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失われた妻の世界を、未完成のコードで取り戻す  作者: 一雲一人


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第14話 閃光と後悔

『もしもし!』


開口一番、結弦の声は裏返っていた。


「公平! 頼む、今すぐ車を出してくれ! 頼むから今すぐ来てくれ!!」


突然の電話に困惑する公平を強引に説得し、車で新居まで迎えに来てもらった。


幸いにも、碑文谷池近くのアパートの契約は今月末まで残っている。退去まであと十日。まだ鍵はある。


車中でざっと事情を説明すると、公平は「お前、マジで言ってんのか……!?」と目を丸くしながらも、アクセルを深く踏み込んでくれた。


アパートに到着するなり、二人は暗い部屋へと駆け込んだ。


結弦は手早くパソコンを組み上げ、電源を入れる。VRヘッドセットを装着し、結弦と公平の二人は『エコー・オブ・メモリーズ ~プロトタイプ』の空間へとダイブした。


「玲子ーーっ! 玲子、どこだーっ!?」


しかし、アパートに対応する仮想空間の街並みには、静寂だけが広がっていた。


結弦はジョンとミーコにも捜索のアクセス権限を与え、街中に放って探させた。


「ジョン! ミーコ! 玲子を探してくれ!」


二人と二匹による、なりふり構わぬ必死の捜索。

だが――夜が明け、東の空が白み始めても、どれだけ街中を探し回っても、玲子の姿はどこにも見つからなかった。


朝の光が差し込む旧アパートの室内で、ヘッドセットを外した結弦は、その場に膝から崩れ落ちた。


「……なんでだ……どこに行っちゃったんだよ、玲子……」


虚しく響く結弦の声に、公平はかける言葉も見つからず、ただ黙ってその肩に手を置くことしかできなかった。


「こんな時は一旦パソコンから離れて、俯瞰(ふかん)して考えようぜ! あんまり落ち込むなよ。俺そろそろ帰るよ、仕事あるからさ。終わったらまた連絡入れる」


公平はそう言って僕の肩を叩くと、空っぽの部屋を後にした。パタンとドアが閉まる音が、静まり返った部屋に重く響く。


すっかり日が昇ってから、この出来事を玲子の両親に話した。二人も言葉を失い、ショックを隠せない様子だった。


それから三日間、僕と公平は碑文谷池近くのアパートに詰めてダイブを続けた。ジョンとミーコも見つけられないまま、打てる手はすべて尽くしたと言っても過言ではないほど捜索した。けれど、手応えは何もなかった。


(もう、きっと天国に戻されたんじゃないか……)


嫌な思考ばかりが脳裏を渦巻く。


「おい結弦、そこの神社で神頼みしようぜ」


見かねた公平が俺を駆り出した。藁にもすがる思いだった俺は、彼に促されるまま赤色の太鼓橋を渡る。拝殿の前に立ち、強く目を閉じて手を合わせた。


(頼むから、帰ってきてくれ——)


その時、ハッとあることを思い出した。


自分の部屋に戻るやいなや、俺は一心不乱にキーボードを叩き始めた。


(そうだ……最初から、あの時に作っておけばよかったんだ)


開発時、街の景観に合わないかもしれないと妥協し、池だけを作って神社を省いてしまっていたこと。あの時、メモ帳に「池か……弁天池、か」と書きながら、境内でお参りをしていた玲子の姿を思い出していたこと——すべてが頭の中でひとつに繋がっていく。


丸一日、寝食も忘れてプログラミングを続け、ついに街の外れにある池の周囲に、あの碑文谷池とそっくりの地形、赤い太鼓橋、そして鳥居と神社を完成させた。


出来立てのその空間を確認すべく、結弦は端末を装着してダイブする。


光が収まると、朱色の鳥居の前で既にジョンとミーコが待ち構えていた。


「ご主人様の気配がする!」


二匹の確信に満ちた声に背中を押され、結弦は境内の前へ進むと、深く息を吐いて静かに手を合わせた。


(頼む……戻ってきてくれ!)


するとどうだろう。閉ざされていた境内に眩い光があふれ出し、その中心から玲子の姿が現れた。


「結弦……!」


玲子は駆け寄るなり、弾かれたように結弦の胸へ抱きついた。


「怖かった! 行き場を無くして、神社の中へ吸い込まれてから……真っ暗闇の静寂の中で、どこにも行けずにずっと立ち尽くしていたの!」


結弦の服を強く掴みしめ、ボロボロと涙をこぼす玲子。その足元へ、ジョンとミーコが嬉しそうに体を擦り寄せた。


「良かったぁ……!」


「え……?」


玲子は涙に濡れた目を見開き、信じられない様子で足元を見つめた。


「ジョンとミーコが……しゃべった……!?」


「二人とも、ずっと玲子を探してくれてたんだ。……さあ、一緒に帰ろう」


結弦の言葉に、玲子は何度も頷いた。


生前、あの境内で彼女が何を祈っていたのか、結弦は今ならはっきりと分かっていた。


『何があっても、いつまでも結弦と一緒にいられますように』


かつて聞きそびれていた彼女の祈りは、結弦の手で再現されたこの世界で、確かに叶えられたのだ。


だが、何故そんなことが、多分電源を切られて、玲子の魂の居場所が無くなったせいで、あの社に導かれたのかもしれない。


だが、玲子はパソコンのソフトの中に宿ってしまったために、実在する神社からじゃなくて、ソフトの、中に作られたのなら社から出られたと言う事になるのだ。


その後玲子の両親とも相談して、やはり碑文谷池の側の旧アパートに結弦が住むことになるのだった。





つづく

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