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第83話:凍解(とうげ)

 一本を取られた虎皇館こおうかんの大将の顔には、意外なほど晴れやかな表情が浮かんでいた。

 残りの僅かな時間、二人は、互いの存在を慈しむように竹刀を打ち合った。その密度の高い時間に水を差すように、試合終了の笛が試合場に響き渡る。

 全力を出し切った二人は、これ以上ないほど深い『礼』を交わした。

 チームの敗北が決まった虎皇館Bチームの陣営には、重苦しい沈黙が広がっていた。全力を尽くした大将を温かく迎えつつも、彼らの肩には「敗北」という名の、あまりに重い罰がのしかかっているようだった。

 明鏡館めいきょうかんが勝利の余韻に浸る中、守屋もりやが一人、静かに虎皇館の陣営へと歩き出した。気まずそうに視線を外す新免しんめんの前で、守屋は足を止める。

「新免。竹刀を持ってこい」

「……えっ?」

 思いもよらない言葉に、新免は呆然と固まった。

「いいから、竹刀を持って構えろ」

 促されるまま、新免はおぼつかない手つきで竹刀を握り、中段に構える。

 守屋は、その震える新免の腕を優しく、だが確かな力で包み込んだ。

「ここに力を入れてはダメだ。……それから、竹刀の持ち方は、こうだ」

 守屋の手の温もりが伝わった瞬間、新免の身体から不覚な緊張が抜けていく。

「前から言ってるだろ。お前は大事なところで力む癖がある。早く直せ」

 その声は、あの地獄のような日々の中で唯一、自分たちを人間として扱ってくれた、懐かしい「守屋先輩」の声だった。

 新免の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。

「守屋、さん……。どうして……一人で行ってしまったんですか……」

 新免に続くように、他のメンバーからも、押し殺していた声が漏れる。

「……俺たちも、連れて行って欲しかった。……置いていかないで欲しかった……!」

 全員が、子供のように肩を震わせて泣いた。

 守屋は、自分が虎皇館から逃げ出したのは、自分の心が弱いからだと思い込んできた。強くなるためには、非情になれる強い心が必要なのだと、自分を責め続けてきた。

 だが、それは間違いだったのだ。

 残された者たちもまた、自分と同じように恐怖で心を縛られ、誰かに救い出されるのを、ずっと待っていたのだ。

(悪かった……。お前たちも、戦っていたんだな……)

 守屋の視界も、次第に滲んでいった。

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