第77話:断絶の礼
「何をやってるんだ! 次鋒が勝ったのに、中堅で取り返されるなんて!」
虎皇館Bの陣営で、新免の怒号が響く。中堅戦に絶対の自信を持っていた彼は、極限まで荒れていた。
「いや……まさか、あいつがあんなに強いなんて……」
言い訳を口にする中堅に対し、新免はさらに追い打ちをかける。
「もし、こんなところで負けでもしたら……お前、どうなるかわかってるんだろうな!」
その言葉に、Bチームのメンバーは一斉に青ざめた。
この練習試合の結果を、顧問の大河内が知ったらどうなるか。そして何より、鷹司らレギュラー陣に報告されれば、待っているのは「地獄」だ。
虎皇館において、敗者に慈悲はない。動けなくなっても無理やり立たされ、プライドごと打ちのめされる。彼らにとって、この試合は破滅を免れるための「生存競争」だった。
「……俺が、守屋の首を取ってきてやる」
かつての先輩。その圧倒的な強さに憧れていたからこそ、裏切られたと感じた瞬間に燃え上がった憎しみの炎。新免は、その黒い熱を胸に試合場へ進み出た。
副将戦。守屋、対、新免。
二人は、全く同じタイミングで、寸分違わぬ美しい礼を交わす。しかし、その内面はあまりにも対照的だった。
(……引きずり下ろして、潰してやる)
新免の瞳には、黒い憎悪が渦巻く。
(……お願いします)
守屋は、静かに目を閉じて心の中で唱えた。かつての自分と、かつての居場所。そのすべてを精算するための、禊の一打を。
新免の全身から発せられる、刺すような殺気。それを感じ取った瞬の脳裏に、不意に老師の言葉が蘇った。
『礼はな、相手に感謝してするんじゃ』
(老師……あんな相手にも、感謝しなくちゃだめなんですか……?)
瞬は、守屋を「裏切り者」と呼び、憎しみを剥き出しにする虎皇館への感情に、どうしても整理がつかなかった。
「始め!」
審判の宣告が、静寂を切り裂く。
それぞれの積年の思い、そして覚悟が渦巻く中、非情にも勝負の火蓋は切って落とされた。




