第92話:源流への旅路
「行ってらっしゃーい!」
康介がハンドルを握るワゴン車に、五人が乗り込む。
大きく手を振る杉森と、その後ろで頬を膨らませて不貞腐れる遥に見送られながら、明鏡館の一行は遠征へと出発した。
「杉森くんも、来ればよかったのに」
瞬がポツリと言うと、隣の凛が肩をすくめた。
「青原中も練習試合があるんだから、仕方ないでしょ。……それより、遥さんはなんであんなに機嫌が悪いの?」
「……俺が『付いてくるな』って言ったんだよ。昨日からずっと大変だったんだ」
瞬がげんなりした様子で答える。
「別にいいじゃない、遥さんが来れば楽しいんだし」
凛の言葉に、瞬は首を振った。
「それだよ。これは遠足じゃないんだって、言い聞かせたんだ」
「年頃の男の子っていうのは、難しいですねぇ」
自分もさして変わらない年齢のくせに、佐伯がもっともらしく眼鏡を押し上げた。
ワゴン車は、のどかな景色の中をゆっくりと走り続ける。
「……遠いですね。こんな田舎に、先生の知り合いがいるんですか?」
窓の外を見つめていた大吾が尋ねる。
「俺の師匠のところだ。今は定年退職して、故郷の道場で指導をしている」
「成瀬先生の……師匠!?」
五人が一斉に反応した。あの康介を育てた人物。想像もつかない。
「どんな方なんですか?」
守屋の問いに、康介は少し遠い目をして笑った。
「俺が高校の時の顧問でな。……とにかく厳しかった。厳しさだけで言えば、あの大河内先生と並ぶかな」
車内に、凍りついたような沈黙が流れた。
「大河内先生並み……? 帰りたくなってきた……」
凛の本音に、康介は声をあげて笑う。
「昔の話だ。今は、ただの優しいおじいちゃんだよ」
その言葉に凛は胸を撫で下ろしたが、大吾だけは別の場所を見つめていた。
「先生。その道場……強いんですか?」
「強いさ。この前、虎皇館が優勝旗を持ってただろ? その決勝で、彼らを最後まで追い詰めたのが、これから行く道場だ。……内容は、紙一重だったらしい」
優しいおじいちゃん、などという言葉は、瞬たちの耳にはもう届いていなかった。
これから出会う、虎皇館に最も近い「剣士」たち。
不安と、それを上回るほどの高揚感が、狭い車内の温度を一気に引き上げた。




