第91話:研ぎ澄まされる刃
錬成会の熱狂が去り、明鏡館には再び、日常の稽古風景が戻っていた。
だが、そこを流れる空気は以前とは明らかに違う。鋭く、重く、肌を刺すような緊張感が満ちていた。
(もっと速く、もっと深く。父さんが認めてくれた『攻め』を、確実に『誘い』へ繋げないと……!)
瞬は焦っていた。虎皇館Bチームとの薄氷の勝利。
あの日感じた虎皇館Aチームとの実力差を埋めるには、もう一段階、己を脱皮させる必要がある。
凛は己の非力さを自覚し、体捌きによる回避と、それを支える体幹の強化に没頭していた。
佐伯は眼鏡の奥で無数のパターンを演算し、身体が思考を追い越すまで、愚直に同じ動作を繰り返す。
守屋は、一度敗れた加治屋へのリベンジという重圧に、独り静かに苦しんでいた。技術は完成に近い。だが出口が見えない。自分に足りない「最後の一片」は何なのか。
そして大吾だけは、戦うたびに強くなる実感を全身で享受し、その進化を加速させていた。
傍らでは、杉森ら青原中の面々も、GリーグからEリーグへと這い上がった自信を胸に、必死に食らいついている。
六人が六様の悩みを抱えながら、竹刀の音を響かせる日々。
その光景を、成瀬康介は静かに、そして誰よりも深く悩める瞳で見つめていた。
(……驚くほど強くなった。だが、これでもまだ届かない)
虎皇館Aチーム。あの漆黒の壁を打ち破るイメージが、どうしても結ばない。
理論や根性だけでは届かない領域。そこへ手を届かせるために、康介は一つの結論を出した。
「――遠征だ。今週末、お前たちをある場所へ連れて行く」
その一言が、新たな苦しみ、あるいは黄金の夜明けへの合図となった。




