第97話:深淵への連撃
Aリーグまで勝ち上がったという自負は、霧散していた。
道場に漂う重い沈黙が、五人の肩に鉛のようにのしかかる。
「俺たちは……こんなに、弱いのか」
瞬が、握りしめた拳を震わせながら呟いた。
「同じ女子に、あんなに圧倒されたのは初めて……」
凛もまた、中村の放った打突の感触を思い出し、視線を落とす。
「いや……負けるにしても、おかしい。流れが全く掴めなかった」
守屋が、五十人を超える門下生たちが自分たちを見つめる「場」を見渡した。
「場に、呑まれているんだ。拍手も、視線も、すべてが彼らの味方をしている」
「確かに、アウェイ感が半端ねぇな」
野性味溢れる大吾でさえ、仁明館という組織が放つ無言の圧力に気圧されていた。
そこへ、仁明館のメンバーが駆け寄ってきた。
「ありがとうございました!」
先ほどまでの鋭い剣気が嘘のような、清々しい礼。
「皆さん、強いですね。すごく勉強になりました!」
加賀谷が屈託のない笑顔で言う。竹刀を置けば、どこにでもいる好青年に戻るそのギャップに、五人は毒気を抜かれた。
「成瀬さん、ありがとう。……あなた、強いわね。嬉しいわ」
中村が凛の手を握る。女子選手が一人しかいない仁明館にとって、凛の存在は心強い光に見えたようだった。
その光景を、遠くから見つめる二つの影があった。
「……こういうところは、合格じゃな。腐らず、相手を認められる」
宇佐美の言葉に、康介は静かに、しかし力強く答えた。
「はい。私の自慢の弟子たちです」
「さて。身体も温まったじゃろう。次、始めるぞ」
「……次、ですか?」
驚く康介に、宇佐美は不敵な笑みを向けた。
「明鏡館の並びはそのままで、ウチの選手を一つずつずらしていく。あと四試合じゃ。他の者は稽古再開!」
宇佐美の一喝で、静寂は再び咆哮へと変わった。
怒涛の五連戦。回を追うごとに、五人は少しずつ「アウェイ」の空気に順応し、必死に食らいついていく。
数回、個人で意地の勝ちを拾うことはできた。
だが、チームの結果は全敗。
そして、大将・加賀谷から「引き分け」をもぎ取れる者は、ついに一人も現れなかった。




