第81話:鏡を割る咆哮
大将戦の火蓋が切られた。
直後、虎皇館の大将は困惑に目を見開いた。目の前の巨漢――大吾が、一歩も引かずに間合いを詰めてきたからだ。
(……なぜだ? なぜ前に出てくる!?)
今の明鏡館に、リスクを冒す必要などない。守りに徹し、時間を稼げば、チームの勝利は揺るがないのだ。徹底的に「勝つための歯車」であることを教え込まれたエリートにとって、この状況で打って出る大将など、計算の外だった。
ざわめきが広がる虎皇館サイド。
「おい……あの大将、逃げねえぞ……」
「信じられん。この状況で取りに来ているのか?」
絶望に沈んでいた彼らの心に、戸惑いと共に小さな火が灯る。
(……来いよ。お前の全てを、俺にぶつけて来い!)
大吾の、ど真ん中を真っ二つに割るような、強烈な圧力を伴った面が飛ぶ。
虎皇館の大将は、反射的にそれを受け止めた。戸惑いは一瞬で消え、戦士としての本能が呼び覚まされる。
(……面白い。なら、俺の方が上だってことを、思い知らせてやる!)
数々の修羅場を潜り抜けた男の凄まじい剣気が弾け、大吾を襲う。
お互いに真っ向から打ち合う、正々堂々とした激突。策略も計算もない。ただ「どっちが強いか」だけを決めるための純粋な時間が、そこには流れていた。
その光景を、新免は食い入るように見つめていた。
(……こんな指示を出す監督が、いるなんて……)
新免の瞳から、どす黒い憎しみが静かに剥がれ落ちていく。
(守屋さん……。だからあなたは、そこに居るんですね……)
白と藍の道着が交錯する向こう側に座る守屋を見つめ、新免の顔には、かつての穏やかなあどけなさが戻っていた。




