第84話:漆黒の影
新免たちの心が溶け、柔らかな空気が流れた。それに誘われるように、明鏡館のメンバーも自然と歩み寄る。
大吾が虎皇館の大将と、がっしりと右手を握り合った。
「こんなに面白い試合は初めてだ。またやろうぜ」
「……次は、負けねぇよ」
大将は涙を拭い、晴れやかな笑顔で応えた。
傍らでは、虎皇館の次鋒が凛に、消え入りそうな声で頭を下げていた。
「あの……大丈夫? さっきは、ごめん……」
「平気よ。こんなの、剣道やってりゃ慣れっこだもん」
凛がいつもの快活な笑顔で答える。
誰もが、この一戦で得た絆を慈しんでいた。……だがその時、新免が観客席の一角を見上げ、石のように凍り付いた。異変に気づいた全員の視線が、一点に集まる。
そこにいたのは、清潔で傲慢な「白」のジャージを纏った五人の男たち。
そしてその中心で、漆黒のスーツを隙なく着こなした大河内が、氷のような眼差しで一部始終を見下ろしていた。
「せっかく優勝旗を拝ませてやろうと思ったのに……負けてやがるぜ、あいつら」
優勝旗を無造作に肩に担ぎ、先鋒の藤田が吐き捨てるように言った。
「こりゃあ、帰ってからたっぷり『お仕置き』だな」
次鋒の樋口が、歪んだ笑みを浮かべる。
「それにしても……あの程度のチームに負けるとは。情けない」
中堅の大月が、深いため息をついた。
その横で、何も言わずに守屋を見つめる大将・鷹司。そして5人目の男。
虎皇館レギュラー、最強の五人がそこに揃っていた。
先ほどまでの温かな余韻は、瞬時に吹き飛んだ。虎皇館Bチームの面々は顔を青ざめさせ、現実に引き戻される。彼らの背筋には、刻み込まれた「敗北」への恐怖が再び這い上がっていた。
かつての後輩たちを怯えさせるその「暴力的な威圧感」を、守屋は鋭く睨み据える。
(倒すべき、真の相手……)
守屋が覚悟を決め、一人一人の顔を追った。その時、最後に目に入った五人目の男を見て、守屋の呼吸が止まった。
「あいつは……!?」
守屋の唇が、目に見えて震えだす。
「……あの人が、今の『副将』です」
新免が、苦しげに、絞り出すように告げた。
「尚武道場の……加治屋……っ!」
その名が出た瞬間、あの日の光景がフラッシュバックする。尚武道場の加治屋に完敗し、地獄の始まりとなったあの日を。
「なんで……あいつが、虎皇館に……」
「引き抜きですよ。……あの男は……あなたより、強い」
新免の言葉が、守屋の胸に深く、鋭く突き刺さった。




