第69話:王者の門番
Aリーグ試合場。新免は、手元の竹刀袋を握りしめたまま、Bリーグの光景を凝視していた。
Bリーグの猛者たちが、まるでなぎ倒される稲穂のように、次々と明鏡館の前に膝を屈していく。
(……おかしいだろ、守屋さん)
新免の喉が、渇きで引きつった。
かつて虎皇館で「燃え尽きた」はずの男。自分が背中を追うことすら諦めたはずの先輩。だが今、コートの端に立つ守屋の背中は、自分が必死に追いかけている「一軍」の怪物たちと同じ風格を纏っていた。
「……あの先鋒……」
新免の視線が、瞬に止まる。滑るように動く足腰。相手の「出頭」を正確に射抜く、あの淀みのない面。
(あいつだけじゃない。あの野獣のような大将も……。どいつもこいつも、Bリーグのレベルに収まってねえ)
新免は、一軍に選ばれなかった「残りカス」としてここにいる。だが、自分たちは『虎皇館』の看板を背負っている。たとえ二軍であっても、負けは一切許されない。
「……面白い」
新免は、自嘲気味に口角を上げた。
「見せてやるよ。あんたが捨てたところが、どれほど偉大かをな」
ついに、明鏡館がAリーグに足を踏み入れた。その瞬間、会場中の視線がその試合場に集まった。
試合直前。明鏡館の控えスペース。
防具を整える五人の前に、康介がゆっくりと歩み寄った。
「……ついに来たな」
その声は、いつになく低い。瞬が面の下から康介を見上げる。
「次が、本番だってことですね」
「そうだ。次に当たるのは『虎皇館』の名を背負った奴らだ。たとえBチームだろうが、あいつらの根底にあるのは大河内の教え――『勝つこと以外、存在価値はない』という狂気だ」
康介は、対峙する虎皇館の面々を見据えた。
「新免たちは、一軍に上がるために死に物狂いで牙を剥いてくる。あいつらにとっても、お前たちにとっても、この試合は単なる練習試合じゃない。王者に食らいつく『片道切符』を懸けた勝負だ」
康介が、五人の顔を一人ずつ見つめる。
「お前たちに、その覚悟はあるか?」
大吾が顔を両手で叩き、守屋が静かに立ち上がる。凛は鋭く息を吐き、佐伯は眼鏡の奥でシミュレーションを終えた。
「……決まってます」
瞬が、一歩前に出る。
「僕たちは、あの頂点を獲りに来た。……新免には、どいてもらいます」
康介は、初めて微かに口元を緩めた。
「……行ってこい。明鏡館の剣を、大河内の耳まで届けろ」
明鏡館が、ついに王者の門番・新免と激突する。
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