第89話:逃げ場の無い場所
康介は、少年の瞳の奥に潜む「渇き」の正体を知ろうとした。
「強い奴……か。……お前の言う『強さ』とは何だ?」
「難しいこと聞くなよ。これ以外に、強さなんてあんのか?」
少年は迷いなく拳を突き出し、問いを投げ返してきた。
「強さにも色々あってな。私が認める強さとは、『心の強さ』を持っている者のことだ」
「ますます分かんねぇ……。分かりやすく説明しろよ」
反発するかと思いきや、少年は意外にも素直に言葉を促した。
この少年は、若さをぶつける場所も、自分を表現する術も持っていないだけだ。康介は、この荒々しくも純粋な少年に、強い興味を抱いた。
「……その拳で、本当にやりたいことができているか? 別に責めているわけじゃない。ただな……もったいないと思っているだけだ」
康介の静かな言葉に、少年の放っていた荒々しい殺気が、ふっと凪いだ。彼は食い入るように康介の話に聞き入っている。
「その力を、本気でぶつけたことはあるか?」
少年に問いかけると、彼は短く首を横に振った。
「相手が逃げ出さない代わりに、お前にも逃げ場がない。……そんな場所がある」
その言葉に、少年の体が目に見えて前のめりになった。
「どこだよ、それ」
「興味があるなら、教えてやる」
康介の誘いに、少年の口元が不敵に吊り上がった。
「面白そうじゃねぇか。……今から連れてけよ、おっさん」
「いいだろう。……ついて来い」
康介の口元にも、少年と同じ不敵な笑みが浮かぶ。
「そういえば、まだ名を聞いていなかったな」
康介の後ろを付いてくる少年に声をかけると、ぶっきらぼうに、けれど真っ直ぐに応えた。
「――荒木大吾だ」




