表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
97/122

第96話:峻烈なる洗礼

 先鋒、瞬。

 試合開始の合図と共に、瞬はこれまでにない戸惑いに飲み込まれていた。

(こいつ……全然、下がらないのか!?)

 瞬がどれほど鋭く攻め立てても、相手は微塵も怯むことなく間合いを詰めてくる。様子見の小手や、虚を突くフェイントなど一切ない。放たれる全ての打突が、一撃必殺の気迫を帯びていた。

 捨て身の猛攻に、瞬は防戦一方へと追い込まれていく。

「……桐谷の息子じゃな」

 最奥のパイプ椅子に腰を下ろした宇佐美が、低く呟いた。

 その傍らに正座する康介が、背筋を伸ばしたまま答える。

「はい。負けん気が強く、稽古熱心な男です。ここ数ヶ月の成長には目を見張るものがあります」

「負けん気が強く、熱い……か。親父とは違うな」

 宇佐美の口元が、わずかに吊り上がった。

「桐谷は優等生だったからの。……今は、どうしておる」

「仕事が忙しく剣からは離れていますが、腕は鈍っておりません」

「惜しいのぉ。……そして、この息子も惜しい。経験が足りんな」

 康介が「そのために連れて参りました」と答えた直後、乾いた笛の音が響いた。

 瞬、一本負け。

 次鋒、凛。

 相手の中村もまた、先鋒と同じく一歩も引かぬ「打ち切り」の剣道を見せる。

 凛は得意の足さばきで翻弄しようとするが、逃げ道を塞がれるように追い詰められ、鮮やかな面を叩き込まれた。

(私の足さばきが……通用しない!?)

 焦りから動きを激しくするが、それすらも読まれているかのように、二本目の竹刀が凛の脳天を捉えた。

「面あり! 勝負あり!」

「……お前の娘か」

「はい。幼少から叩き込みました。我がチームのムードメーカーです」

「上手いな。確かに技術はある。じゃが成瀬……あの子には、もっと正面から勝負させろ」

「……はい。肝に銘じます」

 中堅、佐伯。

 試合が始まって数十秒、宇佐美の目がわずかに細まった。

「……こいつは、なかなか良いな」

「はい。運動神経は人並みですが、自分の持てる手札でどう戦うかを、誰よりも考えております。一番の努力家かもしれません」

 佐伯は、相手の猛攻を冷静に捌き続け、ついに引き分けに持ち込んだ。

 副将、守屋。

 宇佐美の眼光が、一段と鋭さを増す。

「こいつは……相当、やってきとるな」

「はい。実は、元は虎皇館にいた男です」

 その言葉に、宇佐美が初めて微かに眉を動かした。

「なるほど……合点がいったわ。……じゃが成瀬、このチームはまだ、こいつを生かしきれておらんの」

 康介の心臓が、大きく跳ねた。

「……っ、はい。五人の仲は良いのですが、まだ『個』の集まりに過ぎませんでした。……そこでしたか。最後のピースは」

 康介は、師の言葉を骨に刻み込むように噛み締めた。

 守屋、意地を見せて引き分け。

 大将、大吾。

「成瀬、面白い奴を連れてきたのぉ」

 宇佐美が、今日初めて楽しげな笑みを浮かべた。

「剣道歴は短いですが、情熱は誰にも負けません」

「もっと荒さを削れ。力が溢れすぎて制御が効いておらん。己の身体を御することさえ覚えれば、いずれ加賀谷と良い勝負をするようになるじゃろう」

 だが、結果は非情だった。

 大吾、二本負け。

 スコア、三対零。

 明鏡館の五人は、仁明館という「洗練された剣道」の前に、完膚なきまでに叩き伏せられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【読者の皆様へ】 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます! 本作は全160話完結済みです。 完結まで毎日2回(朝・夜)、欠かさず更新してまいります。 もし少しでも「続きが気になる」「瞬を応援したい」と感じていただけましたら、 **下の【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして応援いただけると、執筆の大きな励みになります。 皆様の一票が、より多くの読者にこの物語を届ける力になります。 よろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ