第93話:咆哮する武道館
ワゴン車が長閑な田舎道を抜け、視界が開けると、そこには地方都市らしい立派な武道館が鎮座していた。
車を降りた瞬間、五人の鼓膜を震わせたのは、地鳴りのような咆哮と、幾重にも重なる竹刀の打突音だった。
「なんか……人数、多くないか?」
瞬が呟く。音の厚みが違う。自分たちの知る「稽古」の規模を遥かに超えていた。
「さあ、入るぞ。防具を持ってこい」
康介に促され、重い扉を開けて中へ踏み込む。
そこには、圧倒的な光景が広がっていた。
小学生から中学生までが三十人、高校生が十人。
それらを迎え撃つ大人たちが十数人。
総勢五十人を超える剣士たちの熱気が、床を鳴らしていた。
その最奥。
剣道着姿で、微動だにせず全体を射抜くような鋭い目付きで見つめる一人の老人がいた。
「こんにちは! 明鏡館の方ですね!」
入口の気配に気づいた中学生が、風を切るような速さで駆け寄ってくる。
垂れには『仁明館 加賀谷』の文字。
「すぐに館長に知らせます。少々お待ちください!」
少年が奥へ走ると同時に、別の数人がパイプ椅子を抱えて飛んできた。
「こちらへどうぞ!」
流れるような動作で椅子が並べられ、間髪入れずお盆に乗せた麦茶が運ばれてくる。
徹底的に叩き込まれた礼儀と機敏さ。その「完成された組織」の姿に、五人は圧倒され、毒気を抜かれたように椅子に深く沈んだ。
「……悪いな、凛。俺が間違っていた」
康介が、震える小声で隣の凛に囁いた。
「何が? 何が間違ってたのよ……」
凛が引きつった顔で聞き返す。
「俺の師匠……宇佐美先生は……まだ、現役だ」
康介の言葉が終わるか終わらないかのうちに、奥にいた老人がゆっくりと歩み寄ってきた。
白髪を短く切り揃え、一歩ごとに道場の空気を踏み固めるような足取り。
近づくにつれ、五人の背中を氷の刃でなぞられるような戦慄が走り抜けた。




