 新たなゲーム開発
その後、結弦は『エコー・オブ・メモリーズ(エコーズ)』に登場させる新たなダンジョンのプログラミングに取りかかった。
玲子をサポートする存在として、ジョンとミーコにも大幅な仕様変更を加える。二匹を「変身タイプ」へとパワーアップさせたのだ。
ジョンは凛々しいホワイトライオンへ、ミーコは美しくも鋭いホワイトタイガーへと姿を変えた。二匹には攻撃力を飛躍的に高める絶大なバフが付与され、戦闘能力は以前とは比べものにならないほど向上している。
さらにジョンは、大きく息を吸い込むと口から灼熱の『ファイアーボール』を吐き出し、巨大な岩すら一瞬で溶かすほどの威力を発揮する。一方のミーコは、極限まで圧縮した水流を『超ウォーターカッター』として放ち、鋼鉄でさえ紙のように切り裂く能力を備えていた。
二匹は常に玲子のそばに寄り添い、少しでも危険を察知すれば即座に戦闘態勢へ移る。その姿はまさに玲子を守るためだけに存在する、頼もしい守護獣そのものだった。
そんなある日の昼下がり、スマートフォンの着信音が静かな部屋に鳴り響いた。画面を見ると、表示されていた名前は『布施部長』だった。
「はい、もしもし。布施部長、お久しぶりです。」
電話の向こうからは、相変わらず張りのある声が聞こえてきた。
「結弦くん、元気にしていたか? 実は会社で大きな方針が決まりつつある。君が手掛けた『エコーズ』が予想をはるかに超える大ヒットになったおかげで、経営陣も続編をぜひ作りたいと言い出してな。」
結弦は思わず姿勢を正した。
「本当ですか?」
「ああ。今度は『エコーズ』に匹敵する、いや、それ以上の作品を目指した第二弾をお願いしたい。ただし今回は、前作より納期が少し短い。それでも開発スタッフは皆やる気満々だ。君ともう一度、大きな作品を作りたいと言っている。」
布施部長の声には期待と熱意が込められていた。
「もちろん簡単な仕事じゃない。だから今すぐ答えを出さなくてもいい。何か面白いアイデアや企画が浮かんだら連絡をくれ。会社としても全面的にバックアップする。」
「分かりました。少し考えてみます。」
「期待しているよ。」
そう言って電話は切れた。
結弦はスマートフォンをテーブルに置き、小さく息を吐いた。嬉しさと同時に、大きな責任が肩にのしかかる。しかし、それ以上に新しいゲームを作れるという期待の方が勝っていた。
その夜、結弦は玲子に電話の内容を詳しく話した。
「会社から『エコーズ』の第二弾を作ってほしいって依頼が来たんだ。でも、まだ何をテーマにするか決まってなくて……。」
玲子は少し考え込むように視線を落とした後、ふっと微笑んだ。
「だったら、今二人で作ってるダンジョンをモチーフにしたらどうかな?」
「今のダンジョンを?」
「うん。この場所には不思議な現象もあるし、未知の生き物もいる。探索する楽しさもあるでしょう? それを新しいゲーム向けにアレンジして、もっと壮大な世界に作り変えれば、きっと前作とは違う魅力が出せると思う。」
その言葉を聞いた結弦の頭の中で、次々と新しいアイデアが浮かび始めた。ココのダンジョンをベースにしながら、魔法や守護獣、巨大な迷宮、そして数々の謎を盛り込んだ壮大な冒険世界――。
「なるほど……さすがは玲子だ。」
思わず感心したようにそう呟くと、玲子は少し照れくさそうに笑った。
「せっかくなら、今までのゲームでは体験できないくらいワクワクするゲームにしようよ。」
結弦は大きくうなずいた。
「ああ、それなら『エコーズ』を超える作品が作れるかもしれない。」
その瞬間、新たなゲーム開発への構想が、本格的に動き始めた。
結弦にとって、この仕事は単なるゲーム制作ではなかった。
玲子との愛おしい日々を守り、この穏やかな暮らしを未来へつなげるためには、会社から託された期待に応えなければならない。大ヒット作『エコーズ』に続く作品を成功させることは、自分だけでなく、支えてくれる仲間や玲子のためでもあった。
もちろん、断るという選択肢も頭をよぎった。
しかし、それは現実的ではない。会社は全面的に俺を信頼し、大勢のスタッフが次回作に胸を躍らせて待っている。その期待を裏切ることだけは、どうしてもできなかった。
閃いたアイデアを忘れないうちにパソコンへ打ち込み、気付けば窓の外はすっかり明るくなっていた。数時間だけ仮眠を取り、目覚めれば再びキーボードに向かう。ただ、その繰り返しだった。
何を隠そう、いまや企画書の作成は現実の部屋だけでなく、ダイブ先であるこの宮殿の書斎で行うのも当たり前の日常となっている。
「——できた」
画面に並んだ文字と仕様図を見つめ、俺は大きく背伸びをした。現実のダンジョンが持つ独特の緊張感と、冒険のワクワクが見事に融合した、納得のいく企画書の骨組みがそこにあった。
ふと視線を感じて横を見ると、ジョンが心配そうに鼻先を寄せてきていた。その傍らには、ミーコも静かに佇んでいる。
「……悪いな、起こしたか?」
熱量が冷めないうちに企画書を布施部長宛てのメールに添付し、送信ボタンを押す。
すぐに返信が来るはずもないのに、しばらく画面から目が離せなかった。ここからまた、新しい戦いが始まるのだと思うと、胸の奥がじんわりと熱くなった。
つづく




