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第86話:孤高の背中

 虎皇館こおうかんの出現にざわついていた会場は、鷹司たかつかさがフロアに降り立った瞬間、水を打ったように静まりかえった。彼が歩みを進めるごとに、人混みが割れていく。

 この場にいるAリーグの猛者たちでさえ、鷹司の放つ冷酷で人間味を排した圧に気圧され、彼が通り過ぎるのを石のように黙って待っていた。

 鷹司が、守屋もりやの目の前で足を止めた。

 かつてはその影を見ただけで呼吸を乱していた守屋だったが、今のその瞳に怯えはない。背後には、同じ苦しみを乗り越えた四人の仲間がいる。その絆が、守屋の心を支えていた。

「守屋。大河内おおこうち先生に詫びを入れろ」

 感情の欠落した鷹司の言葉に、明鏡館めいきょうかんの面々は絶句した。

「今なら、Bチームで使ってやる」

「……なんだとッ! お前、自分が何言ってるか分かってんのか!」

 しゅんが、かつてトラウマを植え付けられた相手であることを忘れ、食ってかかった。

「ケンカはいけませんよ。……だが、断る。守屋は我々の『要』だ。渡しません」

 佐伯さえきが眼鏡の奥の目を鋭く光らせ、理知的な拒絶を突きつける。

「そうよ。今更どの面下げて言ってんのよ!」

 りんも一歩も引かずに言い放つ。

「お前は『大将』なんだろ? だったら、お前の相手は俺だ」

 大吾だいごが、獲物を狙う野獣の目で鷹司を射抜くように割って入った。

 仲間たちの背中越しに、守屋が静かに前に出た。

「悪いな、鷹司。今の俺には仲間がいる。一緒に積み重ねてきた想いを背負っているんだ。お前だって、本当は新免しんめんたちみたいに……」

 その時、鷹司の表情が初めて歪んだ。それは、明確な「苛立ち」だった。

「積み重ねただと? 想いを背負う……?」

 鷹司の声に、微かな震えが混じる。

「俺の背中は、他人の想いなどというものを乗せるほど安くない。俺は、自分が積み上げたものしか信じない!」

 感情を剥き出しにした鷹司に、守屋たちは息を呑んだ。

「……もういい。帰るぞ、お前たち」

 鷹司はBチームのメンバーに短く告げ、背中を向けた。去り際、彼は一度も振り返ることなく一言だけ残した。

「『虎皇旗こおうき』に……招待してくれるそうだ」

 そのまま、影を引き連れるように去っていく鷹司。守屋は、そのあまりに強固で、あまりに脆そうな「孤高の背中」を、慈しむような目で見送った。

「孤独は、いつか自分を壊すぞ、鷹司……」

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